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 僕は……  作者: イナカのネズミ
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僕は……第三章 それぞれの道…… ~ もう一人の僕 ① ~

僕は……第三章


それぞれの道…… ~ もう一人の僕  ~



 僕の妹の絵里香の通う学校は自宅の近くバス停から約30分の所にある女子短大付属の女子高校である。


 田舎のバスは本数が少ないので一本乗り過ごせば確実に遅刻してしまうので、いつも僕が早起きして絵里香を叩き起こしている。

 学費が年間約100万円と馬鹿高いので留年されると迷惑だからであり母の命令でもあるからである。


 絵里香の通う女子校は、あまり大きな声では言えないが地元では有名な滑り止めの女子高校である。

 要するに……絵里香は志望した公立高校受験に失敗し高い金を払って私学に通っているのである。

 因みに、中学時代から仲の良かった歴史オタ友3人組で一緒に同じ高校を受験したのだが絵里香だけが見事に滑ったのである。

 まぁ……本人は全く気にはしていないのだが……



 その絵里香だが最近はとても忙しそうである。

 その理由は、"インターハイ全国高校総体県新人大会"に出場していたからであった。

 そして、そのまま県の新人大会予選のテニス女子のシングルス部で優勝しそのまま全国に進出してしまうのである。


 夏休みが始まってからあまり家にいないと思ったらこれが理由だったのである。


 もともと、夏休み期間中もクラブの朝練で家を出るのが早くかったからでもあり。

 それに、絵里香も一言もそんな事を言わなかったので僕は全く知らなかった……


 僕がこの事実を知ったのは地元地方テレビ局のスポーツ報道で絵里香が取り上げられてテレビ画面に絵里香がアップで映って初めで知ったのである。


 その時の僕の驚きようは想像する易いと思う。

 田舎者にとってテレビに映るという事は一生に一度あるかないかという凄い事なのである。


 かくして、我が残念な妹はその容姿の良さも手伝い一躍、地元の有名人なったのであるが雑誌や新聞社のインタビューがきたりと本人は甚だ迷惑そうである。

 僕としては、"期待の新人"である我が妹の実生態が世間に露呈する事の方が恐ろしい……


 何故なら、8月の初めから某県で行われる競技日程に合わせて泊まり込みで遠征する事になったからである。

 つまり……怠惰でだらしない豚のような我が妹の実生態が世間の目に触れてしまう可能性があるのである。


 「我が和泉家の名誉のためにも……」

 「そして、絵里香の未来の為にも何とかせねばならない」

 「実際、このままだと他の人の大迷惑になるのは確実だ……」

 僕は絵里香の生活態度を犬並みにすると心に固く誓うのであった。

   (初めから日数も無いので人並みにする事は放棄している)

 父と母も世間に知れると"嫁の貰い手が無くなるから何とかしてやって欲しい"と言う切実な思いもあるのである。



 「絵里香っ! 朝だぞっ!!」

 「起きないと遅刻するぞっ!!!」

僕は、いつものように絵梨香の部屋の前で叫ぶ


 夏休み期間中にも関わらず、僕は朝の6時前に絵里香の部屋に行って起きるように言うのである。


 朝6時前なのは、絵里香の持ち帰ってきた"遠征のしおり"に朝6時に起床と書かれているからである、

……当然、こんな時間に起きるはずがないので仕方なく部屋に入る。


 絵里香はオタク・グッズが部屋中に無造作に散らばった汚部屋のベッドにパンツ一丁の乳丸出しで土方歳三の抱き枕を抱えて爆睡している。

 せめて、ブラジャーぐらい付けるように言っているのだが息苦しいとか言ってつけようとしない。

 だったら、Tシャツでもいいから着ろと言ってもこの有様である。

 まぁ、元々から低血圧で朝に弱いのは仕方が無いのだが流石にこれは酷い……


 「仕方がないか……」

 僕は母に教わった無慈悲な技を使う……

 因みに母は、有名な某テレビ・アニメの大ファンである。


 しかしそれは、とてもではないが花も恥じらう年頃の乙女にやるような事ではない。

 「えいっ!」

 僕は絵里香のお尻に指浣腸をおみまいする。


 「うっ!」

 絵里香はビクッと仰け反ると小さな悲鳴を上げて僕の非道な所行に怒りもせずにゆっくりと起き上がってくる。

 顔色はやや青白く生気がなくボサボサの髪の毛に半開きの腫れぼったい目……おまけにパンツ一丁の乳丸出しである。


 この乳丸出しゾンビの我が妹はそのまま無表情でフラフラと部屋の中を歩き始める。

 その姿は"〇撃の巨人"に出てくるパンツをはいた"女型の巨人"思わせ、不気味でとても人に見せられたものではない。


 「うつ!!!」

 そして、絵里香は再び小さに悲鳴を上げて蹲る、毎日のように床に放りっぱなしのオタク・グッズを踏むのである。


 母のいない日を除き、絵梨香こうしてようやく目を覚ますのである。


 母がいる日は根性で起きてくる、何故なら母の指浣腸は遠慮して手加減している僕などと比べ物にならないぐらい無慈悲で容赦なく強烈でベッドの上でのたうち回るほどに痛いからである。

 要するに本来、絵里香は起きようと思えば起きる事が出来るのである。


 トーストの上にチーズと焼いたベーコン、目玉焼きを載せ塩胡椒を軽く降った朝食を作る。

 それにレタスとトマトのサラダに牛乳をつける。

 絵梨香はそのトーストを二枚食べてサラダをお替りし牛乳をコップに3杯飲むのである。

 実に僕の2倍以上の量である。


 結局は僕の努力も報われず、朝寝坊を克服することなく遠征へと旅立つ絵里香が私に向かって問いかけた一言が印象的であった。

 

 「私……勝てるかな……」

 絵里香は家を出る少し間際に少し不安そうに私に問いかけてくる。


 「自分の思うようにすればいいよ」

 僕が笑って答えると絵里香は少し微笑んで頷き、家を出て行った。

 

 僕の不安を他所に絵里香は勝ち続け、なんと遂に優勝してしまう。

 初出場の無名の高校一年生が圧倒的な強さで全戦ストレート勝ち優勝するなどという前代未聞の出来事にマスコミの注目を浴び今度は全国ネットのテレビでその姿が流される事となる。


 インタビューで自ら朝寝坊の怠惰な生活と歴史オタの歴女であることをバラしてしまうが世間の反応は意外に好印象であった。

 流石の絵里香も毎朝、兄の"指浣腸"で目覚めるているとは言わなかった。

 

 僕はそんな絵里香がとても眩しく見え羨ましく思える。

 テレビの中の絵里香が別人のように輝いて見えるのであった。


 テレビの中の絵里香を見ていて自分はいったい何をしたいのかと自らに問いかけるが答えは出ない……

 僕には何も無いのだなとつくづく思い知るのであった。


 それから、薦められ言われるままに塾に通い始め、夏休みが終わり新学期が始まる。

 僕はいつもと変わらないリズムで最後の高校生活を送っている。

 普段と変わらない日常……僕にとってはこれが一番いいのだと言い聞かせる自分がどうしょうもなく空っぽで何も無いつまらない人間のように思えてくる。


 "自分には何が出来るのだろう……"

 "自分がしたい事は何なのだろう……"

 何度も何度も自問自答するが答えは出ずにいる。


 そもそも、こんな事など今の今まで考えもしなかった。

 このまま適当に目立たず生きて危険を冒さずに安定した職に就き、出来れば適当な相手を見つけて結婚して二人ほど子供を作り平凡な人生を送って、最後は苦しむこと無く楽にポックリと逝くというのが僕の描いた理想とする人生の筋書きであった。


 別段、打ち込める好きな事も目標も無い僕の中に、いつしか気付かない間にもう一人の僕が現れ今の僕に問いかけるようになっていた。

 

 やがて、そのもう一人の僕が今の僕を飲み込んでいく事となるのであるが、今の僕に分かるはずもない。


 現れたもう一人の僕が何なのか……

 それに今の僕が気付くのは、まだ先の事になるのである。




それぞれの道…… ~ もう一人の僕 ~


終わり


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