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 僕は……  作者: イナカのネズミ
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~ 異的大陸 亜米利加・合衆国 ② ~

 ~ 異的大陸 亜米利加・合衆国 ② ~



 せっかく、米国まで来たのだからと言う思いもあり、計画時に丸1日を観光に充てていた。

 土地勘が全く無いので、そんなに多くの場所を回ることは出来ないが空港の近場で交通の便が良い所を選んだ結果、オークランドにあるカリフォルニア大学バークレー校のキャンパス。

それに、カリフォルニア科学アカデミーとサンフランシスコ近代美術館の2つに絞った。


 サンフランシスコには他にも多くの有名な観光地はあるのだが人が多くて嫌なのであえてメジャーな場所は避けている。


 今から考えれば、どうせ4年間はこの地で暮らすのだから、用が済めばそのまま素直に帰れば良かったのだと思う……

 分かっているのだがやめられない、一般庶民の悲しい貧乏性の性としか言いようがない。



 カリフォルニア大学バークレー校だが、言わずと知れた米国州立大学では最難関とされる大学であり世界的な名門校として知られている。

 ただ、どんな学校なのかを見ておきたかっただけである。


 僕がスタンフォード大学を選んだのにちゃんとした理由があり。

 それは、スタンフォード大学はスタートアップ企業への資金提供において世界で最も成功した大学で卒業生はこれまで多数の企業を設立している。

 これらの企業を合わせた年間収益は2.7兆ドル(1ドル=135円換算で364兆円)を超え、世界第7位の経済規模に匹敵しているという国家レベルの超金持ち大学なので留学生に対する学費免除に始まり色々とお得だったというのが貧乏人の僕にとってのリアルな経済的事情であり本音である。

 因みに、カリフォルニア大学バークレー校だが留学生に対する学費免除などの措置はない。



 次は、カリフォルニア科学アカデミーとサンフランシスコ近代美術館の2つは文字通りの博物館である。


 かくして、僕の1日観光が始まるのであった……

 初めに行ったカリフォルニア大学バークレー校のキャンパスだが、やはり環境は良い。

 しかし、キャンパス内では外国人留学生と思われる学生の姿が殆ど見られなく、上手く言えないがスタンフォード大学とは少し雰囲気も空気も違っているような気がする。

 直感で、僕には合わないような気がした。

 他にこれと言って何も無いのでサッサと引き返しカリフォルニア科学アカデミーとサンフランシスコ近代美術館へと向かう事にした。


 僕の予想を見事に裏切り交通機関の遅れも殆どなく計画通り順調に博物館巡りを終え本日の予定が終了してもまだ11時にもなっていなかった。

 時間にかなりの余裕を持たせていたので時間が余ってしまったのだ。


 少し早いが昼飯を食べようと思いながら歩いていると観光地だけ事はあり人通りも多くレストランも多種多様な料理を出す店がたくさんがあるのだが、ある一軒レストラン(中近東料理)が目に留まった。

 "中近東料理……ってアラビア料理の事かな"

 日本の田舎に住んでいる僕にとって中近東料理と言う代物は初めてである。


 アメリカンな食事に飽きてきていた僕は物珍しさもありここで昼食を取ることにした。

 店内は至って普通のファストフード店であるがメニュー表を見ると一番上にハラール料理と言うのがある。



 働いている従業員は多種多様な人種だあるが、客はイスラム教徒の人が多いのが分かる。

 何故なら、女性客の大半がヒジャブというイスラム教徒の伝統的な衣服を身に着けているからである。


 "ハラール料理ってイスラム教徒の……"

 "ちょっと値が張るが……これにしよう……"

 僕は心の中で呟くとこれを注文しようと決める。

 料理がどのような物かよくわからないので、親指を立てた挿絵と"Good NO,1"と表記されているランチコースをそのまま選んで注文した。


 "どんな味がするのかな……"

 僕は初めて食べるハラール料理が楽しみで少し興奮している。

 因みに、メニュー表の説明にはこう書いてある。


 フムス      |ひよこ豆のペースト

 タブーレ     |パセリ中心の前菜サラダ

 レンティル・スープ|レンズ豆のスープ

 シャワルマ    |肉と野菜をピタパンで巻いたラップサンド

 ムハラビーヤ   |アラブ風ミルクプリン 

 カルダモンコーヒー|湾岸諸国の代表的なコーヒー


 初めて口にする料理達が僕の目の前に次々と運ばれてくる。

 食後のデザートの……

 ムハラビーヤ   |アラブ風ミルクプリン 

 カルダモンコーヒー|湾岸諸国の代表的なコーヒー

 この二品は後で合図したら持って来てくれる。


 どんな味かは詳しく書かないが総じて暑い国のスパイシーな味付けだけではなく、酸っぱい物もあれば微妙な味の物もあった。

 それなりの値段であったが普段は口にしない珍しい料理だったので、僕にとってはその価値は十分にあったと思うのであった。


 食事を終えクレジットカード決済を済ませると店を出るが時間はまだ12時過ぎだった。

 "ここら辺をブラブラと散歩でもしようか"

 僕は携帯のマップを頼りに歩き始めた。


 サンフランシスコと言えば西海岸で暑いような気がするが、実はそんな事はなく気温は低くいのである。

 4月末の気温は最高でも18度以下と低く夏場でも22度ぐらいまでしか上がらない、雨がほとんど降らず空気は乾燥しているので日本人は喉に注意である。


 "それにしても……"

 "日本料理店が結構、多いな……"

 辺りを散策しながら歩いていると日本料理らしき店の看板が目に付くが入る気にはなれない僕であった。

 理由はアボガドを寿司ネタにするような国だからである。


 出店でグァバジュースを買ってそれを飲みながらサンフランシスコと言う街の風景と音を感じ取りながら歩く。

 "やっぱり、こうして歩くのが一番いいな"

 などと心の中で呟きながら危険な所を避けつつ予約しているホテルへと歩いていくと道路を物凄い勢いで車が走り去ったと思えば少し遅れてパトカーがサイレンを鳴らして走ってくる。

 "日本とは、サイレンの音が違うな……"

 などと思いながらボッ~っと走り去っていくパトカーを見送る僕であった。


 2時間近く歩き回り少し疲れたので公園で一休みしようと思い近くにあったベンチに腰を下ろす。

 目の前をジョギングしているトレーナー姿の人が何人も通り過ぎて行く。

 何処からかサックスの演奏が聞こえてくる。

 "やっぱり……都会は違うなぁ~"

 僕は心の中で呟くとベンチが立ち上がり再び歩き始めた、10分ほど歩くと多くの人で賑わう大規模なショッピングセンターの前に出た。

 "ここは、どの辺りなんだろう……"

 立ち止まり携帯電話のマップを開きGPS機能を使って現在位置を確認していると何やら周囲が騒がしい。


 「何かな……」

 僕は小さな声で呟くように言うと声がする方に目をやる

 "パン! パン! パン!"

 いきなり大きな音がすると同時にいくつもの悲鳴が聞こえてくる。

 "こっ! これはっ! "

 "間違いなく銃声だっ!!! "

 呆気に取られて一瞬だが身体が固まって動けなくなってしまう。


 パニックに陥った大勢の人が血相を変えてこちらの方に走ってくるのが分かる。

 その後ろには映画でよく目にするライフル銃を持った人が周りに手あたり次第に発砲している様子が目に入る。

 既に、何人かの人が血を流して地面に倒れている姿が目に映る。

 すると、ライフル銃を持った人がこちらの方に向かって銃を構える。


"duck!!!"

 僕のすぐ隣にいた中年の白人男性が大声で叫ぶ、僕は慌てて地面に伏せる、パン! パン! と言う銃声を2回耳にしたかと思うと直ぐ近くから女性の悲鳴が聞こえてくる。

 (この場合、"duck"とは"アヒル"ではなく"伏せろ"と言う意味である)

 

 立て続けに銃声が聞こえ悲鳴が聞こえてくる。

 何が何やら分からないまま必死で地面にへばり付いていると銃声が遠のいていくのが分かる。

 体が小刻みに震えて手足が強張って硬直したようになっている。

 僕は地面にへばり付いたまま目玉だけを動かして周りの様子を窺っていると、5~6メートルほど離れた所に若い黒人女性が血を流して倒れているのが目に入る。


 "撃たれてる……"

 "死んでいるのかな……"

 そんな事を考えていると若い黒人女性の体が少し動いているのが分かる。

 "よかった……生きてるみたいだ……"

 安心しているとパトカーと救急車の音が幾つも聞こえ近付いて来るのが分かる。


 僕はゆっくりと身を起こすと座ったまま周囲を見回す、腰が抜けて立ち上がれないのである。

 僕と同じように命拾いした人々が同じように地面に座ったまま呆然としている。


 視界に入っただけでも少なくとも10人以上の人が倒れているのが確認できる。

 皆、撃たれ衣服と地面に血が滲み出ているのが分かる、その内の何人かはピクリとも動いていない。

 "死んでるのかな……"

 僕は心の中で呟くと自分の身体の様子を確かめる。

 "血は出ていないみたい……だな"

 頭から胴体、足まで手で触り何度も確かめる。

銃を手にした警察官と担架や救急箱を持った救急隊員が何か叫びながら何人もこちらにやってくる。

 

 僕は何とか立ち上がり、もう一度周囲をよく見まわす。

 事件に遭った大勢の―の人々が路肩に蹲っているのが分かる。

 泣いている人、放心状態の人、人それぞれである。


 すると、再び遠くの方から激しい銃声が鳴り響き僕も含めて皆が一斉にビクッとなるのが分かる。


 そんな混乱した中で、次々と撃たれた人が救急搬送されていく、警察官が大声で危険だからここから避難するようにと言っているのが聞こえてくる。

 撃たれて倒れていた若い黒人女性も応急処置を受け担架で運ばれていくのを見て自分の事のように安心した。


 信じられない光景に僕は思わず自分の頬を軽く抓ってみる

 "痛い……夢じゃないんだ……"

 僕はそう呟くと警察官の指示通りに避難した。

 自分でも不思議なぐらいに冷静だった、おそらく感覚が完全に麻痺していたといった方が正しいと思う。


 奇跡的に無傷だった僕は何事も無く予約してあったホテルにチェック・インする。

 シャワーを浴び服を着替えベッドに横になる。

 その日は、ただ呆然とベッドに横になったまま、夕食も取らずにそのまま寝てしまう。


 買い物客で賑わっていたショッピンク・モールで突然起きたこの銃撃事件は49人もの死者を出し、米国でも最悪の無差別殺人事件の一つとなった。

 犯人は駆け付けた警官との銃撃戦の末に射殺された。

 元・海兵隊員の男で麻薬中毒患者であった。

 



 ~ 異的大陸 亜米利加・合衆国 ② ~

 

 終わり


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