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 僕は……  作者: イナカのネズミ
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 〜 年の瀬の街と人々 ④ 〜

  〜 年の瀬の街と人々 ④ 〜



 この世に生を受けてより、今まで異性からさほど興味を示される事もなく、恋愛などと言うモノに全く無縁だったのに急に異性から興味を示される時期がある。


 いわゆる、モテ期である。

 残念ながら、全ての人に当てはまるわけでは無いが、この小説モドキの主人公である和泉兼次にはどうやらその"モテ期"が到来したようである。

 当の本人は全く気付いていないのであるが……




 ソヒョンと話をしていた僕に声をかけて来たのは見覚えのない女生徒だった。

 「私はマギー・フロイツ、3年生よ」

 「イズミ君、少しお話しできないかしら」

 僕に話しかけてきた女生徒は自己紹介すると何か話があるようである。


 「あっ、はい、OKです」

 僕が快く答えるとマギーはニッコリと微笑んだ。

 ソヒョンはと言うと、そんな僕とマギーの会話を聞いていると……


 「それじゃ、私はこの辺で失礼するわ」

 空気を読んだのかソヒョンはそう言うと僕とマギーにペコリとお辞儀をりて足早その場を去って行くのであった。


 マギーはカネツグに想いを寄せるプロジェクト・チームのリンダの相棒である。

 リンダのために僕の事を調べにきたのであるがそんな事を僕に言うはずもないのである。


 マギーの話は世間話で特に個人の事に深入りするものではなかった。

 10分程の会話を交わすとマギーはニッコリ笑い僕にお礼を言うと去っていくのであった。

 "一体、なんだったんだろう……"

 別に大した事もない世間話に僕は些かの疑問も感じなかったのであるが……

 マギーにとってはただの世間話では無かったのである。



 マギー・フロイツ、専攻は精神分析学である。

 僕がホームシックになった時にお世話になったウッドマン博士の学部に在籍する。


 僕にとってはただの世間話に思えた会話だが、マギーにとっては会話の全てが僕の精神分析に繋がっていたのである。


 僅か10分程の会話で僕と言う人間の深層心理をほぼ完全に掴んでいったと言ってよいのである。

 マギー、恐るべしである。


 彼女が精神分析学を専攻した理由ははハッキリとしている。

 意外かも知れないが人の深層心理はビジネスと深く結び付くのである。

 つまり、人の深層心理を理解する事により優位にビジネスを展開する事が可能となるのである。



 TVのCMから始まり、テレビ番組の編集、雑誌の載っている商品の宣伝、ショッピングセンターに並ぶ商品の展示のやり方など、商談の会話術から始まり果ては詐欺師の騙し話術に至るまで広い範囲で精神分析学の範疇であり応用である。

 全く気付いていないかも知れないが、我々は普段からそのような社会の中で暮らしているのである。


 因みに、マギーは僕との会話の最後に有用な情報を提供してくれた、その情報はと言うと……

 "ソヒョンはボリスにフラれた"と言う情報であるが僕は知らないフリする事にした。


 当然だが、マギーがこの情報を僕に提供したのにも理由があるのだが僕には知る由もないのである。



 僕との会話を終えた後でマギーが足早で向かったのはリンダの部屋であるのだが……

 何の用事でリンダの元へ行ったのかは言うまでもない。



 マギーがリンダの部屋のドアをノックすると中から声がする。

 暫くするとドアが開いてリンダが顔を覗かせる。


 「ハァ〜イ、リンダ調子どう?」

 食堂で僕がシェリルと楽しそうに会話をしている様子を見せられ、更に鈍感な男2人にトドメを刺されて落ち込んでいたのである。


 精神分析学が専攻のマギーはリンダの精神的な弱さの部分も良く理解しているのである。


 "本当に、事が恋愛に関してはどうしようもないぐらいヘタレね"

 "普段はカッコいい王子様なのに……"

 "こう言う時は乙女なんだから……"

 "さっさと復活してもらわないとプロジェクトが進まないわ"

 マギーは心の中で困ったように呟きながらリンダの部屋へと入って行くのであった。


 リンダの部屋には沢山のぬいぐるみとオシャレで何処となく可愛い小物があちらこちら置かれている。

 "いつもながら、本人の見かけとは無縁の部屋ね……"

リンダは心の中で諦めたように呟くと僕の事を話し始めるのであった。


 「リンダ、イズミには付き合っている女はいないわよ」

 このマギーの最初の一言でリンダの顔に活力が蘇ってくるのがわかる。


 「本当よ、今さっき彼と話してきたから……」

 マギーがそう言うとリンダは少し驚いた表情になる。


 「彼、真面目で正直な人ね」

 「酒やタバコ、賭け事やドラッグにも全く興味がない見たい」

 「それに、女にも色恋沙汰にも全く関心が無い」

 「まるで聖職者のようなひとよ」

 「でも、経済感覚は凄くしっかりしているわね」

 「人としては"当たり"だけど……」

 「少し、主張性に欠ける所があるからビジネスには向かないわね」

 「ただ、本人は全く気付いていないみたいだけど……」

 「無意識のうちに母性本能を擽ぐる所があるの……」

 「まぁ……なんて言ったらいいのか……」

 「いわゆる、天然の"歳上の殺し"ね」

 マギーは僅か10分程の会話で僕の本質をほぼ完全に掴んでいるのであった。


 マギーの話を聞いていたリンダの表情に段々と生気が甦ってくる。

 そんなリンダを見てマギーは心の中でひっそりと呟く


 "イズミには確かに付き合っているひとはいない……"

 "でも、気になるひとはいるかも知れないわよ"

 "まぁ、この事はリンダには言わない方がいいわね"

 "……でないとプロジェクトが進まないから"

 マギーはメリッサと言う存在に気付いているのであったのだがリンダには言わなかったのである。


 因みに、ボリスもマギーと全く同じ見解であった。

 

 ただ、ボリスもマギーもいつものリンダの独り相撲だと思っていたのだが……

 しかし、今回のリンダは本気だとはこの時点ではこの2人ですら思いもよらなかったのである。

 

 

 所離れて、ここは日本の東京の東◯山市にある薩摩芋畑……

 真冬の寒風が吹く曇天の中、収穫の終わった広大に芋畑の真ん中に作業服姿の長澤さんが呆然とした表情で立っている。


 スーツは似合うが作業服は全く似合っていない。

 毎日毎日、家で何もせず一日中だらしなくゴロゴロしている我が娘のだらしないす姿を見て母が遂にブチ切れたのである。

 「ゴロゴロしとらんでアンタも手伝いっ!」

 こうして母の鶴の一声で畑に借り出されたのである。


 「来年になったら早く仕事探そう……」

 厳しい母の監視のもとで長澤さんは力無く呟くと芋畑仕事に精を出す。

 12月24日、長澤由紀子、真冬の芋畑の真ん中で迎えるいつもと同じ色気もクソも無い24回目のクリスマス・イブの日であった。



 〜 年の瀬の街と人々 ④ 〜


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