〜 メリッサ来たる ⑧ 〜
〜 メリッサ来たる ⑧ 〜
荷物を持って宿を出ると駅に向かう。
駅のロッカーに荷物を押し込んでから電車の時間まで少し時間があるので辺りを散策する。
途中で見つけた古民家カフェで定食ランチの昼食を取り駅へと向かう。
"何だか、メリッサの足取りが妙に重いな……"
"それに、ずっと黙ったままだし……"
いつもと違うメリッサの様子を見て僕は心配になる。
そんな僕の心配を他所にメリッサはと言うと……
"あ〜私ってなんて勇気が無いんだろう"
"あの状況で2人っきりなのに何も無いなんて……"
"普通は無いわよね……絶対に……"
日本人とは違い恋愛に関してもハッキリとしたフランス人の10代、20代の女性の常識からすればあり得ない現実に心を痛めるメリッサであった。
かなりのハードスケジュールだったので疲れているのだから寝てしまったのは仕方のない事なのだが……。
"メリッサ、日本に来てから……"
"毎日のように出歩いているから疲れているんだろうな……"
"今日は、早めに切り上げた方がいいな……"
僕の判断は間違ってはいないのだが、本当のメリッサの心中を全く察していない僕であった。
と言うより双方の恋愛観の違いによるものである。
電車に乗りメリッサのホテルに到着した頃には3時ぐらいになっていた。
「今日は早めに切り上げて……」
「ゆっくり体を休めない?」
僕がそう言うとメリッサは少し悩んで小さく頷く。
「そうね、そうした方が何かとよさそうね……」
メリッサは昨日の大失態は"はしゃぎ過ぎて疲れていた"のが原因だと気付いているのであった。
「だったら……何か良いリラクゼーションはあるの?」
メリッサは僕に問いかける。
「リラクゼーション……?」
僕はそう呟くと以前に絵梨香が言っていたリラクゼーションの事を思い出す。
"確か……この辺りだったはず……"
僕は心の中でそう呟くと絵梨香にポケットから携帯電話を取り出してメールで連絡する。
暫くすると絵梨香から返信が返ってくる。
"予約制の店だけど空きがあれば飛び込みでもOKだよ"
絵梨香のメールには店の名前と住所が添付されていた。
"予約制か……"
"ダメ元で行ってみるかな"
僕は少し悩んだ後、心の中でそう呟くのであった。
メリッサはそんな僕の様子を伺っている。
「少し離れているけど良いのがあるよ」
「予約制みたいだけど空きがあれば入れるみたい」
「行ってみる?」
僕が尋ねるとメリッサは小さく頷く。
2人で絵梨香に教えてもらったリラクゼーション店へと向かう。
電車に乗り少し歩いて店舗に到着する。
店員さんに尋ねると空きがあったのでそこに入る事ができた。
ペアでのタイ式古式マッサージのリラクゼーションである。
1つの部屋に2人同時にリラクゼーションをしてもらえる。
"カネツグ……大丈夫なのですか?"
メリッサはアジアンテイストの怪しい店の雰囲気に不安になったようである。
"だっ大丈夫だよ…… "
僕は自信たっぷりに答えるのだが、本当は、僕自身も内心は不安でしょうがないのである。
2人並んで初心者にお勧め60分のコースを受ける。
絵梨香から貰った電子クーポンを使い2人で12000円也である。
30歳前後の東南アジア系の女性がマッサージをしてくれるようである。
「お客さん、どこ悪いのか?」
女性は独特なアクセントの日本語で訪ねてくる。
「足と腰かな」
僕がそう言うと女性は小さく頷く。
「この辺り、あるか?」
女性はそう言うと僕の足の裏をグッと押す。
"うっ!おっ!うぐっ!ふぐっ!"
"あひっ!あはっ!いっ!いいっ!"
"きっ効くぅーーっ!"
僕が思ってい通り足腰がとくに疲労が蓄積しているらしいので重点的に施術してもらった。
特に……このタイ式足ツボマッサージが効くっ!!!
"あひっ!こっこれ!くっ!癖になるっ!"
"あっ!あふっ!気持ちいいっ!!!"
余りの痛気持ち良さに僕は心の中で悶ながら叫ぶ。
"オウッ!アッ!ウゥッ!"
隣からメリッサの喘ぎ声が聞こえてくる。
どうやらメリッサも僕と同じようである。
1時間後、僕とメリッサは仲良く昇天しているのであった。
メリッサと2人、フラフラならなりながら店を出るのであった。
その後、近くの回転寿司屋で夕食を取る。
メリッサは20皿をペロリと平らげてしまうのであった。
因みに、メリッサの好物はワサビの効いたマグロである。
食事を終えてメリッサをホテルまで送り届け帰ろうとすると……
「カネツグ……明日は……」
「カネツグの故郷へ連れて行ってほしいてす」
メリッサはそう言うとニッコリと笑う。
「……いいよ……」
「明日、迎えにくるね……」
僕がそう言うとメリッサは軽く手を振って足早に去って行くのであった。
"メリッサが帰るのは4日だったな……"
"明日で僕のエスコート役も終わりなんだな……"
メリッサの後ろ姿を見送りながら、僕は心の中で少し寂しそうに呟くのであった。
メリッサの姿が見えなくなり僕は駅へと向かう。
電車に乗り次いで家に帰った時には7時を過ぎていた。
「あっ……安易に返事しちゃったけど……」
「メリッサの泊まっているホテルかるだと……」
「片道1時間以上はかかるんだ……」
毎日、特急を使って1時間以上かけてメリッサを迎えに行っていた自分に気付き少し驚く。
"僕はメリッサの事が好きなんだ……"
自分の気持ちに気付く僕であった。
〜 メリッサ来たる ⑧ 〜
終わり




