〜 カルロス・ロレンソ ① 〜
〜 カルロス・ロレンソ ① 〜
時間は遡り、去年の年末……
父のカルロスから僕を家に連れて来るように言われたリンダ……
一応、返事はしたものの……
ここはアイダホ州のとある町……
広大なジャガイモ畑が広がる大地にポツンと一軒の家が建っている。
この典型的な亜米利加テイストの農家はリンダの親友?のマギー・フロイツの実家である。
年末を実家でのんびりと過ごしていたマギーの携帯電話が鳴動する。
携帯電話に表示された電話番号を見たマギーは目を細める。
「……」
マギーはひたすら鳴動し続ける携帯電話に手を伸ばそうとするのだが伸ばした手が携帯電話の手前でピタリととまる。
「……」
ひたすら蠢く携帯電話を恐る恐る手に取ると画面をタッチする指先が微かに震えている。
散々に悩んで躊躇した後でマギーは携帯電話に出る……
「ねぇ、マギー……」
「折り入って相談があるんだけど……」
案の定、いつも通りのリンダからの恋愛絡みの相談事であった。
"やっぱり……"
マギーは呆れたように心の中で呟くのだが……
リンダに父のカルロスが僕を家に連れて来るように言った事を聞かされると。
「彼を家に連れて来ては……」
「絶対に駄目だよ、リンダ」
「アンタの父親の狙いは彼をアンタから引き離す事……」
「アンタの父親の性格からすれば……」
「どんな汚い手段を使ってくるか、わかったもんじゃないわよ」
「適当に口実作ってはぐらかしなさい」
マギーの忠告は適切かつ正確であっまた。
リンダが僕に家に来るように声をかけなかったのはそのためなのである。
しかし、カルロスはそれで諦める男ではない。
いくら催促しても一向に音沙汰なしのリンダに痺れを切らす。
そして、お目付役のボリスに自分が直接、僕に会いにスタンフォード大学に出向くと言って来たのである。
その連絡を受け取ったボリスがどれほど慌てふためいたかは容易に察しがつくのである。
かくして、追い詰められたボリスは半ば拉致誘拐のような手荒な手段に訴えたのであった。
これが、飛行機が着陸する寸前にボリスが僕に話してくれた今回の経緯の説明である。
当然だがリンダは今回の件とは無関係で全く知らないと言う事をボリスは何度も何度も僕に念を押すのであった。
この事からもボリスはリンダの事を真剣に考えていると言うことがよく理解できる。
それにしてもリンダの父親は僕が思った以上に"困った人"のようである。
民間空港に着陸するとボリスに案内されてテレビで見るような車体の長いリムジンに乗せられてリンダの家に向かう。
広大なテキサスの大地に伸びた真っ直ぐな道をひたすらに走り続けるとギリシャ神殿のような巨大な建物が現れる。
「あっ、あの……もしかして……」
「あれがリンダさんのお家なのでは……」
僕の想像を遥かに超える、あまりの馬鹿デカさに僕は驚き目が点になってしまう。
「ああ、そうだ」
ボリスは明らかにビビっている僕を見て少し笑って答える。
「心配しなくていい……」
「俺が何とかしてやるから安心しろ」
ボリスはそう言うと何か策があるような表情を浮かべるのであった。
何だかボリスが凄くかっこよく見える僕であった。
玄関先にリムジンが停まると使用人が車のドアを開けてくれる。
僕はボリスに案内されて屋敷の玄関に入る。
"凄っ!"
僕は思わず心の中で声を上げる。
玄関だけで僕の家ぐらいの広さがある。
"天井高っ!"
フロア打ち抜きの天井の高さは教会の大聖堂のようである。
正面には左右に階段がありバルコニーのような廊下がぐるりと廻るように配置されている。
天井からは豪華な大シャンデリアを囲むように小さなシャンデリアがぶら下がっている。
床にはフカフカの真紅カーペットが敷かれ壁には見るからに高そうな絵画が何枚も飾られ壁際には女神なんかの大理石の彫像が幾つも並んでいる。
"家って言うより宮殿じゃない!"
ごく普通の日本人の僕の想像する日本の並の豪邸とはおよそかけ離れた代物であった。
「カネツグ君……」
間の抜けた顔をして茫然と立ち尽くしている僕の肩をボリスが軽く叩く。
「あっ!はいっ!」
僕は思わず返事をすると我に帰る。
「すいません……少し意識が跳んでしまいました」
我に返った僕はボリスにすまなさそう言う。
「まぁ、突然の反応だよ」
「俺だって初めて来た時は同じようなものだったからな……」
ボリスはそう言うと何か嫌な思い出があるかのような苦笑いをする。
「今日、リンダと母親のカミラさんは街に出て留守のはずだ。」
「家にいるのはリンダの親父1人だ」
ボリスの言葉に僕は凄く不安になってくる。
「あの……いきなり……」
「銃で撃たれたりしないでしょうね」
僕は不安そう言うとボリスは少しまを空けて苦笑いする。
「流石にそれは……無いと思うよ……」
ボリスの態度と表情、それに何となく歯切れの悪い言葉に僕は凄く不安になるのであった。
以前に銃撃事件に巻き込まれた僕にとってはボリスの曖昧な応答は僕の不安を更に煽るようなものであった。
暫くするとデカくて厳つい男性が姿を現す。
僕は、直感でこの人がリンダの"困った父親"のカルロスさんだと言う事がわかった。
「カネツグ君……彼がリンダの父親の……」
「……カルロスだよ……」
ボリスが隣で僕に小声で話しかける。
カルロスはゆっくりと僕の方に歩いてくる。
そして、突き刺さるような鋭い視線で僕を頭の天辺から足の先まで隅々まで見ている。
"これは……明らかに値踏みされている"
僕はカルロスが僕の事を品定めしているのだと感じるのだが……
"……ん、本当に男なんだろうな"
カルロスは僕を値踏しているのではなく……
本当に男か確認しているだけであった。
僕はカルロスの視線に困惑していると……
"グニュ!"
カルロスはいきなり僕の股間のモノを握った。
「ヒィ!」
僕は思わず悲鳴を上げる。
「……ん……この感触……ん……」
僕の股間のモノを握った手の感触を確かめるかのように呟く。
「一応は……付いている……みたいだな」
カルロスはまだ信じられないように言うと股間を抑えて真っ赤な顔をしている僕の方を見る。
「いやぁ……すまなかった」
「どう見ても女にしか見えねぇから……」
「手っ取り早く付いてるからどうか確かめせてもらつたぜっ!」
「ああ、言っておくが俺はゲイじゃないぞっ!!」
カルロスは僕にそう言うと豪快に笑った。
「すまない、カネツグ君……」
「親父……いくらなんでもやり過ぎだ……」
豪快に笑うカルロスを見てボリスは僕に謝り、諦めたように言うのであった。
全く悪びれもせず豪快に笑うカルロスを見て、何をするか解らないとんでもないオッサンだと思う僕であった。
カルロス・ロレンソ……
これが僕の最も恐れる"困った人"との出会いであった。
〜 カルロス・ロレンソ ① 〜
終わり




