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 僕は……  作者: イナカのネズミ
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〜 フランス・ノルマンディーの休日 ② 〜

〜 フランス・ノルマンディーの休日 ② 〜



 フランス、ノルマンディーと聞けば殆どの日本人は第二次世界大戦のノルマンディー上陸作戦を想像するだろう。


 実際に僕もそうである。

 だが、ノルマンディー地方はフランスの裏庭的な存在で素晴らしい歴史と文化がある地方なのである。

 特にチーズとリンゴの酒は有名である。


 

 今、僕とメリッサはオマハビーチにいる。

 ノルマンディー上陸作戦が行われた場所である。

 海岸線には、当時ナチス・ドイツが築いた弾痕の残るトーチカが今も残り、かつてここで激しい戦闘があった事を思い起こさせる。


 実の母ではないがハンナはドイツ人であり、ハンナの祖父はドイツ空軍ルフトワッフェの戦闘機パイロットであった。

 それを想うと、僕は何とも言えない気分になるのであった。


 連合軍の戦死者の墓地、博物館などもあり観光客も大勢いる。

 メリッサと僕もその観光客である。

 

 敵味方で約13000名もの戦死者を出した、かつてのヨーロッパ戦線最大の激戦地も今や観光地なのだと思うと時の流れを感じさせる。

 そして、今が平和であると言う事、戦争の無い時代の国に生まれてこられた事を神に感謝するしかない。


 因みに、この一連のノルマンディー解放の戦いでフランス国民約20000名が亡くなっている。

 更に、連合軍の上陸前の準備爆撃で約15000名が亡くなっている。

 実に約35000名ものフランス民間人が戦いに巻き込まれて亡くなっているのである。

 この人数はアメリカ軍が被った戦死者数を遥かに超える人数である。


 連合軍の空爆で死亡したフランス国民の総数は70,000人にも達するのである。

 因みに、メリッサの曽祖父の兄がノルマンディーの戦いで亡くなっているそうである。



 何度も何度も映画になったこのノルマンディーの戦いの本当に描くべき事実はここにあるのであるが、この事実がハリウッド映画やドラマに描かれる事はまずないだろう。


 これは、中東地域で現在進行形で起きている事と全く同じ事である。


 これが、斎藤と出会うまで世界史が好きであった僕の脳に記録されている史実である。



 一通りの観光スポットを巡り帰りにカーンで少し遅めのランチをとる。

 カーン風牛の胃の煮込み、ジャガイモのサラダ、野菜のノルマンディ風スープであった。

 その後でカーン観光、カーン軍事歴史博物館などを見て回った。

 やはり、この辺りの博物館は第二次世界大戦のD-DAYに関する展示物が多い、あとは教会などを見て回り帰路に着くのであった。


 宿に着いたのは午後5時頃であった。

 6時過ぎから夕食なので暫く部屋でのんびりとする。

 

 「今日はありがとう」

 僕はメリッサにお礼を言う。

 「長く車を運転して疲れたよね」

 椅子に座って一息ついているメリッサを気遣うように問いかける。


 「大丈夫よ」

 メリッサはそう言うとニッコリと笑うのだが……

 僕にはその笑顔には疲れが見えるような気がする。


 「明日はゆっくりしようか」

 「僕も少し疲れたから」

 僕がそう言うとメリッサは優しそうに微笑んで小さく頷くのであった。


 夕食を食べシャワーを浴びて部屋でのんびりと過ごす。

 気が付くとメリッサは眠っていた。


 "ありがとうメリッサ……"

 "そして、ごめんね……"

 僕は疲れて熟睡してるメリッサの頬にそっとキスをすると薄手の毛布をかけるとその横に潜り込む。

 いつも間にか僕も眠りに就いているのであった。


 

 次の日は遠出はせずにオーベルジュの辺りを散歩したりするなどゆっくりと過ごす。


 メリッサと一緒に近くの商店で地元の食材を買って一緒に昼食を作り。

 それと搾りたてのりんごジュースを手提げ鞄に詰め込んで近所をお散歩する。


 作ると言ってもハーフサイズのバケットを半分に切りハムとチーズ、野菜を挟んだサンドイッチのような物である。

 簡単な物だが素材が新鮮で良いのと外ご飯効果もあり凄く美味しい。


 長閑な田園風景の広がる近くの川沿いの木の下で食べた後で話をし、そのままお昼寝したりとゆったりと過ごす時間はメリッサと僕のお互いが過ごしてきた今までを話す絶好の時間であった。


 あちこち忙しそうに観光スポットやグルメを求めて出歩かずのんびり、ゆったりと時間を過ごすのである。

 これが本来のフランス人のバカンススタイルであり、僕は素晴らしいスタイルだと思う。

 我々、日本人も見習うべきであると心から思う。



 同時にメリッサの家族の事情もこの時に知る事になる。

 メリッサの家は代々続く農家でありその歴史はわかっているだけで200年以上だそうである。


 メリッサには4歳年上の兄がいて名前は"レイモンド・ベルナール"と言う。

 しかし、兄は家業の農家を継ぐ事を嫌い家を出てしまったそうだ。

 兄は幼い頃から音楽が好きでミュージシャンを目指しておりメリッサがギターを始めたのも兄の影響だそうである。


 当然だが、兄が家業を継がずミュージシャンを目指す事に父は猛反対であり激しい口論の末に兄は家を出て行ってしまいそのまま3年近く全く音沙汰無しの状態が続いているそうだ。


 偶然にも自分の本当の父と同じようなメリッサの兄の境遇に僕は驚いてしまうのであった。



 僕はと言うと……自分の実の母親が震災で亡くなり、今の母親は後妻で義理の母親である事、ドイツ人である事、妹の絵梨香が腹違いの妹である事などを話した。

 ただ、今の僕には本当の父と母の事は話せなかった。

 メリッサに隠し事をするようで少し後ろめたい気がしたのだ、本当の事を話すのにはもう少し時間が欲しいと思ったからである。


 あっと言う間に時間が経ち陽が傾く。

 オーベルジュに帰った僕とメリッサは明日の予定を話し合う。


 「ルーアンとオルレアンなんかどうかしら……」

 「ジャンヌ・ダルク所縁の街よ」

 「地理的に離れているから……」

 「一日で両方を廻るのは無理だけど……」

 メリッサはそう言うと僕は頷く

 

 「ジャンヌ・ダルクか……」

 「いいよ、メリッサ……」

 「時間は十分にあるから」

 僕はそう言うとニッコリと笑った。

 そうしていると6時を知らせる携帯電話の時報が鳴る。

 7時からメリッサお勧めのブイヨンで夕食をする予定なのだ。


 フランスのブイヨンとは日本の大衆食堂のような店である。

 気軽に友人や恋人とワインを飲みながら食事をする店である。



 「ここから車で20分ぐらいかな」

 「私は車を運転するから飲まないけど……」

 「カネツグは飲んでもいいわよ」

 メリッサはそう言いながら出かける支度をしている。


 因みに、フランスやドイツではワインやビールは16歳、ウイスキーやブランデーなのどの蒸留酒は18歳から許可されている。


 「僕も飲まないよ……」

 「僕はお酒なんて飲んだことないんだよ」

 「それに、あんまりお酒には興味がないしね」

 僕がそう言うとメリッサは心底驚いたような表情になる。


 何故なら、フランス人にとってお酒は人生のパートナーでありお酒を飲む時間はとても大切な時間なのです。

 最近ではフランスの若者もお酒を飲まないようになってきてはいますがそれでもフランスのお酒の消費量は世界屈指です。


 "Le vin est la plus saine et la plus hygiénique des boissons"

(ワインは最も健康的で、最も衛生的な飲み物である)

       ルイ・パスツール


 長い間、パリの有名なサンラザール駅の壁に書かれていた日本でもお馴染みのフランスの生化学者・細菌学者のパスツールの言葉です。

 これからもフランス人にとってお酒は人生の重要なパートナーだと言うことがわかります。



 「そうなの……確か……」

 「日本は20歳にならないとダメなのよね」

 メリッサはそう言うと少し残念そうな表情になる。

 "カネツグと一緒にシードルでも飲もうと思ったけど……"

 “どうやら、ダメみたいね……"

 飲まないと言っておきながら、心の中で残念そうに呟くメリッサだったのだが……


 「僕も、もう直ぐ20歳だから……」

 「その時にはメリッサとお酒を飲んでみたいよ」

 僕は笑ってそう言うとメリッサも笑って頷く。


 「あっ!そう言えば……」

 「カネツグって何月産まれなの?」

 メリッサの突然の問いかけに僕は唖然としてしまう。

 今の今まで、お互いの誕生日を知らなかったのである。


 「ぶっ!はっはっはっ」

 僕とメリッサは同時に吹き出して笑ってしまう。


 「そうだね、そう言えばお互いに自分の誕生日を知らないんだよね」

 「僕は9月30日だよ」

 僕が自分の誕生日を言うとメリッサも同じように自分の誕生日を教えてくれる。


 「私は11月8日よ」

 メリッサの誕生日を聞いた僕は携帯電話をポケットから取り出してメリッサの誕生日をカレンダーにチェックするのであった。


 その後、メリッサお勧めのブイヨンで食事をとるのだが……


 「ワインならグラスに2杯までは大丈夫なのよ」

 結局、そう言ってメリッサはワインを飲んでしまうのである。

 当然、2杯で終わるはずも無く……



 当然ですが、フランスでも飲酒運転は犯罪です。


 しかし、車社会のフランスでは飲酒運転に対する罪悪感が薄く警察の悩みのタネの一つになっています。

 メリッサの言った"ワインならグラスに2杯まで大丈夫"と言うのはフランスではよく言われる事なのです。


 "グラスに2杯ぐらい"と言うのはアルコール検査されても基準量を上回らないだいたいの目安なのです。


 顔を赤くしながらも車を運転して帰ろうとするメリッサを必死で引き留めタクシーを呼んで帰る僕であった。


 その次の日の朝、メリッサは僕に説教される羽目になるのであった。

 何となく、メリッサが母のハンナのように見えてくる。

 "メリッサも普段は頑張っているんだし……"

 "まぁ、このぐらいならいいかな……"

 ハンナに対する、父の気持ちが少しだけわかる僕であった。


 結局、その日は車を取りに行ったりとどこにも行けずに終わるのである。


 早々に僕も運転免許を取得しなければならないと心から思うのであった。




〜 フランス・ノルマンディーの休日 ② 〜


 終わり

 

 

 

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