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 僕は……  作者: イナカのネズミ
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〜  旅の終わり、メリッサの帰国 〜

 〜  旅の終わり、メリッサの帰国 〜



 絵梨香とメリッサがランニングをしている間に僕は朝食の支度をしている。


 時計の針は朝の午前7時前を指している。


 今日の朝食のメニューは玄米パン、それに鶏肉のササミをほぐして野菜と和えたサラダに茹で卵である。


 僕には何も言わないが、絵梨香の話だとメリッサの体重は少しだが減ってきているそうである。


 食事を終えて暫くすると家の電話が鳴る。

 携帯電話の時代でも家の固定電話が鳴る事がたまにあるが殆どがいわゆる迷惑電話である。

 当然、僕は無視するのだが暫くして留守電に変わると相手の声が聞こえてくる。


 「あ〜もしも、和泉刀匠のお宅でしょうか?」

 「私は独立行政法人国立文化財機構の平賀と申します」

 「お留守のようなので……」

 僕は慌てて受話器を取る。

 コレは絶対に無視してはならないやつである。


 なんとか相手が電話を切る前に応対できる。

 保留ボタンを押して鍛冶場の父に電話の事を伝えに行く。

 父と相手の会話が少し聞こえてくるが内容はわからない。

 電話を終えた父は電話を切ると……

 「すまんが、急用ができた……」

 「今日の昼頃に家を出るのでタクシーを手配してくれ」

 「今日は向こうで泊まりになる予定だ」

 父がタクシーの手配を僕に頼んでくる。


 「駅までなら僕が送るけど……」

 僕がそう言うと父の顔から血の気が引いていく。


 「あ、あ、まぁ、そのなんだ……」

 「客人メリッサもいる事だし今回はタクシーで行く」

 「次は頼む事にする……」

 「わしは支度があるから……」

 父はそう言うと足早にリビングを出て行く。

 何故か父の声は上擦っているのであった。


 

 その後で絵梨香とメリッサの3人で昼食を食べていると……

 「私、ご飯食べたら……」

 「ちょっとアッちゃんと会う事になったから……」

 昼食を食べていると絵梨香が不意に言う。


 「そうなの?」

 僕がそう言うと絵梨香はメリッサの方を見てニッコリする。


 昼ご飯を食べ終わると絵梨香は少し大きめのスポーツバッグを持って家を出る。

 それから暫くすると父を迎えにタクシーが来る。


 結局、家には僕とメリッサの2人だけになってしまうのであった。


 「カネツグ、少し散歩しない?」

 「案内はカネツグに任せるわ……」

 メリッサの誘いに僕は小さく頷く。


 僕の案内で自宅から少し離れている小高い丘まで散歩に行く。

 メリッサと今まであった事を思い出し話しをながら散歩していると小高い丘に到着する。


 丘の周辺は公園として整備されている。

 広々とした公園なのだが真冬なので人の姿は全く見当たらない。

 

 小高い丘に登るための階段を登り頂上から周囲を見渡す。

 

 「変な形の丘ね……」

 メリッサは周囲を見渡しながら呟く。


 「そうだね……」

 「この丘が変な形なのはどうしてだかわかる?」

 僕はメリッサに尋ねるとメリッサは首を傾げている。


 「そうね……公園を造るのに……」

 「土木工事かなんかでで切り崩したんしゃないの?」

 メリッサの答えは半分は正しい。


 「そうだね……半分は正解……」

 「でも、半分は不正解だよ……」

 僕がそう言うとメリッサは少しムッとする。


 「この丘は古墳なんだよ……」

 僕が答えを言うとメリッサは首を傾げる。


 "kofun?"

 メリッサは小さな声で呟く。

 

 「そう……古代のお墓だよ……」

 「この古墳は6世紀初めに造られたそうだ」

 「だから、土木工事って言うのは正解……」

 「でも、切り崩したんじゃなくて盛り上げたから半分は不正解……」

 「だから、半分は正解で半分は不正解……」

 僕が理由を説明するとメリッサはニッコリと笑う。


 「そしてね……今、メリッサがしているその勾玉の首飾り……」

 「譲ってもらった人の話だと……」

 「その勾玉はこの古墳から出土した物らしいんだよ……」

 僕がそう言うとメリッサは胸元の勾玉をそっと取り出す。


 「そう……なの……」

 「このお墓に眠っている人の物なのかもしれないのね……」

 「それも、1500年も前の人の物なのね……」

 メリッサはそう言うと両手で勾玉を握りしめてお祈りをしている。


 「今日の夕食は鰻にしよう……」

 僕がそう言うとメリッサはニッコリと笑う。

 ここ数日で最高の笑顔であった。

 メリッサは鰻重が大好物なのである。


 ゆっくりと歩きながら自宅に着いたのは午後4時過ぎになっていた。


 「絵梨香が帰ってきたら鰻を食べに行こうか」

 僕がメリッサに尋ねるとメリッサは大きく頷く。


 すると僕の携帯電話がなり始める。

 絵梨香からの電話である。


 「あっ、兄さん、私、今日はアッちゃんの家に泊まる事になったの……」

 「夕食は要らないから」

 そう言うと絵梨香からの電話はプッツリと切れた。


 「どうしたのカネツグ?」

 メリッサは絵梨香からの電話の内容が気になっているようである。


 「絵梨香のやつ、今日は友達の家に泊まるんだって……」

 「なので、夕食は要らないそうだよ」

 「それじゃ、これから行こうか……」

 メリッサはニッコリと笑う。

 「あっ!そうだ、鰻のお代わりは絶対にダメだからね」

 メリッサは露骨に不満そうな表情になるのであった。



 鰻を食べて家に帰る途中で不意にメリッサが立ち止まる。

 「明日には帰らないといけないのね……」

 メリッサは小さな声で呟く。


 「……」

 僕には返す言葉が無い。


 「なんだか……夢を見ているみたいな感じがするわ……」

 「このまま、醒めなければいいのにね……」

 そう言うとメリッサは冬空を見上げる。

 じつは、僕もメリッサと同じような感覚なのである。


 「半年後、僕がフランスに行くよ……」

 「今度は1ヶ月はいるつもりだから……」

 僕は本当に最低でも1ヶ月はフランスでメリッサとのんびりと過ごすつもりなのである。


 「そう……半年か……」

 「なんだが凄く長いような気がするわ」

 メリッサはそう言うと再び歩き始める。

 僕とメリッサは横に並ぶようにして無言で歩くのであった。


 家に帰るとメリッサと僕は一緒にお風呂に入る。

 メリッサはお風呂から出た時に体重を計っていた。

 リビングでお茶を飲みながらテレビを観ている。

 メリッサが子供の頃に好きだった某アニメである。


 テレビを見終わった頃には午後10時になっていた。


 「明日は、10時40分発だったよね」」

 僕はメリッサに帰りの飛行機の時間の確認する。


 「そうよ……」

 「後、12時間ほどしたら飛行機の中ね……」

 メリッサは少し寂しそうに答える。


 「少し余裕を持って9時過ぎに出ようか?」

 僕が尋ねるとメリッサは小さく頷く……

 "……明日の事を考えると……"

 "絶対に早く寝た方がいい……"

 "問題はどうやって早く寝るかだ……"

 さっきから僕はずっと心の中でメリッサの意味ありげな視線に怯えている。

 

 「ありがとう、カネツグ……」

 急にメリッサは僕にお礼を言う。


 「……?……?」

 どうしてメリッサが僕にお礼を言っているのか分からない。


 「絵梨香とカネツグのおかげで……」

 「何とかなりそうだから……」

 僕はダイエットの事だと気付く。


 「そうなんだ……よかったよ……」

 「あっ、でも夕食に鰻なんて食べてもよかったの?」

 僕は少し心配そうに尋ねる。


 「よくはないわ……」

 「カロリーオーバーね……」

 「その分のカロリーは今日のうちに消費しないと……」

 メリッサの言葉に僕の背筋に悪寒が走る。

 僕は要らない一言で墓穴を掘ってしまった事に後悔する。


 「あの〜メリッサさん……」

 「明日も早いので……早めに……」

 「その……お休みになられた方が……」

 僕はメリッサにお伺いを立てるのだが……


 「ダ〜メっ!」

 メリッサは即答であった。


 「ひっ!ひぃ〜っ!」

 メリッサは問答無用で僕の首根っこ掴んで和室に引きずって行く。

 "メリッサに鰻なんかっ!"

 "食べさせるさんじゃなかったぁ!!"

 減量で食事を我慢していたメリッサに情けをかけて特上鰻重に精の付く肝吸い肝串をご馳走した事に心の底から後悔する僕であった。



 その頃、アッちゃんの部屋では絵梨香とアッちゃんが腐女子ネタで盛り上がっていた。

 "メリッサさん……兄さんと上手くヤってるかな……"

 "私ってなんて気の利く妹なのかしら……"

 絵梨香は健気な妹の自分に満足しているのであった。

 当然、昨日の夜にメリッサとは談合済みである。


 かくして僕はまたしても絵梨香とメリッサに嵌められたのであった。


 翌朝、メリッサは肌艶も血色もすこぶる良いと言うのが一目でわかる。


 代わりに、僕は腰痛に苦しんでいるのであった。


 電車を乗り継ぎメリッサを空港に送る。

 飛行機は時間通りに飛ぶようである。


 「前の時みたいに雪が積もればいいのに……」

 メリッサは曇り空を見上げて呟く。


 飛行機の搭乗手続きのインフォメーションが流れる。

 僕はメリッサと抱き合いキスを交わす。


 「半年後にフランスで……」

 僕はメリッサの耳元で呟く。


 「待ってる……」

 メリッサは小さな声で言うと搭乗ゲートに向かって振り向く事なく歩き始める。


 僕からは見えなかったがメリッサの目からは涙が溢れ出しそうであった。


 こうして、僕とメリッサの旅は終わりを迎えた。


 因みに、その日の風呂上がりに体重計に乗ると僕の体重は✖️Kg減っているのであった。


 メリッサのおかげであるが、僕にはダイエットなど初めから必要がない……。




 〜  旅の終わり、メリッサの帰国 〜


 終わり


 



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