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 僕は……  作者: イナカのネズミ
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〜 異国の友 ② 〜

   〜 異国の友 ② 〜



 僕と彼女キム・ソヒョンはキャンプ以来、時より行動を共にするようになった。

 偶然に同じ授業を受ける時もあり、そんな時には昼食を一緒に取る事もある。


 ご存知の通り両国には歴史問題に領土問題と国家間の問題はあるが、その事に関してはお互いによく知っている事なのであえて話題にはしないでいる。

 この辺りも僕とソヒョンはお互いになんとなく意思が通じているようだ。


 僕は彼女のことを"ソヒョン"と名前で呼ぶがそれには理由がある。

 初めは彼女の姓の"キムさん"とよんでいたのだが……

 彼女が言うには韓国、"特にソウルでは石を投げればキムさんに当る"と言われるぐらいキムと言う姓が多いらしくお国では名前で呼ぶのが普通だったので名前で呼ばれた方がしっくりするからである。


 日本人の僕からすれば女性を名前で呼ぶのには少し抵抗があったが今はそんな事はない。

 因みに、ソヒョンも僕の事を"カネツグ"と名前で呼んでいる。


 僕は韓国人と言えばキムチに代表されるように唐辛子の効いた辛い物が好きだと思い込んでいたがソヒョンは辛い物が全くの苦手だそうである。

 ソヒョン曰く、韓国人にも"私みたいに辛い物が苦手な人はいるのよ"との事である。


 当然、ソヒョンも日本人は"本音と建前は違っている"と思っていたようであり……

 「日本人にも少数だけど僕のような正直者もいるよ」

 と言ったらソヒョンは納得したように笑っている、そんなソヒョンに

 「でも、生きて行き難いけどね」

 僕がそう言うとソヒョンは……


 「カネツグは私が思っていた日本人とは随分と違うわね」

 そう言うと僕の顔を不思議そうに見ている。


 僕は、お互いに変わり者同士だから、気が合うのかもしれないなどと考えていると……

 「そうかもしれないわ」

 いきなりソヒョンが話しかけてくる。

 「変わり者同士とか考えたでしょう」

 ソヒョンはそう言うと意地悪そうに笑う。

 

 「……」

 僕は呆気に取られて黙っている。


 「どうやら図星だったようね」

 ソヒョンの一言に僕は底知れぬ恐怖感を覚える。

 「今、怖い女って思ったでしょう」

 またまたソヒョンは僕の思考を読み取る。

 この人には嘘は吐けないと心から思う僕であった。


 たわいもない会話ばかりだったが不思議と気分は良かった。

 ソヒョンの笑顔もキャンプで初めて会った時の違和感のある笑顔からすれば自然な笑顔になっていた。



 そんなある日……


 「カネツグって恋人とが付き合っているひといるの……」

 

 突然のソヒョンの問いかけに僕は思考は停止してしまう。

 何故なら、ソヒョンがこんな質問をしてくるとは思いもよらなかったからである。

 なまじ、相手のことをよくわかっていると思い込んでいた分その反動は大きかった。


 吃驚して固まっている僕を見てソヒョンは"あっ!"と言う表情になる。

 「ごめんっ!話す順序が悪かったわ」

 「誤解しないでっ!私のことじゃないのよっ!」

 固まっている僕にソヒョンが言い訳をするように事の経緯を説明する。

 自分も同じ事を僕に言われたら同じようになると気付いたからである。


 「"年齢=恋人無しの期間"」

 僕が虚しそうに言うというとソヒョンは"当然だよね"と言うような表情をしている。

 なんだか僕は無性に腹が立ったので嫌味な質問をソヒョンにする。

 「そう言うソヒョンはどうなのかな?」

 僕の問いかけにソヒョンの目尻が僅かにピクリと引き攣る。


 「わっ私は……」

 ソヒョンも僕と同じという事はなんとなく僕には分かるのだが見栄っ張りな韓国人の国民性が邪魔をして本当のことが言えずにいる。

 因みに韓国人が見栄っ張りだと言うのはソヒョン自身が言っていた事である。


 「見栄張らなくていいよ」

 僕の一言にソヒョンガックリと肩を落とす。


 「私もカネツグと……同じです」

 ソヒョンは小さな声でいう。

 なんだかお互いがとても可哀想で哀れに思えてくるのであった。



 ソヒョンの話だとルームメイトの子が僕と話がしたいと言っているとの事である。

 ソヒョンは2人部屋の住人なのである。

 ソヒョンが僕に"彼女がいる?"と言ったのはルームメイトは当然ながら女性なので、もしも僕に彼女がいたらと気遣ってのことである。


 フランス人で子供の頃から日本に凄く興味があるとの事である。

 そして、ソヒョンはスマホを取り出すと彼女の写真を見せてくれた。

 金髪で顔立ちの整った華やかさを感じる凄い美人さんだった。


 「パリ・ジェンヌ……」

 僕が写真を見てそう言うとソヒョンは少し困ったような表情になる。


 「彼女、見かけによらず……凄い田舎育ちなのよ」

 「私も初めて会った時にはカネツグと同じように思ったわよ」

 「凄い美人だしスタイル良いし、雑誌のモデルみたいだったから」

 ソヒョンはそう言うと彼女の事を話してくれる。


 彼女は名前をメリッサ・ベルナールと言いフランスの北部に位置するノルマンディー地方の内陸部にある小さな村の出身で実家は酪農家だそうである。

 子供の頃から日本のアニメやマンガを見てたり読んだりしていて、かなりの親日家だそうである。


 「まぁ……よくある話しね」

 「で……会ってみる?」

 ソヒョンはそう言うと僕に彼女と会ってみる気があるかどうかを尋ねてくる。


 「ああ、勿論……」

 僕が即答するとソヒョンは細い目をして僕の方を見ている。


 "ソヒョンの奴、僕が写真を見て美人だったからだと思っているな"

 僕は心の中で迷惑そうに呟く、そしてソヒョンの方を見て意味ありげにニヤリと笑うとソヒョンは視線を逸らした。

 どうやら、自分の考えている事が僕にバレバレだと言う事に気付いたようである。


 気不味い雰囲気の中、ソヒョンはスマホでメッセージを打ち始める。

 どうやら、メリッサさんと連絡を取っているようだ。

 ソヒョンがメッセージを送信すると直ぐにメリッサからの返信が着信する。


 「メリッサが明日の昼食、一緒にどう?」

 「……って言てるけどどうする?」


 ソヒョンが尋ねてくるので僕は軽く頷いて同意するとソヒョンはスマホで返信すると即座に返事が返ってくる。


 「お昼に食堂でですって」

 ソヒョンは僕にそう言うとスマホをポケットにしまう。

 「それじゃ、明日は彼女メリッサの事よろしくね」

 ソヒョンはそう言うと軽く手を振って去っていった。


 "えっ!一緒に付き合ってくれないの?"

ソヒョンも一緒に付き合ってくれると思っていた僕は心の中で不安になり慌ててしまう。


 当然、僕はソヒョンも一緒に付き合ってくれると思って期待していた事も知っていてである。


 僕が期待していた通り、ソヒョンは始めは付き合うつもりでいたのだが、さっきの恋人の件とメリッサの写真を見てニヤリとした僕の表情を見て何だが無性に腹が立って意地悪をしたのである。


 かくして、僕はフランス人のメリッサと2人きりで会う事になるのである。



  終わり

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