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 僕は……  作者: イナカのネズミ
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僕は……第三章 それぞれの道…… ~ もう一人の僕 ➁ ~

僕は……第三章


それぞれの道…… ~ もう一人の僕 ➁ ~




 学校が始まって2か月以上が過ぎた。

 僕はいつもと変わらない生活を送り、修行僧のような規則正しい生活を毎日のように送っていた。


 しかし、妹の絵里香の生活は激変してしまった。

 その原因は、言うまでも無くテニスである。

 

 絵里香は、あの後で幾つかの全国ジュニアテニス選手権大会に参加し、その全てで優勝してしまったのだ。

 来年開かれるワールドジュニアテニス世界大会代表選考会に出場することが決まっていており毎日がテニス漬けの生活を送るようになっていた。


 本人はそんな事どうでもいいらしく、勉強しなくてもスポーツ推薦で結構いい大学に進学できるという事が最大の魅力のようである。

 いかにも絵里香らしいと言えば絵里香らしいのであるが、世間はそうではなかった。

 その容姿と風貌から、いわゆるアイドル的な存在となってしまったのである。


 全国ネット・テレビ局のニュース番組のスポーツ枠やテニス専門誌などでも度々、絵里香の事が取り挙げる上げられ、もはやちょっとした有名人と化していた。


 当然、絵里香に2つ上の兄がいる事も世間に知られる事となるのだが……

 これが一番、僕にとっては辛かった。

 何故なら、絵里香の容姿や風貌から誰もが高身長で金髪のイケメンを想像するからである。

 これは、絵里香がテニスで有名になる前からの事ではあるが今回は全国レベルなので辛さはその比ではなかった。

 一昔前の顔だしNGのアニメ声優の気持ちがよくわかる僕であった。


 それはさておき、家にいる時の絵里香は以前と全く変わらない。

 朝寝坊も治らないし風呂上り寝る時は相変わらずパンツ一丁に乳丸出しである。

 僕もいつしか諦めてしまい何も言わなくなってしまった。


 それに、合宿から帰ってきた時に絵里香の言った事も大きい。

 「合宿に行ったけど……皆、私と変わらなかったよ」

 「皆、練習で疲れて朝寝坊しまくりだし……」

 「練習が終わって宿舎に帰れば私と変わらないよ」

 絵里香の冷静な言葉と表情に全く嘘は感じられず、世の女共は男の目の届かない場所では同じなのかと思ってしまう僕であった。


 秋も深まってきたある日、僕は絵里香と一緒に2人だけで夕食のキノコ鍋をつつきながらテレビを見ていた。

 母は仕事で異国の空の上、父は仕事関係の用事で外出したままである。


 すると、テレビの画面に"和泉武夫"と表示されたのに僕と絵里香の箸が止まる。

 僕は、テーブルの上のリモコンを手に取り慌ててテレビのボリュームを大きくすると女子アナの声が明確に耳に入ってくる。

 「……秋の叙勲者が本日付で発令されました」

 「対象者は475名です」

 テレビの女子アナの説明に僕と絵里香が凍り付く、グツグツと言うキノコの煮える鍋の音だけが耳に届いてくる。


 「はぁ~よかった」

 「悪い事して捕まったのかと思ったわ」

 絵里香の呟くような一言に僕も激しく同感する。


 「……」

 テレビの声を小さくし2人で無言で再びキノコ鍋をつつき始める。

 「お母さんが知ったら……大変な事になるね」

 絵里香がポツリと言う。

 外国人の母はこの手の目出度い事には全身全霊で過剰なまでの反応を示すのである。

 「下手すると、もう一人……」

 「弟か妹が出来るかもしれないね」

 絵里香の一言に僕は何とも言えない気持ちになる。


 「はぁ~」

僕と絵里香は同じような深い溜息を吐くと無言でキノコ鍋をつつくのであった。


この時、僕も絵里香も全く父の叙勲と言う快挙を喜ぼうとはしなかった……

後で考えれば、なんと冷酷非情な兄妹なのだと思う。

この場を借りて絵梨香と一緒に父に謝りたい……



 それから数日後に家に帰ってきた母は僕と絵里香の予想通りにいつも以上にお土産を抱えて上機嫌で帰ってきた。

 玄関先で父に抱き着くと歓喜の言葉を連発しいつも以上に猛烈なベーゼをするのであった。


 母は、会社に1週間の休暇を貰い父と一緒に2人だけで温泉旅行に行くらしい……本当に弟か妹が出来るかもしれない。


 いつもは地味で存在感の全くない父だが、僕の目には輝いて見えた。

 そして、もう一人の僕がいつもの通りの質問を問いかけてくる

 "何がしたい……"

 当然、僕にはその問に答える事は出来なかった……




 それぞれの道…… ~ もう一人の僕 ➁ ~



 終わり




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