洗脳した記憶がない
泰造さんがうちの両親と研究を進めていく中で、豊富な資金力を使い大沢財閥もまた同じような研究を進めていたらしい。
その当時の白鳥家は今ほどの大企業ではなかった為、産業スパイによってたびたび研究結果が大沢財閥に脅かされていた。
やがて白鳥グループは日頃の努力と成果が実り大沢財閥をも凌ぐ大企業へと成長したので、その後は情報漏洩することはなくなったようだ。
「では……失踪者の裏には大沢が絡んでいると?」
「わたしはそう睨んでいる。実際に君のお父さんも引き抜きの話を持ちかけられたそうだ」
「しかしそこまで超常現象に対し企業として重要性があるのでしょうか?」
「能力にもよる。中でも情報収集関連なら重要性はグッとあがるだろう。たとえば目守くんのように」
こちらを見てニヤリとされた。
やはり僕の能力のことを……
「ちょっといいですか?」
それまで静かに話を聞いていた女性陣だったが、小悪魔が手を挙げている。表情が少し固いのは大沢の名前が出たからだろう。
「先程から超常現象だの聞こえてましたが……先輩にもなにか能力があるとでもいうのでしょうか?」
「ある。と言ってもわたしも詳しくは知らないから本人の口から聞いてみたいな」
「「「えっ!?」」」
全員が分かりやすいくらいの反応を示してこちらをジト目で見ていた。
知られて拒絶されないだろうか?怖がられないだろうか?
みんなを信じるしかない。
「超能力かわからないけど……僕には完全記憶能力がある。1度見たものは画像として完全に覚えておける能力と言えばわかりやすいかな。音や声や会話も一度聴いたら一生忘れない」
「えええええええええ!」
驚かれるとは思っていたけど千花が誰よりもびっくりしている。
幼馴染で小さな時からいつも一緒だったからずっと秘密にしていたことに動揺しているのかもしれない。
「……っち」
「は?よく聞こえなかったんだけど」
「メモリーのエッチって言ったのよー!!!!!」
それだけ叫んで千花が顔を真っ赤にして両手で顔を覆ってしまった。
「いったい急にどうしたんだよ?」
「プールとか……海とか……お、お風呂……」
途切れ途切れにか細い声で千花が答えてくる。
プール?海?お風呂?
……これはなにかの連想ゲームですか?
「ちょっと思い出すから待っててよ」
完全記憶能力で昔の事を思い出そうとすると、千花の焦りがピークに達し―――
「あ、あ、あ、ダメーー!!一緒に水着へ着替えた事とか、小学5年生まで一緒にお風呂に入ってたこと恥ずかしいから思い出さないでーー!!」
「あっ……」
もう遅い。
ばっちり当時の記憶を見てしまった。
幼いとはいえもろに異性の裸の記憶が蘇ってしまったのだ。
「だ、大丈夫だよ。小さな時の記憶は覚えていないから……」
「完全記憶能力って言ってたじゃん!絶対に忘れないやつじゃん!それに顔を赤くしてるのが何よりの証拠よ!」
もはや半べそ状態である。
「先輩……」
「な、なんだよ?」
「最低です……」
小悪魔が軽蔑の眼差しを向けてくるが俺が悪いわけじゃない。
千花が小学5年生まで一緒にお風呂に入りたがったのだ。
すべて不可抗力であり冤罪だ。
しかし白鳥さんに限っては目すら合わせてくれない。
「と、とにかくメモリーはすごい能力を持っていたのね。小説を書く時の知識量の多さが尋常じゃなかったのもうなずけるわ」
「ナ、ナツ姉……」
なんとか話を完全記憶能力に戻してくれようとナツ姉が助け船を出してくれてる。
やっぱりお姉ちゃんは頼りになるなといつも思う。
「能力の事なんだが……」
ガヤガヤと話が進まなくなったところで、白鳥泰造さんが喋りだした。
「君の能力はそれだけではないと思う」
「え?残念ですが他にはなにもありませんよ」
「そんことはない。わたしの見立てでは……君の書く文章には人の心を動かす力がある」
「はぁ……文章ですか?」
高校生とはいえプロの小説家なので多少なりとも文章には自信がある。
だけどそれは作家にとって当たり前のことだからあまりピンとこなかった。
「考えてもみたまえ。昨年のスキャンダル騒動だって君の作品が世論を動かした。そしてエリカに聞いたところによると君の作ったSNSで生徒会選挙にも勝利したそうじゃないか。これらはすべて偶然ではなく君の文章によって一種の洗脳に近い効果が得られたのではないかと私は思う」
「せ、洗脳ですか?」
「ちょっと言葉のチョイスが物騒だったかな。しかしそれくらい君の文章には力が宿ってるのだよ」
本当にそうなのだろうか?言われてみれば……
本を出せばベストセラーだしシンガーソングライターとしての評価も高い。ファンの方々は歌詞に共感するなどの感想が多いのも事実だった。
「研究されていた方に言われたのであればその可能性は否定できません。しかし今、僕が一番知りたいのは……」
「ご両親の行方だね」
「はい」
そう。ここへ来た目的も超能力や超常現象の情報を得る為ではない。
あくまでも両親に関わる話の一部として聞いていたのだ。
「ご両親は君を守るために、事故を偽装して行方をくらましている」
僕はその言葉の意味をすぐに理解した。
……両親は生きている。
僕に微かな光が見えた瞬間だった。
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