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日曜日の午前中。
気候は晴れ。絶好のバトル日和だ。
「今日こそ正義の鉄槌を食らわせてやるぞ! 悪の怪人め!」
「ふーははは! 軟弱なヒーローごときにやられるほど耄碌しておらんわ! どうした? 早く我の歩きタバコを止めてみよ」
「許さん! くらえ! 炎のネオマグナムキック!」
「ぐぅふぁ! やるではないかー! ならばこちらは大地を持ち上げる大技を繰り出してやる。大魔界リフトアップボンバー!」
「のわー!」
俺と怪人は、多くの子どもたちが見守る中、今日も戦いに明け暮れる。
お互いに年も年なので本気で殴り合うことはせずに、うまく力を抜きながら戦う。
アクションの勉強もしっかりとして、より迫力のある動きができるようになってきた。
周囲で見守る子どもたちは「ヒーロー、がんばえー!」「怪人をたおちぇー!」と声援を送ってくれる。
さらにその周りには、コアなファンたちが見守ってくれている。
「だー! 勝ったぞー! 悪の怪人をやっつけたー!」
観客たちが喜びの声を上げる。
今週は俺の勝利で終わった。たまに、怪人が勝つこともある。
今回はテーマが『歩きタバコ』だったので、正義側の勝利というシナリオだ。
「みんな―! 歩きタバコは危険だー! 絶対にやめようー!」
みんなにそう呼びかけたあと、俺は近くに設置しておいたスマホの画面にも語り掛ける。
「視聴者のみんな、今日も見てくれてありがとう!」
俺は怪人と一緒に動画のチャンネルを立ち上げた。
毎週行われる真剣バトルの様子を配信するためのチャンネルだ。
収益は怪人と山分けしている。
「それじゃあ、バイバイ! 午後はレコレコさんのチャンネルでロケだから、そっちも見てね! まだ直接真剣バトルを見てない人は、来週もやるから来てくれー! 河川敷で僕と握手!」
そう言って配信を閉じる。
そして、集まってくれたファンの人たちと握手をして交流をする。
「ヒーローさん、どんどんアクションうまくなっていきますね!」
「おう! 鍛えてるからな! でもまだまだだ。伸びしろだらけだぞ!」
「また来ます! 普段のボランティア動画も楽しみにしてます」
「待ってるぞ! 動画は月曜には上げるからちょっと待っててくれ!」
みんな口々に俺に声援や好意のこもった言葉を投げかけてくれる。
それが俺のやる気にもつながっていて、非常によいサイクルを生み出している。
俺もだいぶ変わったな。
あの火事の一件までは、心のどっかに後ろめたさとか、やましい気持ちがあった気がする。
今は怪人と一緒に堂々と活動できていて、すごく気持ちがいい。
ファンサービスを続けていると、怪人が駆け寄ってくる。
「ヒーロー! 大変だ! 視聴者からの通報があった」
「なにがあった!?」
「なんでも飼ってたニシキヘビが脱走したらしい。すでに近隣住民は大パニックだ!」
「しょうがない。予定を変更してヘビの大捜索だ! 怪人、お前も行けるか!?」
「おう! もちろんだ!」
「よっしゃ! ヒーローと怪人の連係プレイだ! さっそく現場に急行するぞ!」
俺と怪人はみんなに手を振り、その場をあとにした。
みんなの声援を背中に受けながら、俺たちは駆けていく。
「大人気だな。ヒーロー。やっぱり、おまえにはこれが合ってるよ」
「そうか? 誰にでもできる活動さ」
「まあな。誰にでもできる。だけど、今の世の中じゃ、誰もやらないことだ」
「まあ、たしかにそうかもな」
誰が好き好んで日曜日に人助けなんてやるんだって話だよな。
まあ、それをやってる俺は変人だし、それに付き合ってくれている怪人も変人だ。
「そう考えると、俺たち二人は変人だよな」
「変人か。上等じゃねえか」
怪人は嬉しそうに答える。
「はは。……でもさ、最近、考えるんだ。この活動、いつまでやれるのかなって」
誰かが困っているなら迷わず助ける。
弱い人の味方になってあげる。
そういう活動は好きだ。
だけど、ヒーローは孤独で、ときどき寂しくなる。
「なんだよ。ずっとやろうぜ。楽しいじゃん」
「そうだけどさ……。いいのかなって」
「いいに決まってるだろ? それに、やり続けていることにヒーローの価値はあるんだと思うぜ」
「ヒーローの価値……か。うん、そうだな!」
俺は弱気な心を振り払う。
「よーし、今日も誰かを助けるぞー!」
「その意気だ! ヒーロー!」
ヒーローは孤独でときどき寂しくなるけど、大丈夫。
俺には怪人がついている。
こいつとなら、ずっと戦い続けられるんだ。
~fin.~
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