〜 カミラ・ロレンソ ② 〜
〜 カミラ・ロレンソ ② 〜
カミラは、僕とリンダが乗ったビジネスジェットが離陸して飛び去っていくのを見送くるとカルロスの方を見てニッコリと笑う。
「カネツグ君か……」
「私が想像していた子とは随分違っていたわね」
カミラは小さな声で呟くように言う。
「そうだろう……俺もそう思うぜ……」
カルロスはカミラの言葉に共感する。
「カネツグ君はリンダの生涯の伴侶というよりは……」
「良きアドバイザー、ビジネスパートナーになる子……」
カミラはそう言うとカルロスは少し複雑そうな表情になる。
「お前の言う事は正しいとは思うが……」
「当のリンダそうは考えてねぇぜ」
カルロスがそう言うとカミラは微笑みを浮かべる。
「そうね……あなたの言う通り……」
「……でも、"娘LOVE"のあなたはそれでいいの?」
リンダに対するカルロスの溺愛ぶりを知っているカミラは少し意地悪な質問をする。
「……まぁ……なんだ……」
「リンダには気の毒だがな……」
「カネツグはリンダの事を全く意識していない……」
カルロスはそう言うとカミラに日本の温泉施設での事を話す。
「……それ……本当なの……?」
カミラは少し驚いたようにカルロスに問い直す。
「……もしかして、彼……そっちの方の人なのかしら」
「見た目にも女の子みたいだし……」
カミラは僕が異性に興味を持たない人だと思ってしまうのだが……
「それは違うな……カミラ……」
「どちらかと言うとカネツグは聖職者だよ」
カルロスはそう言うとカミラは信じられないような表情になる。
「聖職者ですって……」
「あなたの口から"聖職者"って単語を出るなんて思いもしなかったわ」
「でも……本当にそんな人いるのね」
「お目にかかるのは初めてよ……」
「将来はローマ法王にでもなるのかしらね」
カミラは少し笑って言うとカルロスも呆れたように笑う。
「何にせよ、カネツグは金に群がる便所蝿のような奴じゃないぜ」
カルロスはそう言うとニヤリとする。
「まぁ……随分と信用しているのね」
「あなたらしくもない……」
カルロスの言葉にカミラは少し驚いたように言うのであった。
「ああ、カミラその通りだ」
「俺はカネツグを信用している」
カルロスはカミラの言葉を素直に認める。
「そう……」
カミラは納得したように言うと微笑みを浮かべる。
どうやら僕はカルロスとカミラからそれなりの信用を得たようである。
僕にその意思は全く無かったのだが……
この時にカミラの言った"良きビジネスパートナー"と言う言葉は後に事実となるのである。
「それより、日本で随分と楽しんできたようね……」
いつもより機嫌が良く表情の明るいカルロスの様子を見てカミラが問いかける。
「ああ……その理由は後で話すよ……」
カルロスはそう言うとカミラと一緒に迎えの車に乗る。
その後、カルロスは日本であった事を事細かにカミラに話すのであった。
僕が大学に戻ったその日の夜、実家の父から電話があった。
なんと、カルロスとカミラが2人だけで実家を訪れたようである。
(通訳と運転手は同伴している)
突然と言うわけではなく事前に父にカルロスの通訳からの連絡があったようであるが僕は全く知らなかった。
どうやら、あれから直ぐに再び日本へ行ったようである。
今更ながらカルロスの行動力と体力には驚かされる。
流石は亜米利加人、燃費は悪いがタフで馬力はあるなと思う僕であった。
父の話だと夫婦2人で日本観光に来ているそうで"木地屋の鰻"を食べに来たようである。
カルロスから鰻の話を聞いたカミラの願いでもある。
夫婦揃って数人前の鰻をペロリと平らげたと言って父は電話口で笑っていた。
父の様子からもカルロスとカミラは日本観光を満喫しているようである。
それはそれで良いのだが……
「お前、カルロスさんの娘さんとどう言う仲なんだ?」
突然の父の問いに僕は吃驚する。
「どういう仲って、ただの学友だけど……」
僕が焦って答えると父は電話口で暫く黙り込む。
「そうなのか?本当に?」
どうも、いつもの父とは違う反応に僕は嫌な予感がする。
いつもの父なら"そうか"の一言で終わるからである。
「だったら、ワシの聞き違いか……」
「通訳の人の間違いなのかも知れんな」
父は1人で納得したように言うが事情のわからない僕は凄く不安になってくる。
「あの、父さん……」
「通訳の人はなんて言っていたの?」
僕は恐る恐る父に尋ねると……
「確か、お前が大学を卒業したら"自分の家に欲しい……"とか言っていたはずだ」
「だから、ワシはてっきりお前とリンダさんが……」
「なんだ……その……そう言う関係なのだと思っていたのだが……」
「違うのか……だとしたら……」
父はそう言う再び電話口で黙り込んてしまう。
父の沈黙に僕は更に凄く不安になってくる。
「あの……父さん……」
「カルロスさんに何て言ったの?」
僕は恐る恐る父に尋ねる。
「あ……その……なんだ……」
「"息子の事をよろしくお願いします"と言っただけだ」
「お前とリンダさが"結婚"すると思ってな……」
「ただの勘違いだったようだな……」
父は大した事が無いように言う。
「へっ!!!……」
僕は電話口で頭の中が真っ白になり固まってしまう。
「カネツグっ!どうした!」
僕が急に黙り込んでしまったので父は心配しているようである。
「父さん……」
僕の死にそうな声に流石の父も慌ているのだが……
「どうした、どこか具合でも悪いのかっ!」
「腹でも痛いのかっ!」
「早く薬飲んで寝ろ」
「もう切るぞっ」
そう言うと通話がプツリと切れる。
心配の焦点が完全にズレている父であった。
僕は茫然自失になり固まっていると再び携帯がなる。
画面を見るとメリッサからであった。
〜 カミラ・ロレンソ ② 〜
終わり




