操られた記憶がない
「やはり君は危険な男だ」
さっきまでの余裕ぶった態度は息を潜め、抑えきれない敵意をこちらへ向けてくる。
「事実上、大沢財閥を動かしていたあなたにだけは言われたくない」
白鳥グループをあと少しで傘下に入れようとしている大沢一族。
現在、日本の頂点に君臨していると言っても過言ではないだろう。
しかもそれを動かしていたのが、ただの高校生なのだ。普通であるはずがない。
「はっはっは!なぜ気がついた?僕は馬鹿な弟を持つ兄を演じてただけなのに」
「簡単なことですよ。あなたには自分でも気づかない癖がある」
これは完全記憶能力のある僕にしかわからないだろう。
相手と会話する時、僅かに右の目を細める。その時一瞬目が光るのだ。
目が光る人間なんてそうそういるもんじゃない。
教室では分からなかったが、いままさにそれを僕に使ったのが間違いだ。
「!?」
「何をそんなに驚いているんですか?」
「ば、ばかな……なぜ効かない?」
「さあ、なぜでしょう?」
僕の完全記憶能力は目で見たもの、耳で聞いたものすべてを記憶する。
たとえなんらかの力で他者から強制的に命令されても、辻褄の合わない偽りの記憶など僕に植え付けるのは不可能なのだ。
「その力で大沢財閥の人間や学校の人達を操りすべて手に入れたんですね。そして……彼女たちも。人の意思を…自由を…心を弄ぶおまえだけは絶対に許さない!」
大沢彗の後ろにいる彼女達に視線を向けると、無表情ながらも目から大粒の涙を流している。
操られながらも意識があるのだろう。
「はんっ!だからどうした?たかだか学生作家の君に何ができるというんだ。お遊びはここまでだ!少し計画とずれてしまったが、更なる絶望を味わうといい」
言い終えるなり、またも右眼を細め不気味な光が放たれた。
しかし……
「狙いは君じゃない!そこのデカメロンをぶら下げている女だ!」
「くっ!?どこまでも卑怯……な?」
僕に力が効かないとわかるや否や、小悪魔が狙われた。
力の発動条件が不明なので、彼女を体全体で庇おうと振り向いたのだが……
なぜか小悪魔は、目を瞑り、キスをせがむように唇を突き出し、両手を横に広げて僕を迎え入れるような仕草をしていた。
「何してんだよ?」
「なんとなく?」
「……」
偶然かも知れないが目を閉じていたのがよかったのだろう。
小悪魔は操られずにすんだ。
それどころか、
「安心してください。わたしにはなんとなく見えてますから。みんなもそろそろ目を覚ましますよ」
さも当然のように語る小悪魔。
そして、それを証明するかのように千花達の目に力が戻っていく。
「やっと自由が効くようになった……」
「またメモリーに迷惑かけちゃったね」
「ありがとうございます」
いや、僕は何もしてないんだが……
すると千花が口を開く。
「目の前にいるメモリーを想うことで呪縛から解放されたみたい」
「おいおいおい!俺を無視するな!」
カッ!っとまたも目を見開くがなぜか目覚めた彼女達に能力が通用することはなかった。
「なっ!?まあいい。白鳥さんはいいのかな?君の行動が白鳥グループの今後をーーー」
「エリカ、問題ないよ。手は打ってあるから」
「え、エリカ?はい……あなたを……メモリー様を信じます」
なにか様子がおかしい。
白鳥さんが頬をピンク色に染めているのはなぜだろうか?
「先輩……白鳥先輩と仲良くなるのはもう少し後のはずですよ?まったくもう。用事もすんだことですし早く食堂に行きましょう!」
大沢には目もくれず、お腹をさする小悪魔の神経が少し羨ましい。
「ば、馬鹿にするのもいい加減にしろ!お前らの人生を滅茶苦茶にーーー」
トゥルルルル!トゥルルルル!
興奮する大沢の携帯だろう。辺りに着信音が鳴り響く。
「なんだこんな時に!えっ?いや、そんな、ば、馬鹿な……」
「クックック」
「せ、せんぱい?笑い方がキモいんですけど」
「貴様か!いったい何をした!このままでは大沢家が大沢家が……」
膝と手を地面につけて項垂れている。
「だから言っただろう?お前だけは絶対に許さないと」
今度こそ決着をつけてみせると誓う僕だった。
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