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 僕は……  作者: イナカのネズミ
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 〜 カミラ・ロレンソ ① 〜

 〜 カミラ・ロレンソ ① 〜



 僕達を乗せたビジネスジェット機は無事に亜米利加のヒューストン郊外の空港に着陸する。


 長時間フライトと時差ボケで僕は疲れ切っていた……と言うよりもカルロスに振り回されて疲れたと言うのが本当のところである。



 僕は飛行機から降りると大きな欠伸をし背筋を僕は伸ばす。


 「お疲れ様……カネツグ君……」

 「疲れたでしょう……」

 僕の様子を見てリンダがすまなさそうに言う。


 「確かに疲れたけど……」

 「久しぶりに実家に帰れたし……」

 「色んな事を経験できて有意義だったよ」

 僕がそう言うとリンダは少しホッとしたような表情になる。


 「これから直ぐに大学に戻る?」

 リンダが僕に尋ねてくるのだが……


 「リンダ、その子は?」

 突然、背後から女の人の声がする。


 「お母様っ!」

 声を聞いたリンダは少し慌てている。

 僕が振り返るとそこには女性が1人立っていた。


 女性は僕の方を見るとニッコリと微笑んでいる。

 フラメンコダンサーのような風貌、カールのかかった長い黒髪、ナイスバディで大人の色香を漂わせている。

 身長は180センチ近くありそうである。

 僕を見る眼はカルロスとは違い何処か鋭さを感じさせた。



 「お母様?」

 「この人がリンダのお母さん?」

 「……と言う事はカルロスさんの奥さん???」

 僕は信じられないように呟く。


 「初めまして、……カネツグ君……」

 「……だったかしらね?」 

 「カルロスの妻のカミラです」

 女性はそう言うと僕と隣にいるリンダに交互に視線を移す。


 「ふう〜ん、この子が……」

 カミラは僕を見て何か意味ありげに呟く。

 「カネツグ君、うちの亭主が……」

 「ごめんなさい……」

 「随分と迷惑をかけてしまったようね」

 カミラは僕に謝罪するのだが……


 「確かに始めは少し……いえ随分と戸惑いましたが……」

 「今はそうでもありません」

 僕がそう言うとカミラは少し目を細める。


 「……」

 暫く、カミラは無言で僕の顔をジッと見つめていると……

 「どうやら、本当みたいね」

 カミラはそう言うと微笑みをうかべると隣で心配そうに様子を見守っていたリンダの耳元で何か囁いている。


 「……」

 カミラがリンダの耳元で何を囁いたのか僕にはわからなかったのだがリンダが一瞬、恥ずかしそうな表情をしたようだった。


 そうしているとカルロスがこちらへやって来る。

 「おっ、カミラ、来ていたのか……」

 カルロスはそう言うとカミラの傍に行くと軽く頬にキスをする。


 「貴方、今日は随分とご機嫌なのね」

 カミラがそう言うとカルロスはニッと笑う。

 「理由は何となくわかるわ」

 カミラはそう言うと僕の方を見る。

 「カネツグ君、よければ少し付き合ってもらえないかしら……」

 カミラが問いかけてくると僕は快く頷く。



 この時に、この誘いを断わり大学に戻っていればよかったのかもしれないのだが……

 今となっては'後の祭り"どうしようもない事である。


 

 その後、車に乗りカミラさんお勧めのレストランへ向かう事になるのである。


 かなり高級そうなレストランの前で車が停まるのかと思えば正面玄関を素通りして裏手に車が停まる。


 レストランのスタッフが何人か出迎えに出ているのが見える。

 車を降りるとカルロスとカミラさんとスタッフの1人と何か話をしているようである。



 「あの人、このレストランのオーナーシェフよ」

 僕の傍にいたリンダが僕にカルロスとカミラに話をしている男の人の事を教えてくれる。

 「彼がここにレストランを開業する時にパパが援助したのよ」

 「今でも恩に思っているみたいで……」

 「パパやママが来るとああやって挨拶に来るのよ」

 リンダはそう言うと少し呆れたような表情になる。


 "ボリスといい、このレストランのオーナーシェフといい……"

 どうやらカルロスは意外と人から好かれているのかも知れないと思う僕であった。


 

 暫くするとレストランのスタッフが案内してくれる。

 僕達が案内されてのはレストランのゲストルームだった。

 簡単に言うと貸切の個室である。


 特別な客のための一般客とは完全な切り離された部屋で特別な時間を料理を食べながらゆっくりと過ごすための空間である。

 内装から古いヨーロピアンスタイルのカフェをイメージしているようである。



 大きな木のテーブルに僕とリンダ、その正面にカルロスとカミラが座る。


 コース料理らしく食前酒から始まりデザートで終わるフランス料理のようであるが……


 出される料理は少し違っている。

 どうやら、この店のシェフの創作料理らしい……


 こんな事を言っては失礼だが米国はイギリスと並んで飯マズ国の最上位国なのである。

 最近では随分とマシになってきてはいるのだが……。


 これまた、ご馳走してもらってこんな事を言うのは大変失礼なのだが盛り付けは素晴らしいが味の方はハッキリ言って大した事なかった。

 ただ、巷に溢れている亜米利加飯よりは遥かに良い。


 そんな僕の様子を見ていたカミラが……

 「貴方のお口に合わなかったしら……」

 そんなカミラの一言に僕は"ドキッ"とする。


 "この人、鋭い……"

 僕は驚き思わず心の中で呟いてしまう。

 この人には適当にお茶を濁すと言う訳にはいかなさそうである。


 「そうですね……」

 「日本人の僕には少し味付けが濃いようです」

 僕はカミラに素直に自分の思っている感想を言う。


 「ふうん……」

 カミラはそう言うと何故か微笑んだ。

 「日本人は本音と建前は違うと思っていたけど……」 

 「貴方はそうではなさそうね……」

 「意地悪してごめんなさいね」

 カミラはそう言うと今度はニッコリと笑った。


 僕は隣に座っているリンダが心配そうに僕を見ているのに気付く。

 それに、あのカルロスさえも凄く無口である。

 "あっ……そうか……そういう事か……"

 僕はロレンソ家が"カカァ天下"だという事に気が付く。

 "これは……マズい事を言ってしまったな……"

 カミラさんお勧め店の料理を美味しくないと遠回しに言ってしまったからである。


 「カネツグ君……だったわよね」

 「貴方はビジネスには向かない人……」

 「でも、信用できる人なのかもね」

 カミラはそう言うとリンダの方を見て意味ありげにニヤリと笑った。


 そんなカミラの様子を見てカルロスが呆気に取られた表情をしているのがわかる。


 そのまま何事もなく食事を終えると車に乗り空港へと向かう。

 このまま、リンダと一緒に大学へ帰る事になったからである。


 空港に到着するとビジネスジェットが待機している。

 僕はカルロスとカミラにお礼を言うとリンダと一緒にビジネスジェットに乗り帰路に着くのであった。



 〜 カミラ・ロレンソ ① 〜


  終わり



 


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