〜 カルロス・ロレンソ ② 〜
〜 カルロス・ロレンソ ② 〜
カルロス・ロレンソ……
いきなり、初対面で僕の股間の大切なモノをなんの躊躇いもなく握るという、このとんでもない非常識なオッサンはリンダの父親で資産500億ドルの亜米利加でも屈指の大富豪である。
「カネツグ君……」
「家の娘が世話になっているようだな……」
「せっかく来たんだから飯でもどうだっ!」
カルロスはそう言うと僕の肩に片手を掛ける。
"随分と馴れ馴れしいオッサンだなぁ"
僕は心の中で呟き、少し迷惑に思いながらもニッコリと笑う。
「まぁ、ゆっくりしていってくれよ」
カルロスはそう言うと使用人のおばさんが僕達を裏庭へと案内してくれる。
「……」
僕は、用意されている食材のあまりの量の多さに唖然とする。
裏庭のテーブルにはパーティでもするのかと言うぐらいの食材の数々が並んでいる。
中央に置かれた煉瓦造りのバーベキューグリルでは調理人が分厚いステーキを炭火で焼いている。
「今日、他にも来客があるのですか?」
僕は隣にいたボリスに尋ねる。
「いや……俺達、3人だけだ……」
諦めたようにボリスは言うと僕の肩に軽く手を乗せる。
「今日一日で一年分の肉を食う事になるぞっ!」
「覚悟しておいた方がいい……」
ボリスは哀れむような目で僕を見るのであった。
「まっまさか、この量を3人で食べ切るのかっ!」
「無理だっ!絶対に無理だっ!!」
どう見てもゆうに30人分以上はある食物の山を見て僕は絶望感に襲われる。
なんとも言えない恐怖心に襲われながらも僕は使用人のおばさんに言われるまま椅子に座ってしまう。
「さぁ!飯にしようぜっ!」
カルロスがそう言うと使用人の人達が一斉に準備を始める。
一枚で1Kgほどあるのではないかと言うぐらいの分厚いステーキが僕の前の皿に載せられる。
それから30分後……
「うぷっ!もっもうダメだ……」
ステーキを3枚食べた時点で僕の胃袋は満タン吹きこぼれ注意の危機的な状況になってしまう。
僕の隣りではボリスが黙々と食べ続けている。
ボリスの隣りではオッサンがビールを口にガバガバ流し込ながら、もの凄い勢いでステーキを吸い込んでいる。
"このオッサンの胃袋どうなってんだよ?"
まるでブラックホールようにビールとステーキを吸い込んでいくカルロスの食いっぷりに空いた口が塞がらない僕であった。
それから30分ほど経ち流石のボリスも胃袋が満タンになったらしく顔色がなんだか悪いのがわかる。
……だが、オッサンの胃袋はまだ余裕があるらしくビールとステーキを吸い込むペースは全く変わらない。
"このオッサン、化け物だ"
僕の目にはカルロスの食欲が信じられない。
以前にテレビで見た大食い女性タレントさんの姿がカルロスと重なる。
"もしかして、リンダさんも……"
僕はとんでもない所へ来てしまったとつくづく後悔するのであった。
それから更に30分後にようやくカルロスはナイフとフォークを置くのであった。
食い過ぎて動けなくなった僕とボリスは椅子に座ったままで1時間ほど休んだ後でようやく動けるようになる。
そんな僕にカルロスが話しかけてくる。
「カネツグは日本人なんだろう」
カルロスの問いに食い過ぎの僕は苦しそうに頷く。
「最近、この辺りでもよく日本人を見かけるようになったぜ」
「実は俺は"SAMURAI"が大好きなんだ」
「ガキの頃に見たSAMURAI映画に夢中になってな……」
「随分と"samurai item"をコレクションしているんだぜ」
「一度、見てくれねぇか」
カルロスはそう言うと嬉しそうに笑う。
まるで子供のような笑顔が印象的で今でも記憶に残ってる。
その時、僕は"外国人によくあるある"だな……ぐらいにしか思っていなかったのだが……
「これは……」
カルロスに無理矢理連れてこられたコレクション・ルームに入って僕は衝撃を受ける。
整然と並べられた武具甲冑は綺麗に手入れされているのが一目でわかる。
"この人、本当に好きなんだ……"
金持ちが財力にモノを言わせて高価な美術品を買い漁る事はよくある事である。
そして、大量に買い漁りロクに手入れもしない事もよくある事なのである。
しかし、この部屋にある物は全て手入れが行き届いているのである。
僕は飾られている武具甲冑を一つ一つ丁寧に観察する。
"どれもこれも、いい品ばかりだ……"
"このオッサン、意外とモノを見る目があるのかな?"
僕はオッサンの事を少し見直してしまう。
何故なら、よく手入れされ並べられた刀は見たところ全て正真正銘であるようで明らかな贋作・偽銘は一振りも無いからである。
甲冑や小道具の事は詳細まではよく分からないが刀に関してはここにある物は全て正真正銘であると思える。
この手の金持ちコレクターは必ずと言っていいほどに贋作・偽名の一つや二つは掴まされているものである。
恥ずかしい事だが、家の母がその典型である。
"あっ!これは……"
僕の父が打った刀が飾られている事に気付く。
"こんな所でお目にかかるとは思わなかったな"
僕は心の中でそう呟くと、不思議な気持ちになるのであった。
ふと視線を逸らすと部屋の片隅に置かれた段ボール箱の中の古ぼけた一振りの刀が目に留まる。
"……旧日本軍陸の軍刀か……"
拵え(外装)から段ボール箱の中の古ぼけた刀が旧日本軍陸の軍刀だと直ぐにわかる。
亜米利加には第二次世界大戦の戦利品として戦地から兵士が持ち帰った旧・日本軍の軍刀が多数国内にあり、ミリタリーイベントなんかで売られていたりするのである。
「これは……」
僕はカルロスに段ボール箱の古ぼけた軍刀の事を尋ねると……
「半年ほど前にミリタリーマーケットで買ったやつだ……」
「何故か分からんが、妙に引き寄せられてな……」
「確か……5,000ドルぐらいだったような……」
カルロスはそう言うと段ボール箱から古ぼけた軍刀を手に取る。
"この古ぼけた軍刀が5,000ドル(75万円)か……"
おそらく長い間、屋根裏や物置きの中で眠っていたのだろう。
長らく放置されていたので外装はかなり傷んでいるのがわかる。
「見せてもらってもいいですか?」
僕がそう言うとカルロスは快く頷き僕に軍刀を渡してくれた。
僕は柄を握るとストッパーを外し軍刀を抜き放った瞬間に眼を見張る。
「これはっ!間違いないっ!」
錆びてはいるが特徴的な作風からこの軍刀の刀身は紛れもなく"同田貫"である可能性が高いからだ。
慌てて柄を外し茎の銘を確認する。
「間違い無い、しかも"藤原正国"だ……」
「正真なら数百万円はする、掘り出し物だ……」
"同田貫正国"は質実剛健な肥後の名刀であり、かの"虎退治"の加藤清正が愛用した事でも知られている。
新撰組の隊士から時代劇の子連れ狼の拝一刀にまで愛用された刀である。
「兜割り正国」に代表される、質実剛健にして折れず曲がらず、美装よりも実用本位に鍛えられた実戦向けの刀である。
正真正銘の名刀である。
このように、戦利品として亜米利加に持ち帰られた軍刀の中にはとんでもない代物があるのである。
おそらく、旧家の子息が戦地に赴く際に家伝の刀を軍刀に仕立て直した物なのであろう。
「カッカルロスさん……これ……」
「凄い代物かも知れませんよ……」
僕が震える声で言うとカルロスは少し首を傾げる。
"刀がこの人を呼んだのかも知れない……"
僕は心の中で感動して呟く。
そして、この刀の特徴がカルロスさんと重なるような気がするのであった。
その後、僕はカルロスさんと武具甲冑の話題でそれなりに会話は盛り上がるのであった。
そんな僕とカルロスさんの様子を見てボリスは驚いているのであった。
そんな会話の中でカルロスが振った問いに僕が何気なく言った一言が……
予想外の展開をもたらすのである……
因みに、後々この古ぼけた軍刀は専門家が鑑定の結果、正真正銘の"九州肥後同田貫藤原正国"であると鑑定される事となる。
〜 カルロス・ロレンソ ② 〜
終わり




