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 僕は……  作者: イナカのネズミ
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〜 フランス・ノルマンディーの休日 ⑤ 〜

〜 フランス・ノルマンディーの休日 ⑤ 〜




 


 シャンボール城、ブロワ城、シュヴェルニー城、シュノンソー城……

 全てオルレアンからトゥールに至るまでのロアール川周辺に立ち並ぶ古城である。


 オルレアン近郊からトゥールまで車で約2時間、100キロほどの道のりである。



 トゥールからロアール川沿いに更に西に行くとナントがありその途中にもランジェ城、アゼルドリー城などがある。


 この周辺はロアール川に沿ってフランス古城が立ち並ぶ古城街道なのである。



 シャンボール城に到着するとパソコンの壁紙のような景色が広がっている。

 「良い所だね……」

 「でも……人が多いね……」

 有名な観光名所だけの事はあり世界中から多くの観光客が来ている。

 観光バスが何十台も列を成し駐車場の確保も大変なのである。


 ロワール地方最大規模の城だけの事はあり見学に最短でも2時程かかる。

 レオナルド・ダ・ビンチの二重螺旋階段が有名な城である。

 周辺には規模の小さいレストランが沢山あるが僕の目当てのレストランはここにはないのである。


 見学を終えた後で目当てのレストランへと向かうのだが……


 「確かこの辺なんだけど……」

 僕はパソコンの画面を見ながら困ったように呟く。

 ナビゲーションの通りに目的地に着いたものの目的のレストランが見当たらないのである。

 

 goog△eストリートビューで辺りの風景と照らし合わせるがそれらしきものは見当たらない。

 ナビゲーションあるあるである。

 "そういや、以前にも騙された事あったよなぁ〜"

 以前にとんでもない山奥にナビゲーションされた時の記憶が僕に蘇る。


 すると……

 "ce qui s'est passé?"

 (どうしたんだい?)

 通りすがりのおじさん話しかけてくれる。

 メリッサがおじさんにレストランの事を尋ねる。

 すると、おじさんは目の前の民家を指差す。


 "merci"

 (ありがとう)

 メリッサがおじさんにお礼を言う。

 「あの家がレストランなんだって」

 看板も案内板も無い上に外見は何処からどう見てもフランスの古民家である。


 メリッサがゆっくりと車を走らせる。

 「あっ、ここが駐車場みたい……」

 メリッサの視線の先を見ると小さな立札が僕の目に留まる。


 立札には"rivière parking"と書かれている。

 車が3台程停められる駐車場は何処から見てもただの雑草の生えた空き地である。

 だが、立札は間違いなく僕の目当てのレストランrivière(川)と書かれている。

 車を停めるとレストランらしき民家へと向かう。

 

 「本当にここなの?」

 メリッサは不安そうに呟く。

 何処からどう見ても普通の民家である。


 "Y a-t-il quelqu'un ?"

 (誰かいますか?)

 メリッサは恐る恐る玄関先で問いかける。


 すると木のドアがゆっくりと開き中からおばさんがひょこりと顔を出す。


 "Est-ce un restaurant (rivière)?"

 (ここはレストラン"川"でしょうか?)

 メリッサが尋ねるとおばさんはニッコリと笑って頷くと僕とメリッサを案内してくれた。


 玄関から土間を抜けるとこぢんまりとした庭園風の中庭に出る。

 そこには3組のテーブルと椅子が置かれている。

 僕達の他に客はいないようである。


 僕とメリッサはおばさんに案内されて一番奥の席に座る。

 暫くするとおばさんが小さな手書きのメニュー表を見せてくれる。

 "C'est le déjeuner d'aujourd'hui."

 (今日のランチです)

 "Êtes-vous d'accord?"

 (これでいいかな?)

 おばさんの問いかけに僕とメリッサは頷く。

 

 どうやらランチは1種類しか用意されていないようである。


 暫くすると料理が運ばれてくる。

 レストランの店名通り川魚料理である。

 ブロシェと言う川カマスの白バターソース添え、ビジャーヌと言う田舎のスープ、シュェーと言うキャベツのサラダ、パンとチーズ、リンゴのデザートにコーヒーであった。


 おばさんはメリッサにワインを薦めているようだったがメリッサは僕の方をチラチラ見ながら残念そうに断っていたのがとても気の毒であった。

 そう、この辺りは白ワインの名産地なのである。


 顔で笑っているメリッサであったが心の中では血の涙を流してい事であろう。


 料理はとても美味しかった上に価格も安く僕もメリッサも大満足であった。


 

 気を良くして次の目的であるブロワ城へと向かうのであった。


 やはり、ここも観光客で賑わっている。

 足早にブロワ城の見学を終えるとシュヴェルニー城へと向かう。


 シュヴェルニー城は内部の調度品が当時のままで保存されている。

 年季の入った調度品の数々は骨董品が好きな僕にとっては見応えのあるものであった。


 最後にシュノンソー城へと向かう。

 シェール川を横切るように建てられた水上に浮かぶ幻想的な古城である。

 

 広大な庭園には復元された16世紀の農家があり映画に出てきそうな雰囲気である。

 感動している僕とは対照的にメリッサにとっては自分の実家とさして変わらない事だったのであろう。



 予定の全ての古城を見学し終えた頃には6時過ぎになっていた。


 ほぼ僕の立てた計画通りの時間であった。

 

 「日本の電車がどうして1分も遅れないのかわかったような気がするわ」

 「私達、フランス人には絶対に無理ね」

 メリッサは感心しているのか呆れているのかわからない口調で僕に言う。


 ご多聞に漏れずフランスの鉄道も遅延や運休などは日常茶飯なのである。

 観光シーズンやバカンスの最中に工事で1か月間運休なんて事もあります。

 ほんの数分の遅延でも気にする日本人からは想像もできないのである。


 日本なら責任者の首が飛ぶ事であろう。



 逆に言えば、日本に観光に来た欧米人観光客が台風などの影響で鉄道が遅延したり運休したりしてもさして文句も言わなければ慌てもしないのはそのためである。




 帰りは時間無いので夕食は簡単なもので済ます。

 皆さんご存知のマク◯ナルドである。

 ドライブスルーでハンバーガーセットを受け取り少し走った所で車を停めハンバーガーを食べ終わると帰路に着く。


 少し走ると渋滞に出くわす。

 観光地ではよくある事なので仕方がないのではあるが……

 僕は携帯電話で混雑状況を確認する。


 「えっ!どう言う事っ!!」

 僕の驚いた声にメリッサが反応する。


 「どうしたのカネツグ?」

 「急に大声なんか出して……」

 メリッサの問いかけに僕は……


 「トゥールからオルヌ方面への道路が……」

 「事故で通行止めだって……」

 僕の言葉にメリッサは茫然とするのであった。

 

 ここにきて、最後の最後で僕の計画は見事に崩れ去る。

 完全に予想外のアクシデントであった。

 



〜 フランス・ノルマンディーの休日 ⑤ 〜



  終わり




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