〜 メリッサの苦悩 ① 〜
〜 メリッサの苦悩 ① 〜
旅行も残すところ後1日……
ものの見事に太ってしまったメリッサ……
「あーーっ!どうしようっ!!」
「このままだとマズわっ!!!」
メリッサは部屋の片隅に蹲り頭を抱えて苦悩している。
「そんなに気にすることないんじゃない?」
「見た目はそんなに変わらないよ」
僕はメリッサを慰めるように言うのだが……
「確かに見た目は……」
「そんなに変わらないかもしれないけど……」
「用意されている衣装は太る前のサイズで作られているのよ……」
「今更、仕立て直す事なんてできない……」
「本当にマズいのよ……」
メリッサは真っ青な顔で呟く。
「帰国まで後……3日か……」
「とりあえずは食事制限しないと……」
「なるべく高カロリーな物や脂質は控えないと……」
落ち込んでいるメリッサに僕がそう言うと……
「うっ!そんなぁ……」
メリッサは悲しそうに呟く。
「大丈夫、僕がキチンとカロリー計算するから」
この手の事は僕の得意とすると所なのである。
「とりあえずは、寝る前の"おにぎりと唐揚げ"は禁止っ!」
僕の言葉にメリッサの目が潤むのだが……
「ダメなものはダメっ!」
僕の固い決意にメリッサはガクンと肩を落とすのだが……
「そうね……でも……」
「食べ物もそうだけど……」
「適度な運動もしないとねっ」
メリッサは僕の方を見てニヤリと笑う。
「ひっ!」
メリッサのニヤリとした笑いに僕の背筋がゾッとする。
転んでもタダでは起きないメリッサであった。
ハッキリ言って僕の方が先に痩せてしまうのではないかと本気で思う。
何にせよ、僕の"メリッサ減量作戦"が始まるのである。
僕の予定では……
明日は、熊野本宮大社に行きバスで白浜空港に向かい飛行機で帰る予定である。
……と言うわけで今、熊野本宮大社に来ている。
熊野本宮大社でお参りした後で昼食を食べる事にする。
通りの鰻屋さんにメリッサの目が釘付けになる。
そんなメリッサを引きずって隣りの蕎麦屋さんに入る。
不満そうなメリッサであったがかけ温かいかけ蕎麦を美味しそうに食べるのであった。
その後で大斎原に向かう
「随分と大きな鳥居ね……」
携帯電話で撮影しながら大斎原の大鳥居を見上げながら携帯電話で撮影しているメリッサが呟く。
暫く散歩した後にバスに乗って白浜へと向かう。
バスだと白浜までは2時間以上かかるが熊野の山々を見ながらゆっくりのバス旅もなかなか良い。
白浜から飛行機に乗り無事に羽田空港に到着、旅行を終えて実家に帰って来たのは午後7時前であった。
急にメリッサの予定が変わったのでホテルの予約は取らずに僕の実家で2泊する事になっている。
「本当に……」
「カネツグの実家にお泊まりするのよね……」
メリッサはそう言うと家の玄関の前で立ち止まり深呼吸をする。
「なにしてるの?」
この前に来た時とは少し違うメリッサの様子を見て僕は不思議そうに尋ねる。
「なんだか……変に緊張するのよ……」
メリッサの声は少し強張っている。
よくよく考えたら僕もメリッサの実家へ初めて行った時は同じであった事を思い出す。
「妹の絵梨香は遠征で……母のハンナも仕事だから……」
「家に帰ってくるのは3日後だから……」
「家にいるのは父だけだから……」
僕はメリッサを安心させようとするのだが……
「カネツグのお父さんって凄く偉い人なんでしょう?」
「別荘も凄かったし……」
どうやらメリッサは父の事を気にしているようである。
「僕の父はそんなに偉い人でもなければ……」
「気難しい人でもないよ……」
「ただの刀好きの禿げオヤジだから……」
僕は笑ってメリッサに説明するのだが……
「そ、そうなの……」
メリッサの反応は今ひとつである。
「玄関先で突っ立っていても仕方がないから入ろうか」
僕はそう言うと玄関の引き戸を開けメリッサの手を引いて中に入る。
久しぶりの我が家は何故かいつもと少し様子が雰囲気が違うような気がする。
リビングに入ると遠征で留守のはずの絵梨香がソファーに座って呆然としている。
「どうしたの?」
僕は思わず絵梨香に問いかけてしまう。
「あ……あ、兄さん……お帰り……」
いつもの絵梨香らしくない様子に僕はなんだか胸騒ぎがする。
「あ……メリッサさんも一緒なんだ……」
「私がいると迷惑だわね……」
その口調がいつものスケベオヤジの絵梨香の口調とは全く違い明らかに様子がおかしい。
「何かあったの?」
心ここに在らずの絵梨香に僕は心配しそうに尋ねる。
「実は……私、海外派遣されるかも……」
僕にはなんの事かわからない。
「……海外派遣?……どういう事……?」
何の事か分からない僕は首を傾げながら絵梨香に尋ねる。
絵梨香は僕に海外派遣の事を説明してくれる。
絵梨香を名指して日本テニス協会から海外派遣の申し入れがあったそうである。
そんなこんなで急遽、予定が変更されたのだそうで家に今日から2日ほど一時帰宅しているのである。
プロテニスプレイヤーになると日本国内を始め海外への参加も多くなるので遠征の資金面でも大変なのだそうである。
絵梨香は有名なスポーツ関連企業がスポンサーになってくれたので遠征の資金面での心配はないのだそうだ。
僕には言わなかったがプロになってからは海外にも遠征していたようである。
上手くいけば"WTA250"とか言う賞金総額180万ドルの試合にも出場できるかもしれないそうである。
※日本円で約2億7000万円である。
そんな凄い事なのにどうも絵梨香に元気がないのか不可解である。
「凄いじゃないかっ!絵梨香っ!」
僕は思わず声を上げてしまう。
「兄さん……今の……凄いは……」
「賞金総額の事でしょう?」
絵梨香は身を細めて僕に言う。
「うっ!」
絵梨香に図星を突かれた僕には返す言葉も無いのであった。
「どうかしたのカネツグ……」
そんな僕と絵梨香の様子を見ていたメリッサが小さな声で僕に尋ねる。
僕と絵梨香の会話は日本語でのやりとりだったのでメリッサにはわからないのである。
僕はメリッサに事情を話す。
「絵梨香さんってプロテニスプレイヤーだったの?」
メリッサは絵梨香がプロテニスプレイヤーだった事の方が驚きだったようである。
「それで、カネツグ……」
「絵梨香さんは何を悩んでいるの?」
メリッサの言葉に僕はハッとなる。
絵梨香の言う通り僕の頭の中は賞金の2億7000万円でいっぱいだっのである。
絵梨香の言っている事は的確に核心を突いていたのである。
流石は伊達に17年も妹をやっているわけではないのである。
心から自分の浅ましさを痛感し反省するのであった。
メリッサに言われて我に返った僕は絵梨香に何を悩んでいるのかを尋ねると……
「まだ、確定した訳じゃないのよ……」
「今の対戦成績なら"出場できるかも"しれない……ってだけなのよ」
絵梨香はそう言うと小さなため息を吐く。
「結果が出るのは8月の初めなのよ……」
「それなのに……」
「周りの期待と羨望が凄くて……」
絵梨香はそう言うと再び小さなため息を吐く。
そんな様子を見てメリッサは絵梨香の側に近寄ると……
「絵梨香さん私と一緒に頑張りましょう」
メリッサの突然の言葉に絵梨香は戸惑っている。
「私も少し事情があって体を引き締めないといけないのです」
「明日と明後日の2日だけですが……」
「私と一緒にトレーニングしましょう」
メリッサの突然の申し出に絵梨香は戸惑いながらも微笑むと右手を差し出す。
そして、メリッサと硬い握手を交わすのであった。
「ありがとう……メリッサさん……」
絵梨香はそう言うと深呼吸をする……そして……
"ごめんね、メリッサさんとのラブラブでエッ◯な時間を邪魔しちゃって……"
僕の耳元で囁く絵梨香の声と口調はいつものスケベオヤジの声と口調であった。
素直にメリッサに感謝である。
かくし、メリッサ減量作戦と絵梨香強化トレーニングが同時進行するのである。
そして、僕は是非を問うこもとなくその管理責任者に任命される事になるのである。
〜 メリッサの苦悩 ① 〜
終わり