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 僕は……  作者: イナカのネズミ
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~ 和泉家の人々…… 其之弐 家族旅行 ⑥ ~

~ 和泉家の人々…… 其之弐 家族旅行 ⑥ ~




 山賊の宴会が終わり、家族4人リビングでテレビを見ながら寛いでいる。

 暫くすると、父は外の個室温泉に入ってくると言って立ち上がると母も同じように起ち上がる。

 「お母さん、酔いが醒めるまで待てば……」

 「また、上せると大変だから……」

 絵梨香が心配そうに言うと母は大丈夫と言う顔をする。


 「大丈夫……部屋の外なんでしょう……」

 母はそう言うと父と一緒に外の個室風呂へ行ってしまった。


 「大丈夫かな……」

 「頭の血管が切れて……とかは嫌だからな……」

 僕がそう言うと絵里香は更に不安そうな顔になる。

 「ごめん……外の温泉の湯は温度が低いし……」

 「それに、オヤジが一緒だから心配ない」

 「温泉で"夫婦水入らず"ってのもいいだろう」

 僕は不安そうな絵里香を安心させようとする。


 「そうね……」

 絵梨香は納得したように言いながらも不安そうだった。

 絵梨香と2人きりで何だか重苦しい雰囲気になっていると充電中の絵梨香の携帯電話の着信音が鳴る。

 絵梨香は携帯電話を取ると画面をジッと見ている。


 携帯電話の着信音が異常なぐらいに次々と鳴り絵梨香は少し慌てているの様子である。

 僕はそんな絵里香の様子を暫く窺っていた。


 「絵梨香、Dos攻撃でもされてるのか」

 あまりにも物凄い着信に僕は絵梨香の携帯がDos攻撃されているのかと思う。

 ※……大量のデータや不正なデータを送り付けることにより、

    相手方のシステムを正常に稼働できない状態に追い込むのである。


 「違うのっ! 今日のイベントで知り合って……」

 「アドレス交換したレイヤーさん達からなのっ!! 」

 「レイヤーさん達がイベントで撮った写真を送ってきてくれてるのよ」

 絵梨香は鳴りっぱなしの携帯をサイレトモードに切り替えた。

 "ブーン"とバイブの振動音だけが伝わってくる。

 何だか携帯電話が生き物のように蠢いて気持ちが悪く感じる僕であった


 「私、会場に携帯持っていってなかったから……」

 「後で撮った写真を送ってもらう事になってたのよ」

 絵梨香はそう言うと携帯の画面を僕に見せてくれる。


 「これは……凄いな……」

 絵梨香が見せてくれた携帯電話のメールのアイコン未読メッセージは100以上ありリアルタイムで増え続けている。


 「その内に終わるだろう……」

 「それまで待つしかないな」

 僕が諦めたかのように言うと絵梨香も諦めたような表情になる。

 それから10分ほどの間、絵梨香の携帯は休むことなく蠢いているのであった。



 暫くして、女中さんが食事の器を下げに来る。

 父と母が温泉から上がってきた頃には9時前になっていた。

 明日は、寄り道せずに帰る予定である。

 何故なら、その次の日には母は仕事、絵梨香は学校があるからである。

 

 僕もそうだが父も母も疲れ気味で直ぐに寝室へと行ってしまう。

 絵梨香だけが元気で携帯電話をひたすら操作していた。

 多分、今日知り合ったレイヤーさん達と連絡を取り合っているのだろう。

 僕も絵梨香に一声かけると寝室へと向かい布団に潜り込む。

 "流石に疲れたな……"

 "父も母も絵梨香も楽しんでくれたようだし……"

 "飯も美味かったし……"

 などと考え事をしている間に僕はいつの間にか眠りに就いていた。


 どのぐらい寝ていたのか……僕は不意に目を覚ます。

 枕元の携帯に目をやると夜中の2時過ぎだった。

 すると、絵梨香が寝室に入っきて布団の上に座ったままで携帯電話を操作している姿が目に入る。

 "絵梨香のやつ……"

 "まだ、やってるのか……"

僕は心の中で呟くとゆっくりと布団から身を起こす。


 「ごめん……起きちゃった……」

絵梨香は自分のせいで僕が目を覚ましたのかと思ったようだ。


 「もう……寝た方がいいぞ……」

 僕がそう言うと絵梨香は小さく頷く。


 「うん……そうする……」

 「今日はありがとうね……」

 絵梨香は僕にお礼を言うとニッコリと笑う。

 「……ねぇ……兄さん……」

 絵梨香は何か僕に聞きたい事があるようように見える。


 「何だ……」

 僕が絵梨香に問いかけるように言う


 「イベント会場で話していた女の人って……」

 「兄さんの……」

 絵梨香は途中で言うのを止める


 "こいつ……何か勘違いしてるな……"

 僕は心の中でそう呟くと絵梨香が何を考えているのか大体の見当がつく。

 「あの人は高校の同級生だよ」

 「偶然に合っただけだ……」

 僕がそう言うと絵梨香は何とも言えないような表情になる


 「そうなんだぁ……充電しないと……」

 絵梨香はそう言うと手にしていた携帯電話に充電ケーブルを差し込む


 「随分と返信に忙しそうだったけど……」

 僕がそう言うと絵梨香は携帯電話を持って僕の横に座わり送られてきた写真を見せてくれた。

 「随分と送られてきたな……」

 「何枚ほどあるんだ……それ……」

 絵梨香の携帯画面に表示されたサムネイルの数を見て僕は少し驚く。


 「200枚程かな……」

 絵梨香はそう言うと1枚の写真を表示して僕に見せてくれる。

 「この人、すぐ近所に住んでるのよ」

 「今は、大学通うのに東京に住んでるみたいだけど……」

 絵梨香の見せてくれた写真には中野さんが映っていた。


 「そっそうか……そうなんだ……」

 僕は少し焦って言うと絵梨香は次々と写真を僕に見せてくれる。

 写真を見ながらあれこれと説明する表情はとても嬉しそうだ。


 「あの……兄さん……」

 絵梨香は何か言いたそうに僕の方を見る

 「兄さん……8月いっぱいは日本にいられるわよね」

 「その……8月のお盆に……東京で……」

 「大きなイベントがあるのよ……でね……」

 「その……何て言うか……」

 僕には絵梨香が何を言おうとしているのかが分かる。

 「また……一緒に行って欲しいの……」

 「費用は全額、私が出すからっ! お願いっ!! 」

 絵梨香はそう言うと僕に両手を合わせる。


 「絶対に嫌だ……」

 僕はきっぱりと断ったのだが……


 「お願いっ! そんな事、言わずに……」

 「可愛い妹の為だと思って……ねっ……」

 絵梨香はなかなか引き下がろうとはしない。


 「一緒に行ってくれる奴は他にもいるだろうに」

 僕がそう言うと絵梨香は困ったような表情になる


 「それがね……"アッちゃん"も"ミキ"も行けないのよ」

 絵梨香は仲の良い友達が2人ともイベントに行けないという事を僕に訴えかけるように言う。

 「それにね……兄さん……」

 「今日のイベントにも、不審者がいたって言うし……」

 「1人だと心細いのよ……」

 絵梨香は本当に心細そな表情になる。


 「不審者って……そんなのがいるのか」

 僕は吃驚して言うと絵梨香は携帯の画面を僕に見せてくれる。


 「これが不審者よ……」

 「レイヤーさん達の中でも噂になってるのよ」

 絵梨香が見せてくれた携帯の画面には変装した僕の姿が写っていた。

 隠し撮りしたようで少し不鮮明で分かりにくいが帽子とメガネとマスクから間違いなく僕である事が分かる。

 「うっうう……」

僕は声にならない呻き声を上げる。


 「ねっ! 変装なんかして気持ち悪いでしょう」

 「しかも、男の人みたいなんだけど……」

 「私一人じゃ心細いよ……」

絵梨香は自分の目の前にいる兄がその不審者当人だという事に気付いているはずもない……


 "とは言え流石に、「その不審者は僕だ」……とは言えないし……"

 "……かと言って……"

 "今度も絶対に(ブツ)を大量買いさせられるのは確実……"

 "下手すりゃ捕まる……そんな事になれば……"

 僕は頭の中で自分の辿るであろう運命を想像しただけで恐ろしく、そして、恥ずかしくなる。


 「じゃあねっ! 兄さんの"大学合格祝"と言っちゃなんだけど……」

 「欲しい物……何でも一つだけ買ってあげるからっ!」

 絵梨香の"大学合格祝"と言うその一言に僕は迂闊にもピクリと反応してしまう。

 僕は最新型のノートパソコンが欲しいとずっと思っていたのである。

 部屋にあるパソコンは古い上に据え置き型の物なので渡米するにあたって、今や大学生には必需品と言ってもよい持ち運びできる軽くて小型でかさばらない高性能ノートパソコンが本当に欲しかったのである。

 しかし、金が無かったのである……学費に渡米費用とこれ以上は母には言い辛かったのである。


 "お金持ちの絵梨香なら本当に買ってくれるだろう……"

 "大学合格祝いという口実なら問題ないよな……"

 僕の中の貧乏人魂が僕の心に甘い誘惑の言葉を囁きかけてくる。

 この時、"大学合格祝"と言う絵梨香の一言の前に、兄としての威厳(建て前)は完全に消え去っていた。


 「しっ仕方が無いなぁ~」

 僕は、あっさりと絵梨香の捲いた餌に食らいついてしまうのであった……

 この貧乏人根性が災いしてサンフランシスコで銃撃事件に巻き込まれ死にそうな目に遭って間もないというのに、その時の教訓を全く活かせていない残念な僕であった……。



~ 和泉家の人々…… 其之弐 家族旅行 ⑥ ~


終わり



 


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