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 僕は……  作者: イナカのネズミ
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〜 和泉家の日常  ③ 〜

 〜 和泉家の日常  ③ 〜




 「なんで和泉くんがこんな所にいるの?」

 中野さんは真っ赤な顔をして僕に尋ねる。

 

 「それは、こっちのセリフだよ」

 全く同じ事を考えていたぼくが答えると中野さんは諦めなような溜め息を吐き……


 「まぁ……仕方ないか……」

 中野さんは小さな声で呟くように言うとそのまま躊躇う事なく温泉に入ってくる。

 

 "えっ!"入ってくるの?

 僕は中野さんが堂々と温泉に入ってきた事に驚く。


 「なんか私って、和泉くんと変な因縁があるのかしら……」

 驚いている僕のようすを見て中野さんはそう言うと首をコキコキする。


 「そうかも……知れないね」

 僕も同じ事を考えていたので同意するように呟く。

 

 「今から、考えてみると……」

 「恥ずかしい事ばかりのような気がするのよね……」

 「ここまで続くと、もうどうでもよくなるわよ」

 中野さんはしみじみと呟くように言う。


 中野さんの呟きに僕は中野さんとの事を思い出す。

 "電車で涎垂らして爆睡してたり……"

 "座席から滑り落ちそうになってパンツが丸見えになったり……"

 "電車の中で薄い本をぶち撒けたり……"

 "際どいコスプレ姿とか……"

 "そして、今度は混浴露天風呂で鉢合わせか……"

 "確かに、言われてみれば恥ずかしい事ばかりだな"

 僕は中野さんとの事を思い出していると……


 「それに、こんな状況でも和泉くんだと……」 

 「不思議と身の危険を感じ無いのよね」

 中野さんはそう言うと飄々としている。


 僕には中野さんの言っている意味が何となく分かる。

 

 「それはそうとして、大学の方はどうなの?」

 中野さんは興味津々な様子で大学の事を尋ねてくる。


 「まぁ……いろいろあったけど何とかやってるよ」

 僕はそう言うと向こうに行ってからあった事を話す。

 ホームシックになった事、仲良くなった人の事、大学での授業の事……

 中野さんは黙って聞いている。


 同時に自分の事も話してくれる。

 やはり、短期留学を本気で考えているようである。

 僕はメリッサから聞いた短期留学制度の事を話すと中野さんは凄く興味を持ったようである。


 それと、例のコスプレの事も……

 「あのコスプレmagazineの子はやっぱり和泉くんだったんだ……」

 そう言うと僕の顔をマジマジと見る。

 「冬コミも◯◯X◯◯でコスプレして売り子するの?」

 (◯◯X◯◯とは島本さんのサークル名)

 中野さんは興味津々で僕に尋ねる。


 「参加しないよ、あれ一回きりだよ」

 僕がそう言うと中野さんは露骨に残念そうな表情をする。


 「そうなんだ……」

 中野さんは残念そうに言う。


 「でも、冬コミには参加するけどね」

 僕がそう言うと中野さんは不思議そうな表情になる。

 僕がメリッサの事を話すと……


 「フランスから……」

 中野さんは少し驚くと僕の方をジッと見る。

 「もしかして、和泉くんの彼女?」

 僕は凄く興味津々に聞いてくるニヤけた中野さんの方に視線を移す……

 次の瞬間、僕は中野さんに抱き付くようにすると露天風呂の岩陰に引き摺り込んだ。


 「あっ!ちっ!ちょっと和泉くんっ!」

 焦った中野さんの言葉を無視して僕は中野さんの口を手で押さえる。


 「中野さん……」

 僕は中野さんの耳元で囁くと中野さんは顔を真っ赤にして息を荒くしている。

 「あそこ見て……」

 真っ赤だった中野さん顔が今度は真っ青になる。

 露天風呂から少し離れた所に動く黒い物体が中野さんの目に入る。

 「もしかして……アレって"熊"っ……」

 中野さんは震える声でそう言うと僕に身を寄せる。


 「このまま、ジッとしていよう」

 僕は中野さんの耳元で囁くように言うと中野さんは小さく頷く。

 暫くすると熊は何処かへと姿を消すのであった。


 熊の姿が見えなくなると僕も中野さんも緊張の糸が切れてホッとする。

 「あっ……」

 気が付けば僕と中野さん裸で抱き合っているのだった。

 お互いタオルは何処かに流されて中野さんの柔らかい体のあちこちが僕の体に当たっている。


 お互いに何も言わずにスッと離れる。

 「……ごめんなさい……」

 僕が小さな声で謝罪する。


 「和泉くんが謝る事無いよ……」

 「寧ろ、感謝してるぐらいだから」

 中野さんはそう言うと浮いていたタオルを手すると胸を隠す。


 「それじゃ、先に上がるから……」

 僕はそう言うと慌てて立ち上がる。


 「あの……和泉くん……その……前……」

 中野さんは俯いて僕の方を指差す。


 「あっ!!!」

 僕のタオルも流され股間のモノが丸出しになっている事に気付く。

 「ごめん……」

 僕は恥ずかしそう言うと慌てて股間を手で押さえイソイソと更衣室へと逃げ込むのであった。


 もう一枚のタオルで体を拭いて服を着てから中野さんに声をかける。


 中野さんが着替え終わると一緒に山道を歩いて帰路についた。

 どうやら、中野さんも家族と一緒にこの温泉宿に来ていたようである。

 駐車場に停まっていた車は中野さんの車だったのである。


 僕と中野さんは熊に怯えながら早足で山道を歩いていく。

 幸いにも熊に遭遇する事なく無事に温泉宿に辿り着く事ができたのであった。


 温泉宿に辿り着くとお互いに顔を見合わせてホッとする。

 「それじゃ……」

 「助かったわ、和泉くん……」

 中野さんにそう言うと何事も無かったように去って行く。


 そんな中野さんの後ろ姿を見ながら僕もゆっくりと歩き始める。



 部屋に帰って来た中野さんは気が抜けたようにへたり込んだ。


 「どうしたんだ……梨沙……」

 中野さんの父親が心配そうに問いかけてくる。

 

 「何でもないわ、山道を歩いたから少し疲れた見たい」

 中野さんはそう言っただけで僕との事、熊の事も話さなかった。


 "和泉くん……毛、生えてるんだ……"

 中野さんは心の中で意外そうに呟く。


 暫くの間、中野さんの頭の中には僕の股間のモノが焼き付いて離れないのであった。

 当然だが、中野さんにとっては初めて生で見る同世代の男子のモノであった事は言うまでもない事である。


 

 

  〜 和泉家の日常  ③ 〜


   終わり


 

 

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