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 僕は……  作者: イナカのネズミ
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 僕は…… 第ニ章    ~ 我が残念な妹 ~ 

  僕は……第ニ章 

  ~ 我が残念な妹 ~ 




 僕の妹の絵梨香は美人である。

 しかも、ゲルマン民族の母の血を引き継ぎ抜群のプロポーションを誇る。


 勉強の方はイマイチなのだが運動能力は非常に高く中学校ではテニス部に所属し1年生で早々にレギュラー入りを果たし3年には部長になり、卒業までの3年間で多くの大会に入賞、優勝もしている。


 (本人は剣道をしたかったようだが、何故か父と母の猛烈な反対で残念している。)

 

 しかし、その崇高な外見とは裏腹に大変残念なその実生態は重度の歴史オタなのである上にだらしない。


 殊に幕末期の新撰組が大好きで土方歳三が大好きなのである。

 その入れ込みっぷりは、もはや病的である。

 

 部屋の中はその手のアイテムやグッズで埋め尽くされ、そのだらしなさも手伝って汚部屋と化てしている。

 


 中学校の頃から同じ穴のムジナの友達も2人いて高校になって別々の学校に通うようになってからも交友は続いているようであり、何回か家に遊びに来ているのを見た事がある。


 当然、絵梨香にはこの世に生まれて以来、今まで彼氏はおろか浮いた話の一つもない。

 今回は、今では全国的に名前と顔を知られているという。

 そんな残念な我が妹の絵梨香の話である。




 やや夏の日差しも緩まった日曜日、僕は自宅の床の間のある和室で週末のアルバイトをしていた。


 父が刀匠と言う職業という事もあり、我が家には結構な数の日本刀がコレクションされている。

 当然、貧乏な父の物では無く殆どが稼ぎの良い母が欲望のままにその財力で買い漁った代物である。



 「こんなものかな」

 僕は独り言を言いながら母のコレクションの日本刀を手入れしている。


 日本刀はとてもデリケートで最低でも1月に1回ぐらいの割合で手入れをしないと研ぎがボヤけてしまうのである。

 最悪、薄錆が出る事もある。


 手入れを怠り研ぎ直すとなると研ぎのランクはあれ一寸(約3cm)辺り据え物斬りの安研ぎでも3500円、美術刀などの最上研ぎだと10000円はかかる。

 定寸の刀で2尺3寸5分(70㎝)なので美術刀などの最上研ぎだと23.5×10000で235000円(税別)もかかってしまうのである。

 刀の研ぎ代は馬鹿にならないのであり、刀を研ぎ減らす事にもなる。

 江戸の昔は、むやみに刀を研ぎに出すのは愚行と言われたぐらいである。


 それに比べれば、母が僕に支払うバイト代など安い物なのである。



 因みに、掘り出し物の刀を審査に出すのにも金がかかる。

 有名な某協会などは最低でも19000円、場合によっては360000円もかかるのである。

 これに砥ぎに合わせて白鞘と(はばきを新調するとどうなるか……


 なぜこんな事を書くのかと言うと……

 とにかく、刀は金も手間暇もがかかるという事を皆様に知ってもらいたいのである。





 父がそれなりに名の通った刀匠である事もありそれなりに良い物が揃っている。

 その中には妹の絵梨香が虎視眈々と狙ってる新撰組の土方歳三の愛刀と同じ刀工の鍛えた和泉守兼定の刀もある。

 勿論、審査済み鑑定書付きの真作である。


 バブル崩壊の時に安値で父が骨董市で仕入れた物だと言う話しである。

(そのお値段、何と現在では200万円也)


今でも、年に数回くらい母と一緒に骨董市に行っている。


 「それにしても……」

 「こんなにたくさんよく集めた物だな……」

 八畳間の和室に並べられた日本刀を見て呆れように呟く。

その数、短刀10振り、脇差し10振り、刀20振り、太刀3振りの合計43振り……今後も増えていくのは間違いなさそうである。

 母に泣きつかれ、中学校の頃から仕方なしに毎週末に十数振りづつ僕が手入れをしているのである。

 勿論、しっかりと母からバイト代は頂戴している。


 おかげでこの歳にして、いつの間にか日本刀の目利きになってしまった。

 我ながらジジイ臭いと思ってしまう。


 どうやら、絵梨香の趣味は母親譲りなのだとつくづく思う僕であった。


 打ち粉と椿油のストックが無くなったので通販で購入しないといけない。


 手入れの終わった日本刀を刀箪笥に片付けると2階の自室のパソコンを立ち上げ通販サイトにアクセスする。

 いつものネットショップに打ち粉と椿油を発注する。

 ネットのおかげでこんな田舎でも専門的な物品が簡単に手に入る、実に便利な世の中である。


 パソコンの電源を落とすと机の横に置いてある大学の案内書の入った封筒が目に止まる。

 "そう言えば見てなかったな"

何気なく封筒を手に取ると中の案内書をとりだして開く。


 "エンジニアか……"

斎藤の言葉が脳裏をよぎる。

 "僕は何がしたいんだろう"

 単純で根本的な質問を自分にする。

 ただ、理数系が得意だから工学部に進もうとしか考えていなかったと言うのが本当である。


 これと言ってなりたいものも無ければしたい事も無い。

 "悩んでいても仕方ない"

まぁ、僕としては安定した普通の市役所勤め公務員がいいと勝手に思い込んでいたのだが……

 入塾の際の面接でそう言ったら

「○都大学でそれは無いでしょう。」

「どうせなら官僚を目指しましょう」

と面接した担当講師の人に言われてしまった事を思い出してしまう。



 塾に通うようになってから他の塾生達が明確な目標を持って勉強している事を知ってしまい、何の目標もない自分に何とも言えない焦りのようなものを感じているのであった。



 「はぁ〜」

僕は溜め息を吐くと部屋を出て階段を降り一階のリビングに入る。

 朝練帰りの妹の絵梨香がいつものようにパンツ一丁で肩にバスタオルを掛けたままでソファーに足組して座りジュースを飲んでいた。


 「あのなぁ、絵梨香……」

 「せめてブラジャーぐらいしろよ」

 華の女子校生が乳丸出しのあまりにだらしない我が妹の姿に僕はいつもの事ながら悲しくなってくる。


 「別にいいじゃないの」

 「シャワー浴びたばっかりで暑いんだから」

 絵梨花はそう言うとジュースを飲み干しソファーから立ち上がり、丸出しの胸を隠す事もせず足元に置かれた着替えを手にすると着替えを始める。


 この絵梨香の完膚なきまでの恥じらいの無さは、母のハンナのせいである。

 母のハンナはサウナやシャワー上がりは素っ裸でリビングまで出てくると冷蔵庫の中の缶ビールを一気飲みする事に無情の喜びと生きがいを覚えている。

 絵梨香はパンツを履いてるだけまだマシなのである。


 「誰か客でも来たらどうすんだよ」

 僕が困ったように言うと絵梨花は"それがどうした"と言う顔をする。


 「別に気にしないわよ」

 「見られて減るもんじゃないし」

絵梨花は何食わぬ顔をして答える。


 「家の中だけにしろよな」

僕は諦めたように言うと絵梨香は僕の方に背中を向ける


 「ちょっと止めてくれる」

 僕にブラジャーのホックを止めるように言う


 「仕方ないなあ〜」

 僕は呆れながらも絵梨花のブラジャーのホックを止める。

 他所の人が見たら目を細め首を傾げるような事だが僕は何とも思っていない。


 これも母ハンナの影響であるが自分が絵梨香に説教できるような立場でない事に全く気が付かない残念な僕であった。


 そんな、我が残念な妹の絵梨香だがその外見はすこぶる良い、街中でファション雑誌の関係者に何度もスカウトされるほどである。

 なのに、不思議とナンパされた事は一回もないそうである。


 何故なのかは身長が160㎝の僕にはなんとなくわかる。

 身長180㎝を超える日本男子は少ないのである。

 しかも、明らかにら外見が外国人だから言葉が通じないと思っているからでもあるのだろう。


 頭の方は少し残念だが運動神経、筋力共にズバ抜けたイケメン女子なので女子からは異常にモテる。


 中学になってからは、毎年のようにバレンタインのチョコを紙袋4つ分は貰ってくるが残念な事にチョコをあげる相手はいない。


 まぁ、チョコをあげる相手もいないわけでもないのだが……

 

 部屋の土方歳三の大きな写真の前にはしっかりと立派な本命チョコが捧げられているのを見た事がある。

 残念極まりない我が妹の絵梨花である。



 食べ切れないので毎年1つも貰えない残念な僕にもお情けでお裾分けしてくれるのだが、その内の何個かに明らかにガチのラブレターらしいものが同梱されているものがある。


 当然、見たりせずにそのまま絵梨香に渡している。

 それ以前に妹からチョコを恵んでもらう僕も極めて残念であるが捨ててしまうのはもったいないからである……と自分に言い聞かせる僕であった。 


 その後、ガチのラブレターらしきものについてはどうなったのかは僕の知る所ではないが、我が妹が危ない道に走らないように兄として切に祈るだけである。



 この残念無双の兄妹はこの先どうなることやら……。




 僕は…… 第ニ章 

  ~ 我が残念な妹 ~ 


   終わり


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