〜 2人目の異国の友 ③ 〜
〜 2人目の異国の友 ③ 〜
「これが日本のカレーなのね」
メリッサは、初めて目にする本格的な日本のカレーを見て少し感動しているようである。
「アニメで始めて見てからずっと食べて見たいと思っていたのよ」
「何度か通販サイトで購入してんだけど……いまひとつだったわ」
メリッサはそう言うと今度は福神漬けをジッと見ている。
「これ、ふ・く・じ・ん・づけですか?」
福神漬けを指さして僕に尋ねてくる。
僕が頷くと少し感動しているようだ。
「冷める前に食べようか」
僕がそう言うとメリッサも頷く。
メリッサは手を合わせて"いただきます"をするとカレーを口に運ぶ。
「”C’est très bon !”」
メリッサは思わずフランス語を呟やいてしまう。
フランス語で"美味しい"と言う意味である。
メリッサは無言でひたすらカレーを食べるのであった。
「ありがとう、凄く美味しいかったわ」
「今、パリに住んでるんだけど……」
「ラーメン店はあるんだけど日本のカレー店は無いのよね」
ペットボトルの水を飲みながら幸せそうな表情でお礼を言うと、持っていた紙袋をテーブルの上に置く。
「これ、私の実家の農場で作ったチーズとリンゴジュース」
メリッサはそう言うと袋の中から紙皿を取り出しチーズをプラスチックナイフで切り分ける。
そして、300ml程の瓶のボトルに入ったジュースを2本をテーブルの上に置くと僕の前に差し出す。
「食べて」
某はメリッサに勧められるままにチーズを口に入れる。
「んーーっ!濃厚な味だね」
「コクがあって美味しいよ」
僕が感想を言うとメリッサはニッコリと笑う。
「"臭い"って言わないのね」
「このチーズは"リヴァロ"って言うの」
「殆どの外国人は、このチーズの匂いを嫌うのよ」
「これでも、匂いのしない方なのよ」
「もっと強烈な匂いのチーズもあるの」
メリッサはそう言うと自分もチーズを食べ始める。
「日本にも臭いの強い食べ物はたくさんあるから」
「例えば"納豆"とかね」
僕はそう言うとりんごジュースを一口飲む。
「酸っぱいね」
「でも、このチーズとの相性は良い」
僕が日本で飲んでいたりんごジュースとは全く違っているがチーズとの相性は良いと感じる。
京都の老舗料亭の父譲りの料理人の舌がそう言っているのだが僕にはそんな自覚は全くない。
「そうでしょう」
僕の感想にメリッサは満足そう言うと。
「本当は特産のりんご酒にしたりお菓子する物だから」
メリッサはそう言って自分もりんごジュースを口にする。
「日本人って、やっぱりフランスの食文化に理解があるのね」
「フランス人も日本の食文化には理解がある方だと思うけどね……」
メリッサの故郷のノルマンディー 地方はチーズとカルバドスというりんご酒が特産品なのである。
我々、日本人からすればフランスのノルマンディー と言えば第二次大戦の連合軍の上陸作戦"D-DAY"の方で知れているのだ……それは言わない事にした。
メリッサの用意してくれたチーズとりんごジュースを飲み終えてしばらくするとメリッサは部屋の中を興味深そうに見ている。
「ここ1人部屋よね?」
「カネツグは2年生なのよね?」
メリッサは僕に尋ねてくる。
「えっ、僕は1年だよ」
メリッサは少し驚いたような表情になると首を傾げる。
僕がそんなメリッサの様子を見て不思議そうにしていると……
「そうなんだ……歳下なんだ……」
メリッサは少し戸惑ったように呟く。
「私、短期交換留学でここに来てるの」
「3ヶ月でフランスの大学へ戻るのよ」
メリッサが短期留学だとは知らなかった僕は驚いてしまう。
「えっ!そうなの!」
「いつまで、こっちにいるの?」
せっかく、良い友人が出来て喜んでいた僕は少なからずショックを受けてしまう。
「後、1週間程かな……」
「母校はソルボンヌ大学、法学部なのよ」
「私、カネツグも私と同じ2年生だとばかり思っていたわよ」
「東洋人は実年齢より若く見えるからなんとも思わなかったんだけど……」
メリッサはそう言うと少し意外そうな表情になった。
「僕はメリッサが1年生だとばかり思っていたよ」
「1年生のソヒョンと同じ部屋だしね」
僕がそう言うとメリッサは少し迷った後でソヒョンと同じ部屋になった経緯を話してくれた。
メリッサの話だと、留学が決まった時点では個室が与えられる予定だったのだ。
しかし、学校側の手続きにミスがあり男子生徒を女子生徒と勘違いして部屋割りをしてしまったそうだ。
本来なら女子生徒の2人部屋とする所を男子生徒と女子生徒の相部屋となってしまった。
その部屋の住人の女子生徒がソヒョンで男子生徒との相部屋はNGだったので、本来ならソヒョンと同じ部屋になるはずだった男子生徒が個室へ移動したそうだ。
「……もしかして……」
「その男子生徒って……僕なのでは……」
僕がメリッサに遠慮がちにお伺いを立てる。
「私、その男子生徒の事は知らないけど……」
「たぶん、そうじゃないかな……」
メリッサはそう言って小さく頷き僕の顔をジッと見て何かを教えているように見える。
"大学の事務員が言っていた通りだわ"
"こうしてよくよくみると、確かにカネツグって可愛い女の子のように見えるわね"
"背も低いし、年齢も12〜3歳にしか見えないし……"
"大学の事務員が女生徒と間違えても仕方ないかな"
"でも、この事はカネツグには言わないほうが絶対にいいわね……"
メリッサは心の中で自分に納得したように呟くのであった。
もしも、僕がこの事実を知っているとするならば、メリッサのこの判断は僕にとっては正しかったと思う。
そう、僕は大学の事務員に女生徒と勘違いされてしまったのである。
入学時に提出した書類に貼ってあった顔写真を見ただけで事務員は僕の事を何の疑いもなく女生徒だと思い込んでしまったのだ。
後で確認して性別が男性となっていた事に気付いて慌てて部屋割を変更したのであった。
因みに、僕の提出した書類には赤ペンで……
"!!!Cautionary note!!!"
"!!! SEX MALE !!!"
……と大きく事務員の手書きの注意書きがされているのであった。
当然、僕はこの事実を全く知らない……
〜 2人目の異国の友 ③ 〜
終わり




