〜 リンダ・ロレンソ ③ 〜
〜 リンダ・ロレンソ ③ 〜
人の"運勢"とは本当にわからないものである。
"人が大成するには日々の努力と鍛錬が必要である"と言うのが僕の人生観である。
"日々鍛錬"の人生観は僕の父も同じ考えであるのだが、どうも絵梨香は違うようである。
しかし、その僕の人生観を根底から覆すのが偶然がもたらす"人の運"と"巡り合わせ"である。
例えるなら某パソコンのオペレーティングシステムで財を成した◯イクロ◯フトの◯ル•ゲ◯ツである。
近年、稀に見る"幸運の持ち主"である。
彼が今日の財を築くきっかけとなったパソコン用のディスクオペレーティングシステムは彼が作ったものではない。
貧乏性プログラマーから当時の金額にして約100万円で買い取った"ク◯ックディスクオペレーティングシステム"と言うディスクオペレーティングシステムの名前を"◯イクロ◯フト"ディスクオペレーティングシステム(MSDOS)と名前だけ変えて売っただけである。
売ったと言っても極端に言えば契約書にサインしただけで実際に売ったのは某I◯Mである。
当時、"電気の巨人"と言われていたI◯Mは新発売する小型コンピュータに付属させる適当なオペレーティングシステムを探していた。
当初、I◯Mの担当者は◯イクロ◯フトの◯ル•ゲ◯ツではなく別の人物が開発したオペレーティングシステムを採用するつもりでその人の元を訪れたのだが、偶々、その人が留守にしていて対応した妻は事情を知らないらしく担当者は後日再び来るようにした。
その次に担当者が訪れたのが◯イクロ◯フトの◯ル•ゲ◯ツである。
そして、担当者は◯イクロ◯フトの◯ル•ゲ◯ツのオペレーティングシステムを採用して付属のオペレーティングシステムとして販売したのである。
それが世界で爆発的に売れ、それと同時に◯イクロ◯フトのオペレーティングシステムも世界に広まったのである。
正に"稀に見る幸運の持ち主"であり"悪く言えば"世界で最も成功した転売ヤー"である。
この"運"と言うものだけは"努力と鍛錬"ではどうにもならないのである。
ビジネスマンが縁起を担ぐ訳がそこにあるのである。
なので、一流の商社マン達が大きな取引先際に必ず某神社に詣でたりするのである。
このような風習は形は違えど国や人種、文化や宗教を問わず、ありとあらゆる業種に見られる事である。
コンタクトをとってきた担当者は僕がスタンフォードの学生だと知らなかったようであり、少し驚いたのかと思っていたのだが……
これは僕の勘違いであり、後で担当者達は僕の事を中学生ぐらいの女の子だと勘違いして驚いていたのだそうである。
僕が男性でスタンフォード大学の学生であり今年で20歳である事を説明すると信じられないような表情になり、苦笑いしていたのを今でも鮮明に覚えてる。
彼等が僕のアイデアの採用に当たって提示した条件は既にテンプレとして確立されていおり、何の問題もなく仮契約に至った。
正式な契約は後日、春休み中に直接対面して行われる事になっている。
何だか信じられないような気がするがこれは紛れもない現実である。
因みに、このアイデアに関する全ての事項は契約により外部に一切洩らしてはならない事になっているので大学でも一部の人しか知らないのである。
当然、家族や親戚、友人もその対象でありメリッサにさえも言えない事になり心が痛む僕であった。
因みに、後日の正式な契約の内容だとアイデアの特許権は僕に属するのだそうである。
企業から僕に対して契約料と出荷額に応じて3%のロイヤリティが支払われるとの事である。
小難しい契約書を読破し、父と相談しながらの3日間は時差もあり相当な気力と体力を必要とするのであった。
春休み中で本当に運が良かったとつくづく思う僕であった。
現実とは思えない時間を何とか乗り切った僕にはとってメリッサとの束の間の会話は本当に心の支えとなった。
いくら感謝してもしたりないと心から思っている。
後でお金が入ったら何かメリッサが喜びそうなものをプレゼントしようと真剣に考えている。
それから数日後、僕はようやくいつも通りの生活に戻ろうとしていた。
春休み中なのでのんびりとした日々を過ごすつもりでいたのだが……
食堂で僕は不意にリンダのお目付役のボリスに呼び止められる。
「やあ、カネツグ……」
「折り入って君に相談したい事があるのだが……」
「少し、いいかな……」
真剣なボリスの申し入れに僕は快く頷くと僕とボリスは食堂の隅のテーブルに座りコーヒーを飲みながら話を始める。
「春休み中に2〜3日、付き合ってもらえないだろうか?」
ボリスは少し言いにくそうに僕に問いかける。
「……?」
「2〜3日ですか?」
僕は少し悩んだが、これと言って予定も無いので小さく頷くとボリスは安心したような表情になる。
「2〜3日ぐらいならいいですけどで……」
「いったい、何の用件なんでしょうか?」
僕が尋ねるとボリスは答えるのに少し間を置く。
「まぁ……そんなに大した事じゃない」
「明日でもいいかな?」
ボリスの問いかけに僕は頷く
「明日の朝、8時過ぎにここで待っててくれ」
ボリスはそう言うとカップに残っていたコーヒーを一気に飲み干すと足早に去っていくのであった。
"一体……何だろう……"
"明日の朝8時か……"
"まぁ、日本には帰らないし……"
"2〜3日ぐらいならいいかな"
この時、僕はそれほど深く考えてはいなかったのだった。
〜 リンダ・ロレンソ ③ 〜
終わり




