〜 カルロス・ロレンソ ⑧ 〜
〜 カルロス・ロレンソ ⑧ 〜
カルロスがリンダに蹴られた股間を押さえて呻き声をあげていると扉をノックする音がして施設職員の女性の声がする。
どうやら、料理を出す準備ができたようである。
「料理の用意ができたようですが……」
「……どうしますか?」
僕は股間を押さえて呻き声上げているカルロスに少し遠慮しながら問いかける。
「もっ、勿論、食うに決まっているだろ」
カルロスは苦しそうにそう言うとゆっくりと起き上がる。
「本当に凶暴な娘だぜ……」
「カネツグも注意すんるだぞ」
股間を押さえながらカルロスが僕に言うとリンダは少し恥ずかしそうにしている。
部屋の戸が開くと料理が運び込まれてくる。
畳8畳の和室の真ん中に置かれた木のテーブルに料理が並べられていく。
「……?」
料理を並べていると女性従業員のおばさんが"あれっ?"っという表情になると……
「あの……4名様ですよね?」
「人数を間違えたのかな……」
従業員のおばさんは少し困ったような表情になる。
それもそのはずで……僕が7人分の料理を注文していたからである。
「あっ!これで合ってます」
僕は困った顔している従業員のおばさんに言う。
「そうですか……」
従業員のおばさんは何処か腑に落ちない様子でそう言うと部屋を出て行く。
大食漢のカルロスの事を考慮して初めから3人分多めに注文してあったのである。
「おお〜ー!」
カルロスはテーブルに並べられた本格的な会席料理を見て驚きの声を上げる。
僕が注文したのはこの施設で出される最上級の料理である。
新鮮な地元の食材をふんだんに使った料理で値段の割にはかなりの物である。
綺麗に盛り付けられた料理を見てカルロスとリンダは嬉しそうである。
"やっぱり……この2人……"
"……中身は同じなのでは……"
そんな2人の様子を見て僕は心の中で呟くのであった。
「さっさと、食べようぜっ!」
カルロスはそう言うとテーブルの前に座り込んだ。
「もう……パパったら……」
さっさとテーブルの前に座り込んだカルロスを見てリンダが呆れてように言う。
そんな2人の様子を父は和かな表情で見ているのであった。
カルロスはいつも通り、もの凄い勢いで料理を次々に吸い込んでいく。
その隣でリンダがニコニコしながら食べている。
"どうやら気に入ってくれたようだな……"
僕は2人の食べる様子を見て安心したように呟くのであった。
僕の予想通りカルロスは3人分の料理を綺麗に平らげてしまった。
それよりも驚いたのはリンダが2人前の料理を綺麗に平らげてしまった事である。
「にっ、日本料理はヘルシーだから大丈夫よ……」
リンダは少し言い訳するように言いながら料理を食べる表情が何故か微笑ましく感じる僕であった。
料理を食べ終えて暫くすると父が温泉へ入る用意を始める。
「俺も行くぜ」
カルロスはそう言うと僕の方をチラリと見る。
"僕にも一緒に来て欲しいんだな……"
僕は心の中で呟くと温泉に入る用意を始める。
「リンダさん、1人でも大丈夫かな?」
僕が尋ねるとリンダは"OK"と言う手振りをする。
僕達は温泉へと向かうのであった。
僕が予約した貸し切り風呂は檜風呂である。
地元の特産の檜を使った風呂桶は大人4、5人が余裕で入れるぐらいの大きさがある。
他にも陶器製の大甕風呂や岩風呂なんかがある。
「ん〜なんか不思議な匂いがするな」
「でも悪くないな……」
カルロスは檜の香りを快く感じているようである。
カルロスはシャワーを頭からザバっとかぶると風呂に入る。
「ヴ〜〜ッ!」
カルロスは、何とも言えない不気味な呻き声をあげる。
「堪らねえぜ」
そう言うとカルロスは塩を振りかけられたナメクジのようにふやけて風呂桶に寝そべるようにしている。
"この人……風呂好きなんだ……"
"……でも……意外だな……"
"一年やそこら風呂に入らなくても……"
"平気そうに見えるのに……"
僕は風呂桶にドップリと浸かったカルロスの様子を見て失礼極まりない事を心の中で呟く僕であった。
その横で父は髪の毛も無いのにシャンプーで黙々と頭を洗っている。
「よう、カネツグも入れよ」
カルロスの言葉に僕もシャワーを浴びて風呂桶に入る。
「……ん〜〜ん……」
カルロスは僕を見て何故か考え込んでいる。
「まぁ……いいか……」
暫く悩んだ末に小さな声で何かを呟く。
その後、カルロスが父の背中を流したり、僕がカルロスの背中を流したりなど"裸の付き合い"して風呂を上がり部屋に戻ると……
リンダは待ちくたびれたのか畳の上で座布団を枕に大の字になって気持ちよさそうにやや大きな寝息をたてて爆睡しているのであった。
「酷でぇ格好して寝てるぜ……」
リンダの短目のデニム地のスカートは見事に捲れ上がり白いレースの付いた可愛いパンツが丸見えになっている。
「我が娘ながら……色気もクソもねぇなぁ……」
「普段から履き慣れなれねぇスカートなんか履くからだ……」
「……まぁ……その気持ちも解らんではないがなぁ」
カルロスはリンダの姿を見て哀しそうに呟くのであった。
僕と父は特に気にすることも無くリンダを起こさないように部屋の隅に座ると自販機で買ったペットボトルお茶を飲む。
普段から母のハンナや絵梨香の醜態を見ているので何とも思わないのである。
"リンダ……お前……"
"カネツグに完全に女として見られてねぇぜ……"
パンツが丸見えになっているリンダのすぐ横で全く気にするの事もなくペットボトルのお茶を飲んでいる僕と父の様子を見て我が娘の悲哀を心の中で呟くカルロスであったのだが……
何故か不思議な安心感を覚えるカルロスであった。
カルロスは小さなため息を吐き爆睡しているリンダの傍にゆっくりと屈むとリンダに気づかれないようにスカートを直す。
カルロスの思惑はさておき、僕からすればリンダが爆睡しているのは時差の事もあって疲れているだろうから当然だと思っているのである。
当然だが、この事をリンダは知らない……
その方が絶対にリンダのためでもある。
〜 カルロス・ロレンソ ⑧ 〜
終わり




