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 僕は……  作者: イナカのネズミ
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〜 メリッサ・ベルナール  ⑥ 〜



 〜 メリッサ・ベルナール  ⑥ 〜




 僕の実家でも大雪が降っていた。

 降り積もった雪の重みで木が倒れ側の送電線をなぎ倒す。

 辺りの家の灯りが一斉に消えて真っ暗闇になる。


 電気が止まり真っ暗になったリビングの中に父と絵梨香がいる。

 「停電か……」

 父はそう言うと仏壇から持ってきた蝋燭を江戸時代の骨董品の手持ち燭台に差し込むとマッチで火を付ける。

 真っ暗なリビングに蝋燭の灯りがぼんやりと灯る。

 「どうやら長引きそうだな……」

 「それに、随分と冷えてきたな」

 僕の実家でも大雪が降って停電しているのである。

 元々、山間部で夜は都市部に比べて気温が低く底冷えする事が多い。


 「絵梨香、ちょっとここで待っていろ」

 父はそう言うと蝋燭を手にフラッと立ち上がり暗闇の中に姿を消す。


 「ちょっと!パパっ!どこ行くのっ!」

 寒く真っ暗なリビングの中に1人取り残された絵梨香は怯えて不安になる。

 暫くすると父が口に燭台を咥え、手提げ袋、そして何か大きな物を重そうに抱えるようにして帰ってくる。

 「何それ……」

 父が抱えている物を見て絵梨香が尋ねる。


 「……」

 父は咥えていた燭台をテーブルの上に置くと……

 「ああ、コレは火鉢だ」

 父はそう言うとリビングの真ん中に火鉢を置き手提げ袋の中から炭を取り出すと新聞紙の上に載せマッチで新聞紙に火を付ける。

 暫くすると炭がオレンジ色の炎を上げ始める。

 炭の火起こしなどは、刀鍛冶として普段からやっているのでじつに手慣れたものである。


 父が以前に趣味で買っていた明治時代の骨董品の火鉢と鍛治用の炭を使って暖を取るのである。

 火鉢の炭に火が入ると父はキッチンのヤカンに水を入れ火鉢の上にかける。

 暫くするとヤカンの水が沸騰する。

 

 「お前も食うか?」

 父はそう言うと絵梨香はその意味がよくわからず首を傾げながらも小さく頷く。


 すると、父はキッチン横に積まれている絵梨香が買い込んでいたカップラーメンと割り箸を2つ持ってくると沸騰しいるヤカンのお湯を注ぐ。


 父と絵梨香は蝋燭の灯りの中で火鉢にあたりながら2人仲良くカップラーメンを啜るのであった。


 その日から、実家のある地域の停電が回復するのに約2日かかるのであるのだが……

 この2人は電気が無くとも生活に全く困る事は無かったのである。

 

 後々に聞いた父の話だと、若い頃は極貧で電気も水道もガスも無い生活を送っていた時代もあったそうである。


 やはり、"絵梨香は父の血を引いているようである"と確信した出来事であった。



 

 そして、僕はと言うと……

 メリッサと同じベッドに入ってるのであった。


 深夜になると室内は氷点下になり、

僕とメリッサはベッドに入って身を寄せ合っているのである。


 もはや、なりふり構っていられるような状態では無いのである。


 「メリッサ、大丈夫?」

 「寒くない?」

 僕がメリッサに問いかける。


 「そうね……」

 「寒くないと言えば嘘になるわね」

 メリッサはそう言うと少し体を震わせる。


 僕は、さっき貰った使い捨てカイロの事を思い出す。

 「ちょっと、待ってて」

 僕はそう言うとベッドから出て玄関先に置きっぱなしの使い捨てカイロを手にする。


 「それ……なに?」

 どうやらメリッサは使い捨てカイロを知らないようである。


 「使い捨てのハンドウォーマーだよ」

 僕はメリッサにわかりやすく説明する。


 「これをこうして……」

 僕は使い捨てカイロの風を切るとシャカシャカと振る。

 「暫くすると暖かくなってくるから」

 僕はそう言って使い捨てカイロをメリッサに手渡す。


 「寒いでしょう、早く入って」

 メリッサは僕がスエット一枚なので心配しているようである。

 僕は素直を頷くとメリッサの隣に潜り込んだ。


 「少し暖かくなったきたみたい」

 メリッサの使い捨てカイロが暖かくなってきたようである。

 「これ、便利ね……」

 メリッサはそう言うと指先を温めているのがわかる。


 「指先が冷えるの?」

 僕が尋ねるとメリッサは小さく頷く。

 僕がメリッサの手を握ると指先が思った以上に冷たかった。

 僕は自分の首筋にメリッサの指先を当てる。


 「カネツグ……」

 メリッサは小さな声で僕の名前を呼ぶと微笑む。

 「私……カネツグが好き……」

 自然と出てしまったメリッサの心の声であった。


 「僕も……同じだよ」

 普段の僕の性格からすれば簡単に口にできるような言葉ではないのだが、不思議とこの時だけは何の抵抗も無く自然と口から出ているのであった。


 因みに、この時の事は今だに思い出しただけでも恥ずかしくなる僕である。



 メリッサと僕はそっと目を閉じてるとキスする。

 そのまま抱き合うとお互いの心臓の鼓動が伝わってくるような気がする。


 柔らかなメリッサの体が僕を包み込む……

 僕の心が安心感と幸福感に包まれていくのが分かる。

 さっきまで冷えていた僕の体は何故か体の芯から暖かくなってくる。

 それは、メリッサも同じであった。


 そして……何だか……得体の知れない強烈な睡魔が2人を襲う。

 それから数分後……僕とメリッサは抱き合ったままで爆睡しているのであった……。

 


 〜 メリッサ・ベルナール  ⑥ 〜


 

  終わり



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