振り出しに戻った記憶がない
お久しぶりです。
また読んでもらえると嬉しいです。
「……さん?」
「……」
「氷河さん?」
「……」
意識が覚醒するとともに、ぼんやりした景色がはっきりとしてくる。
白い壁に白い天井、どうやらベッドに寝ているようだ。
体を動かそうにも自由が利かない。
「……さん?……さん聞こえますか?氷河さん聞こえますか?」
……これはデジャブか?
目を開け視線の先にいたのは、以前お世話になった看護師さんと担当医。
そうか、僕はまたこの病院に搬送されたのか。
「はい、聞こえてます。何度もご迷惑をおかけして申し訳ありません」
「先生、氷河さんの意識が覚醒しました!まだ記憶に多少の問題があるようです」
「いえ、今回は自分の名前も憶えていますし問題ありませんが?」
僕の言葉に看護師と先生がお互いの顔を見合わせていた。
記憶に問題もなにも僕には完全記憶能力がある。
「……まるで前回があったような言い方でね。すると氷河さんは私の診察を受けたことがあると?」
「はい。3日間ほど記憶喪失でしたがその時のことは覚えています」
僕がそう答えると、
「井上さん、すぐに脳の検査を予約してくれ!」
「はい!」
先生が指示をだすと、すぐに看護師さんは業務用の携帯電話を取り出し検査の予約を入れる。
……冗談のつもりか?
何度も階段から落ちて迷惑をかけてるけど、これでも患者なんだが。
「氷河さん落ち着いて聞いてください」
「はい」
「あなたがこの病院を訪れたのは今日が初めてです。もちろん記憶喪失なんて起きていない。それどころか記憶障害の可能性があります」
「……えっ!?」
……いったい何が起こってる?
僕の能力に間違いなどありえない。
見たこと聞いたこと全てを記憶する。
当然、前回の入院も鮮明に記憶していた。
僕の記憶以外に信用できる記録と言えば……そうだ!
「僕のスマホはありませんか?いつも制服の上着に入れてます」
「それならロッカーの中です」
看護師さんは上着のポケットを調べて僕にスマホを手渡した。
「あ、ありえない……」
スマホの画面に表示された日付を見て思わず呟いた。
驚くことにその日にちは……親友に裏切られたあの転落事故の日付だったのだ!?
「何がありえないのかね?」
心配そうに先生が尋ねてくるのも当然だ。
もしこの日にちが現実なら僕は昨日から意識を失っていたはずだ。
それが目覚めた途端に訳の分からない話をされれば脳への損傷を疑う。
それなら今はとりあえず―――
「名前以外記憶が曖昧で思い出せません」
「やはりそうか……。氷河さん、あなたは少し記憶を失っているようだ」
こうして僕は再び記憶喪失……のフリをすることにした。
* * *
検査の結果はもちろん異常なし。
2度目なので驚きはしないがひとまず安心だ。
さて、これからどうするか?
僕はスマホの画面へ目を向けた。
前回よりも数日早くスマホを手にしたので、千花からもナツ姉からもメッセージはまだ来てない。
ひょっとしたら今回は何も起こらない……気絶している間に今まで長い夢を見ていただけなのでは?と期待した。
しかしスマホのニュースサイトには―――
『人気高校生作家がホテルで美人編集者と密会』の文字が。
「はぁ〜、やっぱり夢じゃなさそうだ」
思わず独り言を呟く。
……待てよ?
すでに事実無根のスキャンダルは広まっているものの、これはチャンスかもしれない。
自分を犠牲にして僕を助けようとしてくれた彼女たちを今度こそ救うことができるのでは?
こんな状況にも関わらずニヤリとした僕は、スマホにメッセージを素早く打ち込んでいた。
色々あってしばらく書くことができませんでした。すいません。
また応援していただけるように頑張りますので、よろしくお願いします。




