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 僕は……  作者: イナカのネズミ
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〜 運命の歯車 ② 〜

   〜 運命の歯車 ② 〜



 僕は今、飛行機でフランスのパリに向かっている。


 ロサンゼルス空港からシャルル・ド・ゴール空港の直行便で約11時間ちょっとの空路である。

 直行便は割高ではあるが慣れない空路でもあるし時間短縮になる。

 それに、何より早くメリッサに会えるからでもある。


 空港でメリッサと落ち合い、メリッサの地元ノルマンディーまで案内してもらうのである。

 宿泊施設は地元に詳しいメリッサがオーベルジュを予約してくれている。


 オーベルジュとは日本語では"旅籠"と言う意味である。

 宿泊施設を備えたレストランで部屋数は少なく20室程度で田舎の規模の小さいオーベルジュだと3〜5室程度の所も多い。

 メリッサが予約してくれたのは田舎の規模の小さいオーベルジュで部屋数は3室だそうである。

 添付の写真を見るとどちらかと言えば宿泊施設のあるフランスの古民家カフェと言った印象である。


 ノルマンディー地方の家庭料理が自慢のオーベルジュだそうで僕にとっては嬉しい限りである。

 メリッサには心から感謝である。



 飛行機の窓から外の景色を眺めているとメリッサの顔がボンヤリと浮かんでくる。


 今回の旅行、交通費に宿泊費等等で費用は100万円近くかかるはずである。

 本来なら無職の学生の身である僕に出せるような金額ではないので春に日本に帰らずに何とかして費用を工面しようとしていたのだが……

 

 その問題は予想外の臨時収入で簡単に解決できた。

 その臨時収入とは以前に某IT関連企業との契約により支払われたものである。


 ある日突然、僕のアイデアが正式に採用さた事を伝えるメールと同時に口座に振り込まれた莫大な金額を見て吃驚し貧乏性の僕の心臓は止まりそうになってしまった。


 お陰で今回のような長旅が悠々とできるのである。

 そして、以前から考えていたメリッサへのプレゼントも用意する事が出来た。


 "メリッサ、喜んでくれるかな……"

 僕はポケットの中に忍ばせた小さな箱を確認するのであった。


 まもなく空港に到着すると機内アナウンスが入る、キャビンに設置された機内モニターは時刻は現地時間で午後8時前である。


 飛行機が高度を下げるとパリの街の灯りが見えてくる。

 "翼よ、あれがパリの灯だ"

 某有名冒険家の名ゼリフが脳裏に浮かぶ。


 飛行機が着陸し搭乗口が開かれる。

 ゲートを通過すると僕はメリッサの姿を探す。


 「カネツグっ!」

 「ここよっ!ここっ!!」

 何処からかメリッサの声が聞こえてくる。

 僕は辺りを必死で見回すがメリッサの姿は見当たらない。

 言いたくはないが背の低い僕は周りの人が垣根になり周りが良く見えないのである。


 「メリッサっ!何処っ!!」

 僕は人目も憚らず思わずメリッサの名を叫ぶように呼んでしまう。


 「カネツグっ!」

 突然、僕は後ろからギュッと抱きしめられる。


 「うわっ!」

 僕は吃驚して思わず声を上げてしまう。


 「ごめん、驚かせて……」

 僕を驚かせてしまったと思ったメリッサはすまなさそうに謝る。


 「いいよ、気にしないで」

 「やっと会えたね」

 僕はニッコリと笑って言うとメリッサの目が少し涙目になるのがわかる。

 スリムなジーンズに白のシャツ、足元は青いスニーカーである。


 "いつ見ても本当に美人だなぁ"

 今更ながら僕はメリッサの姿に見惚れてしまう。



 暫くして、周りを通り過ぎる人達が微笑ましく僕達のことを見ている事に気付いて僕もメリッサも恥ずかしくなってそそくさとその場を離れて行くのであった。


 完全に2人だけの世界に入っていたのである。



 メリッサは僕を連れて空港を出ると近くの駐車場に入り一台の白い車の前で立ち止まる。

 「乗って」

 メリッサはそう言うとポケットから車のキーを取り出しドアロックを解除する。


 「えっ!メリッサって車の免許を持ってるの?」

 僕はメリッサが車の免許を持っている事に少し驚く。


 「どうして?持ってるわよ?」

 メリッサは当たり前のように言うと車のエンジンをかけて走り始める。

 「パリから私の実家のあるオルヌ県まで車で2時間ちょっとぐらいよ」

 そう言いながらメリッサは軽快なハンドル捌きで夜の混雑しているパリの道をスイスイと走っていく。


 "なんか……カッコいい……"

 僕にとって車を運転すると言うことは大人っぽく見えると言うことなのである。


 車を走らせなが僕とメリッサはこれからの予定を話す。

 僕は土地勘が全く無いので基本的に全てメリッサ任せである。


 徐々に家の数が減り辺りが暗くなっていくのが分かる。

 メリッサいわく、田舎なので車が無いと不便で生活出来ないとの事である。

 だからメリッサの地元では車の免許は生活費需品で持っていて当たり前なのだそうだ。

 因みに、今運転している車は実家の父の車だそうである。

 流石にマイカーはまだ持っていないようだ。


 メリッサの言う通り2時間ちょっとでメリッサの実家に到着する。


 「……凄いね……」

 僕は車から降りた僕はメリッサの実家を見て呟く。

 月明かりの中に歴史を感じさせる古くて立派な建築物が照らし出されている。

 斎藤の影響もあり建築物のことはそれなりの知識がある。


 メリッサの実家は、石と木骨組みでできたコロンバージュという伝統建築様式で、およそ16~19世紀に建てられたもである。


 「古臭いボロ家よ」

 メリッサは少し照れ臭そうに言うと僕を家に案内してくれる。

 

 "Maman... je suis de retour"

 「お母さん……戻ったわよ」

 "Parce que les clients viennent aussi"

 「話してたお客さんも来ているから」

 メリッサは時代を感じさせる木のドアを開けて中に入る。

 「カネツグも入りなさいよ」

 メリッサはドアの前で緊張して少し躊躇している僕の手を握り家の中に引き入れる。


 所々、現代の生活に合わせて近代化されているがメリッサの実家は映画やゲームで見るような中世の雰囲気である。

 "なんか……凄くいい……"

 僕は心の中で呟く。

 メリッサやリンダが僕の実家を見た時の気持ちがわかる僕であった。



 "Est-ce que cette personne est Kanetsugu ?"

 「この人が、あなたの言っていた人」

 僕が家に入ると少し太った女の人が僕の方を見ている。

身長は170センチくらいで長い金髪を編んで纏めている。


 どうやらこの人がメリッサの母親のようである。

 何故か妙に緊張する僕であった。


 "Oui, cette personne est Kanetsugu."

 「そうよ、この人がカネツグよ」

 メリッサはそう言うと僕は慌ててペコリと頭を下げる。

 "nice to meet you"

 "My name is Kanetsugu Izumi."

 慌てて英語で挨拶をすると頭を上げる。


 「……」

 女の人は手を差し出したまま僕の方を無言で見ている。

 どうやら握手をしようとして手を差し出したのだが僕が急に頭を下げてお辞儀をしたのでどうしていいのか分からずを困惑しているようだ。


 「プッ!ハハハハ」

 そんな僕の様子を見てメリッサは思わず笑ってしまう。


 "Maman, c'est une salutation japonaise."

 「お母さん、今のは日本式の挨拶よ」

 メリッサがそう言うと女の人はニッコリと笑う。


 「カネツグ、お母さんはフランス語しかわからないのよ」

 メリッサは僕にそう言うと女の人にフランス語で何かを言っている。

 しかし、フランス語の分からない僕には何を言っているのか全く分からない。


 「カネツグ紹介するわね」

 「この人が私の母の"リアーヌ・ベルナールよ」

 「父は用事で出かけていていないの」

 メリッサが母親の事を僕に紹介してくれるとリアーヌは再び僕に手を差し出す。

 今度はちゃんと握手する僕であった。


 "Ma fille m'est redevable."

 "Votre aide a permis à ma fille de se sentir mieux."

 "J'apprécie beaucoup."

 "S'il vous plaît, prenez bien soin de ma fille."

 僕にリアーヌがフランス語で何か言っているのだが僕には全く分からない。


 "とりあえずは愛想良くしないと"

 僕は心の中で呟くとリアーヌにニッコリと微笑む。

 するとリアーヌは嬉しそうに再び僕の手を握ると満遍の笑みを浮かべるのであった。


 「何て言っているの?」

 僕は隣のメリッサに小さな声で尋ねる。

 

 「そっ!それはっ!その……」

 メリッサは少し慌てる。

 「娘がお世話になっています」

 「これからもよろしくお願いします」

 「……って言っているわ」

 焦ったメリッサは咄嗟に少し内容を変更して僕に伝えるのであった。


 この時点で完全にリアーヌは僕の事をメリッサの結婚を前提とした恋人だと思い込んでしまったのである。

 当然、僕は全く気付いてはいないのである。



 「あまり時間が遅くなるとオーベルジュの人に迷惑だから……」

 「そろそろ、出ようか」

 メリッサはそう言うと僕の手を取る。


 すると、リアーヌさんが何か言っている。

 "Rester pour la nuit ?"

 "……"

 そんな、リアーヌさんにメリッサが何か言っているが僕には全く分からない。


 "これはフランス語を本格的に習った方がいいな……"

 "大学の外国語はフランス語で決まりだな……"

 メリッサとリアーヌさんのやり取りを見ていて僕はフランス語を本気で取得しようと思うのだった。


 ドイツ語にして楽をしようと考えていた僕らしからぬ判断であった。



 かくして、僕のフランス・ノルマンディー地方の旅が始まるのである。




   〜 運命の歯車 ② 〜

   

    終わり

 


 

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