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 家に帰って大の字に寝転がる。

 酔っているのか、天井が回る。


 あ~、死にてぇ~。

 将来のこととか考えたくねぇ~。


 もう32歳なので、将来とかいう言葉はあまり似合わない気がするが、とにかく未来のことは考えてしまう。

 最近、ずっと不安な気持ちが続いている。


 このままバイトリーダーのまま一生を終えるのか。

 なにか、楽して稼げるバイトとかないのか。

 知名度だけはあるんだから、これを活かしてなにか……。


 横になりながらテレビを見る。

 芸能人が数人と、見知らぬ男性が数人……。

 

 誰だ。

 あれは?

 ああ、最近ネットで話題のインフルエンサーとかいう職業の奴等だ。

 

 俺はこのインフルエンサーとかいう奴等が大っ嫌いだ。

 たいした能力もない癖に、知名度だけで楽して金を稼ぎやがって……。

 ん? ちょっと待てよ。


 そのとき、脳内に電撃が走った。


 そうだよ。

 なんで気づかなかったんだ?

 なればいいんだよ。俺もインフルエンサーに!


 起き上がってパソコンを起動する。

 インフルエンサーのなり方を調べる。

 

 「なになに、動画配信、動画投稿で人気になれる。SNSにアカウントを作って……」


 これならできる。

 低スペックなパソコンだが、スマホと組み合わせれば問題ないはずだ。


 「よし、よし、やれる。やれるぞ!」


 一気に目の前が開けた気がする。


◇ ◇ ◇


 『え? 来れない?』


 『すまん! 今週は真剣バトルを休ませてくれ!』


 『もっと早く言ってくれよ~。もう子どもたち来てるんだぞ』


 『ごめんって! ちょっと新しい仕事を進めてるんだ』


 『おっそうなのか。わかった、そういうことなら協力しよう。今日は俺だけでなんとか場をもたせるから』


 怪人に謝りの連絡を入れる。

 

 「みんな~お待たせ~。じゃあ、質問コーナーの続きやるよ~」


 俺は、この間から始めた動画配信にどっぷりはまっていた。

 この一週間でもう50時間くらいやっている。

 

 「わあ! スパチャ1万円、ありがとうございます! 生活費の足しにします~」


 またスーパーチャットを投げてもらった。

 スーパーチャットは、視聴者からお金がもらえるシステムだ。

 今週だけでもう10万円も稼いでしまった。

 自分でもびっくりするくらい順調だ。


 最初は不安で、恐る恐る始めた動画配信だったが、意外や意外、ネットの住人たちは俺のことをあたたかく迎え入れてくれた。

 どうやら、「真剣バトルを見に行くほどじゃないけど、昔から知ってる人だから配信を見てみようかな」という気持ちの人が多いようで、予想をはるかに上回る視聴者が見てくれている。


 同時接続一万人以上。

 もはや、大手の仲間入りと言ってもいいレベルだ。


 「ユキさん、スーパーチャットありがとう!」


 またスーパーチャットでお金をもらった。

 俺はお礼に必殺技を披露する。


 「正義のマグナムキック! とおおおおう!」


 コメントの雰囲気もすごくいい。

 『マグナムキック、懐かしい!』『なんかかわいい!』『よく見るとイケメン』という感じの好意的なコメントがたくさん流れる。


 ああ、やばい。

 気持ちよすぎる。

 これだよ。この感覚だよ。

 みんなが俺の一挙手一投足いっきょしゅいっとうそくに注目してくれるこの感じ。

 五年前には毎週のように味わっていた快感だ。

 それが、今では毎日味わえる。

 本当に動画配信様様だな!

 

 ブーブー。


 ブーブー。

 

 「ん?」


 スマホが鳴る。

 電話だ。

 

 なんだよ、配信中に。

 あっ。バイト先からだ。


 『はい。もしもし』


 『おい! なんで今週バイト来ないんだよ! おかげで大変なことになってるぞ! だれがお前みたいなニートを雇ってやってると思ってるんだ! クビにするぞ!』

 

 店長だ。

 相変わらずムカつく声で怒鳴り散らしてくる。

 今週、俺がバイトを無断欠勤しているから怒っているらしい。


 なにがニートだ。バイトしてるんだからフリーターだろ。

 いちいち嫌な言い方する奴だ。


 『あ、そっすか。じゃあ、クビでいいです』


 それだけ言って電話を切った。


 今更バイトなんてやるわけないだろ。

 バッカじゃねえの?

 俺はなぁ。今をときめくインフルエンサー様になったんだよぉ!

 

◇ ◇ ◇


 「ぎゃあああああああ! お化けだあああああ!」

  

 パァン! パァン!


 俺は叫び声を上げながらゾンビから逃げる。

 追いつかれるギリギリのところで、方向キーを倒してゾンビの手から逃れる。

 振り向いて、拳銃を二発お見舞いする。


 「いや~、やっぱりこのゲーム怖いですねぇ~」


 今日はゲーム実況をしている。

 新作のホラーゲームが出たので、誰よりも早く実況プレイをしようと思ったのだ。

 

 『ゲームうまい! さすがヒーロー!』『叫び声がかわいい!』『うっま』『ヒーロー最強!』

 

 コメントは今日も大盛り上がり、ヒーローがゾンビを倒すというメタ的な感じが絶妙に受けている。

 今週はスーパーチャットを20万円もらった。

 今回以外も非常に好評で、最近配信した放送の動画は軒並み100万再生を越えており、とっくに収益化している。

 

 『ヒーローさんの動画マジ面白い!』『本職のヒーローが実況とか時代の流れわかってる!』


 そうなんだよ。

 俺って昔から友達とゲームやると「実況動画上げれば」って言ってもらえるくらいにはリアクションが面白いんだよな。

 インフルエンサーが楽に稼げる職業だってことにも気づけたし、やっぱり俺って優秀だわ。


 その日の配信は同時接続5万人を超えた。

 もう日本一クラスのインフルエンサーと言ってもいいだろう。


◇ ◇ ◇


 「じゃあ、ゴミ拾っていきますか。ヒーローさん」


 「はい! すごいゴミですね!」


 今日はボランティア活動をしている。

 場所は渋谷、タバコのポイ捨てが絶えない街だ。

 中には、喫煙所以外で吸っている不届き者もいる。

 俺は若者二人に注意をする。


 「すみません! ここでタバコ吸わないでください。あちらの喫煙所でお願いします!」

 

 「ちっ。うるせえな! って、ヒーローさん?」


 「はい。今日はボランティアで渋谷のゴミ拾いです。さあさあ、あちらの喫煙所に!」


 「マジかよ~。昔、真剣バトル見に行きましたよ。ファンなんです! 握手してください!」


 「え? ああ、まあいいけどね」


 若者二人と握手をする。

 二人は嬉しそうに喫煙所へ向かってくれた。


 「いや~。さすがはヒーローさんですね」


 「いや、それほどでも、レコレコさんのほうがすごいですよ」


 「そんなことないですよ。あいつらね。僕が言っても、言うこと聞かないから。やっぱり、今をときめくインフルエンサーはちがうなぁ~」

 

 超大手配信者のレコレコさんに褒めてもらえた。

 レコレコさんは配信者としては十年選手で、俺よりも圧倒的に人気のあるインフルエンサーだ。

 今回のような社会貢献活動や、悩みを抱えた人の人生相談、ほかにも面白い企画をたくさん行っている。


 『ヒーローさん、礼儀正しい!』『レコレコと相性いいな』『こういう企画、もっといっぱい見たい!』


 リアルタイムでみんなからのコメントが届く。

 今日のボランティア活動はすべて配信されているのだ。


 「いやぁ~、レコレコさんの視聴者のみなさん。ありがとうございます。これからも面白い企画をいっぱいやっていきますよ!」 


 そう。

 おれはついに本当の日本一の配信者とコラボするレベルにまできたのだ。

 月収はとうに100万を超えている。

 この調子で人気が上がり続ければ、数年以内に一生分のお金を稼ぐことができるだろう。


 「それじゃあ、今日はありがとうございました!」


 「おー。ヒーローさん、またよろしくね~」


 レコレコさんと別れ、俺は渋谷の街に消えていく。

 本当はレコレコさんともっと仲良くなるために、一緒に飯でも行きたかったのだが、これからちょっとした予定があるのだ。  

 

◇ ◇ ◇


 「きゃあ~、本物のヒーローさんだぁ~」


 「しっ。周りの人にバレるとやっかいだから、ね?」


 「あ、ごめんなさい。私、はしゃいじゃって」


 ここは渋谷の道玄坂。

 渋谷の中でも、もっとも怪しいお店が立ち並ぶ場所。

 あたりは、風俗やラブホテルのネオンでギラギラと光っている。


 およそ、俺のような人間には似つかわしくない場所。

 それでなくとも、ヒーローがこんなところをうろついているとわかったら一大スキャンダルだ。

 細心の注意を払わなくては。


 「うふ。ヒーローさんと二人っきりなんて夢みたい」


 一緒にいる女の子が腕を絡めてくる。

 彼女は俺のファンで、どうしても会いたいと言うので時間を作ったのだ。

 今や一流のインフルエンサーの俺は時間に追われる生活をしているし、変な噂が立つのも嫌だったので最初は断っていた。

 だが、彼女は毎回俺に高額のスーパーチャットを投げてくれる常連さんだ。

 無下に断ることはできない。

 それに、びっくりするほど可愛い。

 まだ十八歳だという彼女は、過去に読者モデルをしていた経験を持ち、SNS上では結構なファンを抱えているインフルエンサーの端くれでもある。


 「ねぇ~、私疲れちゃった。どっかで休もうよ~」


 「あ、ああ、いいよ。どこかお店に入ろうか」


 「え~、寝っ転がりたい。ホテル行こうよ~」


 い、いきなりホテル!?

 マジかよ! すごい積極的だな。


 そう言いながら、彼女は俺に胸を押し付けてくる。

 さらに、ふわりといい匂いが漂い、正常な判断を狂わせてくる。

 

 ま、まあ、休むだけならいいか。


 俺と彼女はラブホテルに入った。


◇ ◇ ◇


 「いえーい! お酒飲もう!」


 「い、いえーい。って、キミ、未成年でしょう?」


 「いいの、いいの。誰も見てないし、いつも飲んでるから!」


 彼女は勝手にぐびぐびとお酒を飲み始める。


 すごい飲みっぷりだ。

 普段から飲んでいるというのは本当なのだろうが、止めたほうがいいよな?


 「ダメだよ。お酒飲んじゃ」


 「じゃあ、ヒーローさんが飲んでよぉ。こんなに買っちゃったんだからぁ」


 「わ、わかったよ」


 彼女からお酒を受け取ってどんどん飲む。

 

 「ねえ、カラオケしよ!」


 「え、カラオケあるの? いいね」


 最近のラブホテルにはカラオケもあるのか。

 そういえば、人気だったころに歌を出したことあったな。

 それを歌おう。


 機会をいじって曲を入れる。

 タイトルは『正義のヒーロー、マグナムダイナマイト』だ。

 歌うのは久しぶりで、懐かしさから熱唱する。


 「あはは。ヒーローさん歌うまーい」


 彼女は合いの手を入れてくれる。

 楽しくなってきた。

 

 「ヘェーイ! 行くぜ、パーリィナイ!」


 「きゃははは! イェーイ! イェーイ!」


 あー楽しい。

 本当にインフルエンサーになってよかった。

 こんな可愛いくて若い女の子と遊べるなんて。

 もう死んでもいいってレベルだな。


 俺はそのまま熱唱し続け、気が付いたら眠っていた。 

 朝になって彼女と別れ、家に戻る。


 「う~ん。目向け覚ましに配信でもするかぁ~」

 

 そう言って、すぐに配信をつける。

 最近は朝でもに2万人くらいは見てくれる。

 パソコン画面の向こうにいる彼らは、いつでも俺のことを待っていてくれるのだ。

 なんとも嬉しいじゃないか。



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