スルーした記憶がない
「驚いて声も出ないようだね」
彼女達を従えて、満足そうな表情を浮かべる人物こそ最後の敵である大沢彗だ。
彼の後ろにいるのは、千花、白鳥さん、そして……
「ナ、ナツ姉?」
ここの生徒でもないナツ姉の姿を見て、さすがに驚きを隠せない。
みんな黙ってこちらを見ているが、一言で表すと無表情だ。
「ハハハ!そう、その顔だよ。それが見たくて君から全てを奪ったんだ!」
「くっ!?」
「あのぉ…」
「どうだ、悔しいか?寂しいか?」
「あのぉ…」
「た、たとえひとりになったとしてもーー」無視するなこら!」
「ぐぇ!?」
後ろから怒号が聞こえたかと思えば、背中に柔らかい感触が。しかも、その重みでうつ伏せに倒されてしまった。
「ふ、不意打ちとは……ってお前何してるんだよ?とにかく早くどいてくれ」
小悪魔を危険な目に合わせないよう内緒で屋上に来たんだが無駄な心配だったようだ。
「なんとなく予感がしたので来ちゃいました。よっこらしょ!ってさっきからいたのにスルーするな!」
存在をアピールするかのように、背中をぐりぐりするのはやめてもらいたい。
「予感ねえ……なんか前にもそんなことがあったような。でもありがとな」
大沢は全てを奪ったつもりだろうが、小悪魔を忘れてるとはな。
「じゃ、邪魔がはいったようだけど君の大事なものは全部奪わせてもらったよ。その子にはいつもウザそうにしてたし問題ないだろうからね」
「ちょ、ちょっとあなた失礼じゃーーーモゴモゴ…」
話が進まないからこいつの口を手で塞がせてもらった。
いちおう今は緊迫した場面なのだ。
「それなら見当違いですね。みんなも大事だけど俺にとってはコイツは特別な存在ですから。それで用件はなんでしょうか?」
きっとみんなは僕のことを想って行動したのだろう。
僕を守るため自分を犠牲にして……
嬉しいけど……それは僕の望む答えと違う。
「負け惜しみを。まあいい。用件はただひとつ。この学校から去ってもらいたい」
「……理由を聞いても?」
「僕は過去の過ちをただして本来あるべき姿に戻すことができた。ただ……君だけが不安要素だ。大沢一族にとって君は天敵だからね」
大沢一族は推測通り過去を捻じ曲げることに成功している。
しかし僕の能力については未だ分かってないらしい。
ようは唯一の不安要素なのだ。
過去の記憶勝負で僕が負けるはずがないから当然だ。
「なるほど、僕が怖いんですね。だから仲間を奪ったと。それをたてに脅迫でもする気みたいですが、もう遅いですよ」
今まですべて弟のブタが全部仕組んだと思っていた。
しかし、考えてみればアイツにそんな頭脳はない。
決定的だったのは過去に戻るきっかけとなった後ろから突き落とした人物こそ、大沢彗だったのだ。
クリスマス会の照明器具を落としたのも奴なのだ。
「僕が生徒会長になるのがそんなに怖いですか?放火魔さん」
「!?」
前に見た学校の火災は、大沢の弟が特別待遇の証拠を隠滅したように見せかけていたが実際は違うのだ。
『大沢彗は多額の寄付金と称し裏口入学していた』
その事実を知ったのは僕が生徒会長になってから。
ブタが捕まる際に学校へ警察の捜査が入った。
その時、大沢兄弟が入試を受けていないことが判明していた。
「火災など起こっていないだろ!」
真っ赤な顔をして声を荒げる大沢彗。
その後ろの彼女達は……無反応?
よく見ると目の焦点があっていない気がする。
……奴も能力持ちだったようだ。
いつもありがとうございます。
もうそろそろ話も佳境に入ってきました。
最後までよろしくお願いします!