〜 運命の歯車 ① 〜
〜 運命の歯車 ① 〜
僕は、鳴動する携帯電話に出る事も無く暫く呆然としていた。
「あっ!電話……」
正気に戻った僕は慌てて携帯電話にでる。
「あっ、カネツグ、昨日はどうしたの?」
「繋がらなかったんだけど……」
メリッサは心配そうに尋ねてくる。
"なんて言ったらいいんだろう……"
僕はメリッサになんと言ったらいいのか悩んでしまう。
"嘘を吐くのは嫌だな……でも……"
僕は少し悩んだがメリッサに本当の事を話す決心をする。
僕が今までの経緯を話すと電話口のメリッサは無言になる。
携帯電話の音声のみの通話なので相手の表情が全くわからないので僕は凄く不安になってくる。
こんな時"Face To Face"は重要なのだと痛感する。
「そう……そんな事があったんだ……」
メリッサは何故か納得したように言うと小さなため息を吐く。
「本当の事を話してくれてありがとう……」
「下手な嘘を吐かれるよりはいいわ」
メリッサはそう言うと急に声のトーンが真剣になる。
「ところでカネツグ……」
「その大富豪の1人娘のリンダさん……だったかしら」
「カネツグはどうなのかしら?」
当然だが、メリッサの言葉の口調は何処となく刺々しい。
この場合の"どう?"がどのような意味があるのか僕は悩んでしまう。
「"どう?"って言うと……?」
対応に困った僕は恐る恐る質問を質問で返す。
「……その気はあるの?」
メリッサの言う"その気"という意味がなんとなく理解できる。
「無いよ」
僕のひと言にメリッサの安心したような小さなため息が聞こえてくる。
「そう……」
そう言うとメリッサはいつも通りの口調に戻る。
このまま長電話しまうとメリッサの携帯電話代がとんでもない額になってしまうのでパソコンに切り替える。
ネット回線を使ったTV通話なので画面に映ったメリッサの表情がいつとも同じである事に僕は心から安堵する。
いつも通りの場所で、いつも通りの時間に、いつも通りの会話をする……
この当たり前が僕にとっては凄く安心できるのである。
その後、僕が心配していたような事は無く。
拍子抜けするぐらい何事も無く春期休みは無事に終わり……
そして、いつも通りの学生生活が始まる。
リンダは以前と変わる事なくいつも通りの学生生活を送っている。
ボリスも同じである。
僕もいつも通りの規則正しい生活を送り確実に単位を収得していく。
学期末まで残り2ヶ月程である。
何とか単位収得に目処の付いた僕は6月から9月まで3ヶ月もある長い夏期休みの予定を立て始める。
メリッサに会いにメリッサの故郷フランスのノルマンディーに行くためである。
幸いな事にフランスの大学もほぼ同じ時期に夏期休みがありスケジュール調整の方はさほど難しくはなったのだが……
ただ気掛かりなのは、僕がメリッサから聞かされたフランスの大学のカリキュラムが複雑怪奇でメリッサは相当苦労していると言う事である。
授業時間の長さが各科目で違っている事、長いと2時間もあり筆記試験も長いと3時間もあるのだそうだ。
殆どの科目においてオーラルテストがある事など……
僕はフランスの大学生は大変だなとメリッサに心からお見舞い申し上げるのであった。
オーラルテストとは教授と生徒が1対1で問答すると言う拷問に近いテストである。
日本の大学だと外国語の科目ぐらいである。
更に授業の始業時間や終業時間が決まっていない上に授業と授業の間に休憩時間がないのである。
規則正しい高野山の修行僧の如き生活を送っている僕には絶対に無理な環境である。
つくづくフランスに産まれなくてよかったと思う。
バカンスの時期と重なるので宿泊施設の予約はメリッサの勧めでかなり早め入れてある。
僕のフランスでの滞在期間は予定は2週間の予定である。
そんなこんなで、時間はあっという間に過ぎて学期末になり……
明日から夏期休みに入るのであった。
出発の当日、大きなリュックを背負い僕はメリッサに電話をする。
「これから出るから……」
メリッサに一言伝える。
空港に到着する時間と搭乗する便は既に伝えてある。
「わかったわ、空港で待ってる」
メリッサも一言で答えると電話が切れる。
僕もメリッサも、今までの数ヶ月間はずっとこの事を話していたので今更、お互いに何も言う事がないのである。
僕の長くて短い夏休みが始まる。
そして……止まっていた僕とメリッサの運命の歯車がゆっくりと回り始めるのである。
〜 運命の歯車 ① 〜
終わり




