うちの家系の記憶がない
「こちらで少々お待ちください」
僕らは現在、警察署の一室へ案内されていた。
大規模な避難訓練を偽装したので当然かなりお叱りを受けた。
それでも大目に見てもらえたのは、白鳥グループの口添えと両親の誘拐を考慮されてのことだろう。
学校側に通報されず法的な処分も受けずにすんだのはありがたかった。
あと先考えず行動してしまい心から反省しなくてはいけない。
「しかし……ブタに身代わりがいたなんて正直驚きましたわ。おじさまと一緒に参加したパーティーで何度か顔を見かけることはありましたが」
「……」
抵抗なくブタと言い切る白鳥さん。
白鳥グループのお嬢様なので少し違和感を覚えるのは仕方のないことだ。
「先輩はいつ頃から気付いていたんですか?」
「確信に変わったのはつい最近だよ。大沢の存在を認識してからずっと引っかかっていたんだ。僕の能力は知っているだろう?」
「はい。人並外れたチート持ちで無自覚に次から次へと女性をたらしこめる根っからのハーレム野郎……ですよね?」
「……」
反論できないのは自分でも多少の自覚があるからだろうか?
千花以外、女っ気のなかった僕の周りにこれだけの美少女が集まれば目を背けるのに無理がある。
それにしたってもう少しましな言い方ってものがあるだろう。
「あれー?先輩ともあろう方がいつもの減らず口はどこへ行っちゃったんですか?」
「ふふふ、いじめるのはそれぐらいにしてあげなよ」
容赦なく責めてくる小悪魔の言葉に千花が助け舟を出してくれた。
「……千花先輩に免じて今日はこれくらいにしてあげます。先輩にも責任があることをお忘れなく」
「ああ……」
全ての決着がつこうとしているこの状況、気持ちに区切りをつける時期がきたのだ。
コンコン!?
気持ちの整理がつかないまま物思いに耽っていると、ドアをノックする音が室内に響きわたった。
僕の緊張がみんなにも伝わっているためか、やけに空気が重く感じる。
そしてゆっくりとドアが開い―――
「メモリー!!!」
「おわ!?」
ドアが開くと同時になにかが突進してきた。
そして……気付いた時には体を強く抱きしめられていた。
「か、母さん…なの?」
「メモリー!!!」
唯一残っていた写真よりやや年齢を重ねた女性が勢いよく抱きついてきたのだ。
「大きくなったな」
その後ろからゆっくりとこちらへ歩いてくる男性。
「父さん……だね」
はっきり二人を認識した直後―――
幼い頃からの全ての記憶が頭の中へと流れ込んでくる。
こうして失われていた全ての記憶のピースが、今完全に組み合わさったのだ。
* * * *
「なぜさっき僕の名前をメモリーって呼んだの?」
いったんそれぞれ自宅へと戻り父さんと母さん、そして僕はマンションのリビングに腰をかけていた。
「母として息子の活躍をずっと見守って来たんだからそんなの当たり前でしょ?」
「でも……ずっと身を潜めていたし監禁されていたわけだし」
二人は自分の生活を犠牲にしてまで僕を守ってくれていた。
自由なんてなかったはず。
「もちろん潜伏してはいたけど、さいわい白鳥教授のおかげで何一つ不自由なく生活していたよ。いまは教授ではないか。それに捕まってからはあれを監禁と言えるのかどうか……」
父さんがチラリと横目で母さんの様子を伺い、苦笑いしているところを記憶した。
もしかしてこれは……
「母さん達の話を聞いているようだな」
「伊達に忍者の末裔じゃないわよ。小さな時からあなたのおじいさんに叩きこまれているから」
すごーく悪そうな笑顔を作る母さんの表情を記憶した。
正直言って忘れたいぐらい怖いけど僕にはそれができない。
完全記憶能力の弱点だ。
二人の話では捕まったのも計画の一部だったらしく、そのことについては白鳥泰造さんにも内緒にしていた。
「もうこれ以上かわいい息子と離れ離れで暮らすのはごめんですからね」
「やはりわざと捕まったんですね」
「ああ。母さんの強さがあれば拳銃でも使わない限り、本来止める事はできないよ」
……なんだか僕の家系の力関係を知ってしまったようで居心地が悪い。
そんな僕の仕草を見て心配になったのだろうか?父さんが話を続ける。
「うちの家系は昔から滅法女性に弱いんだ。お前もそうみたいだが……」
「僕はそんなこと―――」
「このハーレム野郎が」
「!?」
一瞬、小悪魔に悪態をつかれたのかと驚いたけどここにあいつがいるわけもなく声の主は母さんだった。
……なんだかすごく嫌な予感がする。
「それで?スキャンダル騒動の真相から説明してくれるかしら?」
「そ、そこから説明しなくてはいけないんですか?むしろこっちが今までの説明を聞きたいくらいなのに」
ようやく会えた親に話す内容が、女性とのスキャンダルなんて普通の高校生じゃ有り得ない。
「もともとあなたは普通の高校生じゃないでしょ?」
「!?」
こ、心を読まれた……だと?
まるでアイツみたいじゃないか?
父さんに助けを求めようとするが、どこか遠くをぼんやり見つめている。
こうして両親と再会した僕は忘れる事の出来ない記憶がまた一つ増えたのだった。
読んでいただきありがとうございます!
ようやく両親と再会できました。
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