〜 メリッサ来たる ⑩ 〜
〜 メリッサ来たる ⑩ 〜
メリッサと絵梨香の3人で古民家カフェへと向かう。
正月の3日から営業しているのである。
天気は曇り空で真冬の冷たい風が吹いている。
「う〜寒い〜」
「今年は特に寒いね〜」
僕が体を縮めながら言う。
「昨日のニュースで言ってたけど……」
「今季、最強の寒気団が来るんだって」
「−40度とか言ってたよ」
「天気予報で関東で雪が降るって言ってた」
曇り空を見上げながら絵梨香が言う。
「−40度って……」
「寒いはずたよな〜」
僕は身を縮めて言うとメリッサは僕の横で笑っているのだった。
古民家カフェに到着して名物の"うな重"を3人前注文する事にする。
4人掛けのテーブル席、僕と絵梨香が隣りで僕の正面にメリッサが座る。
「メリッサも"うな重"でいい?」
僕が問いかけるとメリッサは大きく頷く
「"うな重"楽しみです!」
どうやらメリッサは"うな重"の事を知っているようである。
30分ほどしてから店の奥さんが"うな重"が運んでくるのが見える。
ここの"うな重"が美味いのは生け簀の生きたのをさばき、焼き立てを提供しているからである。
更に、奥さんが静岡の浜松出身で実家が老舗の鰻屋だからでもある。
初めの頃はそんなに有名ではなかったのだが、最近では美味いと評判になっている。
開店当初の古民家カフェというより鰻屋になりつつあるのであった。
「久しぶね」
僕と絵梨香を見て奥さんが話しかけてくる。
夫婦共々、我が和泉家とは長い付き合いがある。
本業は木地屋さんなのだが、今では鰻の方で名が通っている。
「お待たせ、うな重3人前」
そう言うと焼き立ての鰻が載った"うな重"が並べられる。
「oh!」
メリッサは小さな感嘆の声を上げる。
「フランスのボルドーにも鰻料理はありますが……」
「ワインと食べる煮込み料理です」
メリッサはそう言うと"うな重"を一口食べる。
「Est delicieux……」
メリッサは小さな声で呟く。
いつもながら、メリッサは箸を使うのが本当に上手だと思う。
その様子を見ていた店の奥さんはニッコリと笑う。
「この前の外人さんの女の子と違って……」
「随分と箸を使うのが上手だね」
店の奥さんのがそう言うとニッコリと笑って去っていく。
同時にメリッサの動きがピタリと止まる。
"この前の……女の子……?"
メリッサは小さな声で呟くと見を細めて僕の方を見る。
「……」
僕は突き刺さるようなメリッサの視線を感じて黙り込む。
隣に座っている絵梨香がニヤリと笑うと……
「この前の女の子って"ソフィ"のことじゃないの?」
絵梨香が白々しく僕に聞いてくる。
正面に座っているメリッサの目に疑惑の火が灯るのがわかる。
「ふう〜ん」
「ソフィさんね……」
メリッサはそう言うと黙って黙々とうな重を食べている。
何とも言えない気まずい空気が流れる。
そんな中でも絵梨香は僕とメリッサを観察していた。
"このメリッサっていう人……"
"本当に分かりやすいわね……"
"これだけハッキリしているのに……"
"兄さん、気付かないんだ……"
絵梨香は心の中で呟くと、何だかメリッサが気の毒になってくる。
「メリッサさん……」
絵梨香はそう言うとソフィの事を話し始める。
「何だ〜そう言う事なの」
メリッサは何故か安心したように言うと絵梨香の方を見てニッコリと笑った。
うな重を食べ終わり家に帰った頃には2時前になっていた。
「本当に寒いわね……」
絵梨香は寒そうに手を合わせながらそういうと
「メリッサさん一緒にサウナを入らない?」
サウナに誘うとメリッサはニッコリと笑って頷くと
「兄さんも一緒に、どう?」
僕は何も言わずにメリッサの方を見る。
メリッサは複雑そうな表情をしているのがわかる。
「遠慮するよ……」
僕はそう言うとメリッサは少しガッカリしたようなホッとしたような表情になるのであった。
本当のところはドイツのサウナでは老若男女、男女の区別はない。
僕もそれに慣れているので絵梨香やメリッサとサウナに入る事自体には抵抗は無いのだが……
何故か僕はメリッサの事を意識してしまうのであった。
絵梨香とメリッサがサウナに行き僕は1人になってしまう。
暇なので携帯電話に届いていたメールをチェックする。
"重要なのは無いな……"
"そう言えば、この前のアイデアのは……"
僕は大学から届いていたアイデア募集のメールに目を通しす。
メールの内容はIT企業のアイデア募集であった。
僕はとってはそれほど興味がある話ではないので気に留める事もなく充電器に携帯電話を繋ぎテーブルの上に置くとキッチンへと向かう。
餅と小豆缶を戸棚から出すと小豆缶を開けて鍋に移し砂糖と水を入れて煮込む。
3時のおやつの"ぜんざい"を作るのであった。
僕がキッチンで"ぜんざい"を作っている頃……
和泉家のサウナでは絵梨香どメリッサが無言でサウナに入っている、
お互いに相手の事を気にしながら横目で様子を窺っているのであった。
"やっぱり、凄いわね……"
絵梨香とメリッサはお互いの体を見て同じ事を心の中で呟く。
"何かスポーツでもしているのね"
"まるでゲームの戦士のよう……"
絵梨香の身体を見てメリッサは心の中で感心したように呟く。
"絵に描いたようなプロポーション……"
"アニメのヒロイン・キャラ見たい……"
絵梨香もメリッサの身体を見て同じように心の中でで呟く。
暫くの沈黙の後、メリッサは意を決して絵梨香に話しかける。
「絵梨香さんは何かスポーツでもしているの?」
メリッサが尋ねると絵梨香は小さく頷く。
「テニスを少し……」
本当はプロテニスプレイヤーなのだが、何だか恥ずかしくて本当の事が言えない絵梨香であった。
「メリッサさんもファションモデルかなんかじゃ……」
絵梨香がそう言うとメリッサは首を横に振る。
「モデルなんかじゃないわよ」
メリッサはそう言うとニッコリと笑う。
なんとも言えない雰囲気の中で、お互いに愛想笑いをするのであった。
そして、女同士の赤裸々な腹の探り合いが始まる事となるのであるのだが……
その頃、そんな事とはつゆ知らず暢気に2人がサウナからで出来たら餅を焼こうなどと思っているのであった。
〜 メリッサ来たる ⑩ 〜
終わり




