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 僕は……  作者: イナカのネズミ
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〜 和泉家の日常  ④ 〜

 〜 和泉家の日常  ④ 〜



 僕が部屋に戻ると絵梨香は座って壁に凭れ携帯電話で何かメッセージのやりとりをし、父は部屋の隅っこで座布団を枕にして寝ていた。


 僕は手にしていたタオルの入ったレジ袋を置くと座椅子に座って一息つく。


 部屋の壁に掛けられている時計を見ると午後4時前だった。

 "後1時間ほどか……"

 "少し横になるか……"

 僕は心の中で呟くと畳の上に横になると何だか眠くなってくる。

 そのままウトウトしていると携帯電話にメールの着信音で意識を取り戻す。

 メールはメリッサからであった。

 予定通りに飛行機に乗り成田空港に到着するとの事である。


 ふと携帯電話の時計を見ると5時前である。

 "そろそろ、出ないと……"

 僕は絵梨香に声をかけて爆睡している父を起こす。

 ボストンバックを手にすると部屋を出る。

 タクシー会社に時間通りに迎えのタクシーを手配してもらう。


 宿を出て駐車場へ向かうと中野さん家族と遭遇した。


 「おやっ!和泉刀匠……」

 父の顔を見て中野さんの父親らしき恰幅の良い男性が父に声をかける。


 「ああっ、これは中野さん……」

 「こんな所で奇遇ですなぁ」

 父は笑いながら返事をする。

 どうやら父と男性は面識があるようだ。

 会話の様子からかなり親しいのが分かる。

 僕と絵梨香と中野さんは呆けたようにお互いの顔を見合わせる。


 父が僕と絵梨香の事を中野さんに紹介する。

 そして、中野さん(父親)が自分の家族の事を紹介する。

 当然、絵梨香と中野さんは顔見知りである。

 僕と絵梨香が兄妹だと言う事を知ってかなり驚き動揺しているのが分かる。

 明らかに人種が違うからであろう事に容易に察しが付く。



 中野さんの父親は役所の文化財保護などを担当する部署の幹部職員のようで父とは昔から面識があるようだ。


 更に中野さんは、父親から僕の父が受勲した事、絵梨香が日本最年少のプロテニスプレイヤーだと言う事を聞かされ呆然としている。


 呆然としている中野さんに中野さんの母親が何か話しかけている。


 "梨沙、あの子がそうなの……"

 中野さんの母親が僕の方を見て中野さんの耳元で小声で問いかけると中野さんは小さく頷く。


 すると、中野さんの母親は僕の方を見るとニッコリと笑う。

 僕は小さく会釈して愛想笑いをすると……

 「和泉くん、いつもうちの梨沙がお世話になっています」

 「外国の大学に通っているって梨沙から聞いていますが……」

 「大変じゃないですか?」

 中野さんの母親はそう言うと中野さんの父親が"おや?"っと言うような表情になる。


 中野さんの父親の表情から僕が米国の大学に留学している事を知らないようである。

 「外国の大学……何処の大学なんだい」

 「もし、よかったら聞かせて聞かせてくれないかい」

 「うちの娘が留学したいとか言うのもで……」

 中野さんの父親の口調と表情から、どうやら中野さんの父親は留学に反対のようなのが分かる。


 「アメリカのスタンフォード大学です」

 僕が答えると中野さんの父親は驚く。


 「スタンフォード大学うっ!」

 相当に驚いたようで声のトーンが上がる。

 「凄いな……和泉刀匠はそんな事、一言も話さなかったのにな……」

 少し恨めしそうに父の方を見るが父は何食わぬ顔をしている。

 父の事だから"息子は大学に通っている"の一言で済ませたのであろう事は容易に察しがつく。

 

 何となく僕には中野さんの母親が何を考えているか分かる。

 「娘さんならアメリカでも大丈夫ですよ」

 「もしも、同じ大学に留学するようなら……」 

 「僕にできる事ならサポートしますし」

 因みに、コレはお世辞ではなく僕の本音である。

 常々、中野さんなら良くも悪くも大丈夫だと本気で思うからである。


 僕の言葉に中野さんの母親はニッコリとすると父親の方に視線をやる。

 妻の視線に気付いた中野さんの父親は少し困ったような表情をすると目線を逸らす。


 すると、タクシーが駐車場に到着し僕達の前で止まる。

 「迎えが来たのでこの辺で……」

 僕はそう言うとペコリと頭を下げてタクシーに乗り込もうとするとすると……

 中野さんの母親が僕の耳元で囁くように言う。

 "ありがとう、和泉くん……"

 "貴方、本当に気が利くわね"

 中野さんの母親はそう言うとニッコリと笑うのであった。


 僕達の乗ったタクシーが駐車場から出て行くのを見送りながら中野さんの母親は中野さんに小さな声話しかける。

 "和泉くん、いい子じゃないの……"

 "お母さん、あの子の事が気に入ったわ"

 中野さんの母親はそう言うと意味ありげなに目で中野さんを見る。


 「和泉くんとはそんなんじゃ無いわよっ!」

 「もうっ!お母さんったら……」

 中野さんは迷惑そうに言うのだが……まんざら悪くは無いとも思う中野さんであった。


 その日の夜、僕の携帯電話に中野さんから直接電話がかかってくる。

 その用件はと言うと"父が短期留学を許可してくれた"と言う事であった。

 相当に嬉しかったのが電話口の中野さんの口調から分かるのだが……


 ただし、条件付きで"スタンフォード大学のみ"との条件だそうである。


 そして、その後で中野さんの僕と絵梨香の事など厳しい尋問が始まるのである。

 結局、1時間近く話をしてようやく納てもらうのである。

 当然、話せる事だけで詳しい事情は話してはいない。

 


 中野さんと話し終え電話を切ってから、僕は少し後悔する。

 本当にスタンフォード大学へ短期留学して来たら……

 嫌な予感に僕の背筋に悪寒が走る。

 後に、この悪寒は現実のものとなるのである。




  〜 和泉家の日常  ④ 〜



  終わり


 

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