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 僕は……  作者: イナカのネズミ
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〜 メリッサ来たる  ⑤ 〜

 〜 メリッサ来たる  ⑤ 〜




 12月31日の大晦日……

 僕はメリッサと共に特急電車に乗り聖地巡礼に向かっていた。

 当然、目的地はアニメの聖地である。


 「あの〜カネツグ……」

 「何処に向かっているのですか?」

 何の説明も無く突然、僕に特急電車に乗せられたメリッサは少し動揺している。

 昨日、メリッサには温泉に行くから着替えを用意して欲しいと言ってあるのだが行き先は教えてはいない。



 「明日は、僕に付き合ってもらうけどいいかな?」

 昨日の帰り際、僕の突然の提案にメリッサは目をパチパチさせていたのだが……。


 「まぁ……いいけど……」

 僕の一方的で強引な提案にメリッサは少し不機嫌そうにするが同意する。



 メリッサは来日するにあたり周到に自分の行きたい聖地を絞り込んでいたのだが……

 その予定を無理矢理に変更してしまったのである。


 しかし、それにはちゃんとした理由があっての事である。

 実はその日に僕はメリッサのためにサプライズを用意していたのだ。


 電車を乗り継いで約2時間30分……目的地に到着する。

 

 「まさか……この場所は……」

 メリッサは欄干が朱色に塗られた橋、その向こうに見える建物を見て震える声で言う。


 「そうだよ……」

 僕は感動して呆然としているメリッサに答える。


 僕は、メリッサが某アニメの大ファンである事は以前から知っていた。

 幼い頃に観て以来ずっと好きで何回も何回も観ている事。

 そして、大学で会話してる時もよくそのアニメの事を話していた時のメリッサの楽しそうな表情。


 僕のサプライズとはそのアニメ舞台となった某温泉地への招待である。


 「ありがとう、カネツグ……」

 「凄く嬉しいわ……」

 メリッサはそう言うと目を潤ませている。

 

 「さあ、行こうか……」

 僕はメリッサの手を握ると温泉旅館へと向かう。

 「今日はここに泊まる予定なんだ」

 「僕からのちょっとしたサプライズだよ」

 僕がそう言うとメリッサは突然、僕を抱きしめる。


 「Merci pour la meilleure surprise de ma vie...…」

 「……Merci beaucoup ……」

 僕を抱きしめたまま呟くよう言うのだが……

 フランス語が理解できないのでメリッサが何を呟いたのかは分からず……

 僕はメリッサの胸の谷間に顔を埋めて息が出来ずにもがいているのであった。


 アニメ映画のモデルとなったと言われる橋を渡り、トンネルを抜けるとエレベーターがあり山荘へと上がる構造になっている。

 館内の通路は複雑な迷路のようで映画の世界観を彷彿とさせる。

 某アニメの全く同じような雰囲気にメリッサは感動し、無言で携帯電話で撮影し続けているのであった。



 旅館のフロントでチェックインの手続きをする。

 「和泉様……ですね」

 「確かに本日、1室2名様御予約承っております」

 フロントの受け付け嬢の言葉に僕は呆然とする。


 「あれ……1室2名様……?」

 受け付け嬢の言葉に僕は首を傾げる。

 「1室2名様ですか?」

 「2室2名で予約していないでしょうか?」

 僕が確認を取ると受け付け嬢はパソコンの画面を確認する。


 「いいえ、和泉様、1室2名様で確かに御予約承っております」

 受け付け嬢はそう言うとメリッサは少し照れているのがわかる。

 受け付け嬢の"何を白々しい、わざとでしょう"と言わんばかりの視線が僕に突き刺さる。


 "オヤジ〜っ!"

 僕は心の中で怨みの声を上げる。

 僕が父を怨むのには理由がある。

 この旅館の予約したのが父だからである。

 

 時を遡る事、約2ヶ月前……

 事の発端はメリッサから来日すると言う事を聞かされた時に遡る。

 僕は、以前からメリッサが某アニメの大ファンである事を知っていた。

 だが残念な事にメリッサが予約しようとしても既に年末の予約は満室であったのだそうだ。

 

 僕もネットで確認したがメリッサの言う通り既に年始年末の予約は埋まっているのであったのだが……


 「向こうでお前が世話になった人なら……」

 「わしがなんとかしてやろう」

 僕の話を聞いた父が知り合の旅館があるからと言ってこの旅館を予約をしてくれたのである。

 キャンセルが出たのを優先して回してもらったそうである。

 後で分かった事だが父はメリッサの事を男だと思っていたようだ。

 


 "年末をカネツグと過ごせるなんて……"

 "しかも、同じ部屋だなんて……"

 "凄く嬉しい……ありがとう神様"

 信心深いメリッサは心の中で神に感謝するのであった。

 神様に感謝するメリッサのその横で僕は焦っていた。


 "流石に年頃の若い女性と同じ部屋は……"

 "道徳的に良くない……"

 "かと言ってメリッサを1人で置いておくわけにもいかないし……"

 僕は心の中で呟くとメリッサの方に視線を移す。

 メリッサは凄く嬉しそうな表情で僕を見て微笑んでいる。

 "ん〜ん〜っ……"

 "初詣の事もあるし……"

 僕は悩んだ挙げ句……結局、メリッサと同じ部屋に泊まる事を選択したのであった。


 着物姿の中居さんに案内された部屋は、かなり上等な風情のある純和室であった。


 「tatamis……」

 「J’aime beaucoup cette pièce.……」

 絵に描いたよう純和室にメリッサは感動を隠せないでいる。

 おそらくメリッサにとって初めての畳の部屋なのだろう。

 「いいわ……凄くいい……」

 メリッサはそう言うと背負っていたリュックを降ろし畳の上に大の字になって寝っ転がった。

 「これができる日が来るとは思ってなかったわ……」

 「カネツグも……」

 メリッサはそう言うと自分の隣りに来るように手招きをする。


 僕はメリッサに誘われるままに背負っていたリュックを降ろして隣に寝っ転がった。


 「何だが夢を見ているような気分だわ」

 メリッサは綺麗な木目板の天井を見つめながら呟くように言うと何も言わずにそのままボンヤリと天井を見ている。


 "ボーン、ボーン、ボーン……"

 部屋の時計が12時を伝える。

 「もう、お昼だね、何か食べる?」

 僕が問いかけるとメリッサは小さく頷いた。


 メリッサと一緒に温泉街を歩きながら今日の昼ご飯を何にするかを話し合う。

 「ここがいいです」

 メリッサは一軒の古民家風の店を指差す。

 "川魚の店か……"

 メリッサの指差した店先の看板を見て僕は呟く。

 「メリッサは川魚は大丈夫なの?」

 僕が尋ねるとメリッサは親指を立ててニッコリと笑うのであった。


 店に入るとメニュー表に目を通す。

 岩魚の塩焼き定食を2人分注文する。

 食事を終えると温泉街を散歩がてら歩き回る。


 宿に帰って休憩してから早めに露天風呂温泉へと向かう。

 当然、男女別々であるのだが1人になることにメリッサは不安そうだがこればかりは仕方がない。

 

 僕の思った通り、時間も少し早いのでさほど混雑はしていない。

 これならゆっくりと入っていられる。

 僕が温泉から出て来るとメリッサはまだ出てきていないようである。

 温泉の入り口で暫く休憩しているとメリッサが出てくる。

 部屋に備え付けの浴衣が上手く着れなかったようで腰に帯をベルトのように巻き付けて括り付けている。


 「着物、よくわからないわ」

 「部屋に帰ったら教えて」

 メリッサはそう言う腰の帯を触りながら僕の方に歩いてくる。


 一緒に部屋に帰ると辺りはもう薄暗くなっている。

 宿には灯りが灯り朱色に塗られた橋の欄干が鮮やかにライトアップされているのが微かに見える。

 その光景を目にしたメリッサの表情が変わる。

 

 「カネツグっ!外に出て撮影したいです!」

 メリッサは息を荒くして僕に言うと充電器から携帯電話を取り外し外へ出ようとする。

 メリッサの浴衣は着崩れした半脱げ状態である。

 

 「メリッサっ!ちょっと待って!」

 僕は、部屋の外へ出ようとするメリッサを慌てて止める。


 「ちょっとこっち来て」

 「浴衣、直すから……」

 メリッサを引き止めると着崩れした浴衣を直すためにグルグル巻きの帯を緩るとスルリとメリッサの浴衣が脱げて足元に落ちる。


 「あっ!!!」

 何とメリッサの浴衣の下はパンツ1枚だった!

 僕の目の前にメリッサの白くて大きな胸が丸見えになる。


 「……」

 何とも言えない気まずい空気が流れる。

 普段から見慣れた絵梨香の姿と同じなのだが……

 「うわぁ!ごめんなさいっ!」

 僕は慌てて浴衣を拾い上げてメリッサに渡す。


 「もうっ!カネツグったら!」

 「別に見られて減るものじゃ無いんだけど……」

 「カネツグのエッチ」

 メリッサは大きな胸を手で隠しながら僕の方を細い目で見る。

 そんなメリッサに僕は今までに無い感情が湧いてくるのを感じるのであった。


 メリッサの浴衣を直すと宿の外へ出る、灯りが灯った宿はアニメ映画の世界そのものであった。

 「Qu’est ce que c’est beau!」

 メリッサは小さな声で呟くと携帯電話で撮影を始める。


 そんなメリッサを僕はずっと見守っているのであった。

 「カネツグ、撮って」

 メリッサはそう言うと僕に携帯電話を渡して自分を撮影するように頼む。


 かれこれ、30分ぐらいはいたのだろう、温泉上がりで浴衣1枚なので段々と寒くなってくる。

 「寒くなってきたし……」

 「湯冷めして風邪ひくと大変だから……」

 「そろそろ、中に入らない?」

 僕がそう言うとメリッサも頷く


 「後で、もう一度温泉に入ろう」

 一緒に歩きながら僕がそう言うとメリッサはニッコリと笑うのであった。


 部屋に帰って暫くすると中居さんが夕食を運んでく来てれる。

 ちゃぶ台に並べられた日本料理は素晴らしい物であった。


 「Qu’est ce que c’est beau!」

 ちゃぶ台に並べられた日本料理を見てメリッサはさっさと同じ言葉を口にする。

 「まるで芸術品のようね……」

 「食べてしまうのが惜しいわ」

 メリッサは日本料理の盛り付けを"芸術品"と称する。

 流石、芸術と美食の国フランスの国民だけの事はあるなと思った。

 メリッサはまたしても携帯電話を取り出すと撮影を始めるのであった。


 よくよく考えたらメリッサとは日本のB級グルメや庶民的な物しか食べておらず本格的な日本料理はこれが始めでなのである。


 その後、そんな事を言いつつもメリッサは綺麗に全部平らげてしまうのであった。

 因みに、メリッサがご飯を三杯もおかわりしたのに少し驚く僕であった……。

 

 

 〜 メリッサ来たる  ⑤ 〜


  終わり

 


 


 

 


 


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