〜 メリッサ来たる ⑨ 〜
〜 メリッサ来たる ⑨ 〜
僕は今メリッサを連れて実家へと向かっている。
特急電車からローカル線に乗り換え最寄駅に到着した頃には昼前になっていた。
「ここから歩きだけどいいかな」
僕が問いかけるとメリッサは何も言わずに頷く。
"カネツグ、毎日こんな遠くから私を迎えに来てくれてたんだ……"
メリッサは心の中で呟く、その心の内は嬉しさと申し訳なさが半々であった。
「ここだよ……」
自宅に到着した僕がそう言うとメリッサは少し驚いている。
「凄い……正真正銘の日本建築……」
メリッサは小さな声で言うと実家をマジマジと観察している。
「入ってよ」
僕がそう言って玄関を開けると妹の絵梨香が顔を出す。
「えっ!」
絵梨香を見たメリッサの表情がさっきとは違った驚きの表情に急変する。
「誰?」
メリッサはそう言うと目を細めて僕の方を睨むような表情で見る。
「僕の妹の絵梨香だよ」
僕が絵梨香の事を紹介するがメリッサは腑に落ちなさそうな顔をしている。
予め予想はしていたのでメリッサに家族構成の事を話す。
「何だ……私、てっきりカネツグの……」
メリッサ安心したかのよう何かを言おうとするが途中で止めてしまった。
そんなメリッサの様子を見て絵梨香はニヤリとする。
"コミケで兄さんの隣にいた人よね"
"この人、兄さんの事が好きなんだ……"
絵梨香はメリッサの様子と表情を見て瞬時にメリッサの事を悟るのであった。
"それにしても本当に美人よね……"
"でも、兄さんには失礼だけど……"
"まるで、お母さんと子供ね……"
絵梨香は心の中で事実を呟くのだが……
"家の父と母も似たようなものなのかな……"
絵梨香は僕とメリッサをマジマジと見ながら何となく納得する。
「どうぞ上がって」
絵梨香はメリッサそう言うと僕の方を見てニヤリと笑う。
"なんか……嫌だなぁ……"
"絵梨香のあの笑顔……"
いつもながら絵梨香のスケベオヤジスマイルに嫌悪する僕であった。
メリッサは家の中を珍しそうに見ている。
「カネツグの父は何しているのですか?」
メリッサは父の事を尋ねてくる。
「刀工だよ」
僕が答えるとメリッサは首を傾げる。
どうやら"刀工"の意味がわからないようだ。
「japanese sword builder……」
英語訳で答えるとメリッサの目が輝く。
「KATANAを作る人ですか?」
メリッサの問いかけに僕が頷く
「fantastic!!!」
メリッサは感動したように言うと僕の方に興味津々な視線を送る。
「……」
僕には何のなくメリッサの言いたい事が分かる。
「KATAMA見る?」
僕がメリッサの熱い視線に負けて言うとメリッサは大きく頷く。
母の買い集めた刀が保管されている奥の和室にメリッサを案内する。
メリッサは畳の上に背負っていたリュックを降ろし正座して座ると……
部屋の片隅に置いてある刀箪笥を珍しそうに見ている。
「あの木の箱は何ですか?」
メリッサは初めて目にする刀箪笥の事を聞いてくる。
「刀を収める刀箪笥だよ」
僕はそう言うと背負っていたリュックを降ろし畳の上に置き、刀箪笥から刀を幾つか取り出す。
「カタナダンス?」
メリッサは聞き慣れない言葉を真似るように発音する。
「カタナタンスだよ」
僕がそう言うとメリッサは少し苦笑いしながらも刀箪笥を見ている。
「凄く美しいです」
化粧金具で補強されたこの刀箪笥は江戸時代後期に作られ200年の歳月を経た時代物が持つ凄みと貫禄がある。
「とても素晴らしい芸術品ですね」
メリッサは刀箪笥を食い入るように見ている。
取り出した刀の一振りを白鞘から抜き放つ。
絵梨香が狙っている"会津兼定"である。
僕が刀を両手で立てて構えると障子を通して差し込む陽の光を浴びて刀身が青白く輝き刃紋が浮き上がる。
「merveilleuse épée……」
メリッサは小さな声で呟く、僕は刀をメリッサに手渡す。
「oh……」
「lourd……」
震える手で刀を手にするメリッサ……
何も言わずにジッと刀を見つめている。
脇差し、短刀などをメリッサに見せながら色々と説明する僕であった。
そういているとリビングの時計が12時を告げる。
「お昼にしようか?」
僕がそう言うとメリッサはニッコリと笑って頷く。
刀を刀箪笥にしまうと和室を出る。
母は仕事、父は外出して留守なので絵梨香を連れて3人で以前にソフィと行った近所の古民家食堂に向かうのであった。
〜 メリッサ来たる ⑨ 〜
終わり




