ドレス姿の記憶がない
「な、なんだか場違いなところに来ちゃったよ」
「そんなことないですよ。メモリー様は正式に招待されてますから」
白鳥グループが開催する新年のパーティーに招待された俺は、白鳥さんと一緒にテーブルで食事をしていた。
さすが日本を代表する企業だけあって、その顔ぶれは凄まじい。
テレビで見たことがある政治家や著名人が数多く出席していた。
テーブルに並べられた料理にしても、とても立食とは思えないほどのクオリティである。
「はい、どうぞ」
「あ、ありがとうございます。さすがメモリー様は紳士ですね」
ちょうど飲み物が空になってしまったので、白鳥さんの分のノンアルコールスパークリングワインも持ってきたのだ。
「さすが先輩は無自覚たらしですね」
「ほんと油断も隙もないわ」
「はっ?」
後ろを振り向けば、パーティードレスに包まれた小悪魔と千花が腕組みをして立っていた。
「な、なんで二人がこんなところにいるんだよ?しかも無自覚たらしって失礼だぞ」
そんなやりとりをしていると、白鳥さんが口を開く。
「わたしが友人としてお二人をお招きしました。仲間が多い方が心強いですから」
「もーう、せっかくメモリーが心細くならないように潜入したのに。それより白鳥さんから借りたこのドレス姿はどう?」
千花がパーティードレスのスカート部分を掴み腰のあたりで横に広げた。
すると目の前には雪のように白くてスラリとした脚が現れた。
「も、も……」
「急にどうしたのよ?桃?」
「ち、違う!ももまで見えちゃってる!」
どうした俺!なんでこんなに動揺してるんだよ?
やっぱり……感情戻ってる……よね?
これから過去について調べていくのに果たして感情が戻るのがいいのか悪いのか。
とにかく感情的にならないように気をつけよう。
「せーんぱい?」
不意に声をかけられ右腕にはなにか柔らかいものがあたる感触が。
ふと横を見れば毎度おなじみのニヤニヤした顔で、自慢のマスクメロンを2つ押しつけてくる小悪魔がいた。
「わたしのパーティードレス姿も見てくださいよー」
「そ、そんなにくっついてたら見えるわけないだろ!」
うん、バッチリと大きなメロンをロックオンしている自分が恥ずかしい。
「違うところを見てるからじゃないですか?」
「うっ!?」
こ、こいつ……絶対にいろんな意味で気付いてやがる。
記憶喪失のフリをした時も、それを逆手にとってきたので今回はどうしたものか……
「ほれほれ、これでも感情は刺激されないですか?」
さらにぐりぐり押しつけてくるもんだから、違うところが刺激されちゃってるだろ。
感情が戻ったことにしようとした矢先に、白鳥さんのところへ年配ながらもビシッとスーツを決めてる男性が声をかけていた。
「エリカ、友人の方達にも楽しんで頂いてるかな?」
「はい、おじいさま。今日は急なお願いを聞いていただきありがとうございます」
どうやらこの人が、白鳥さんの祖父みたいだ。
あの写真と比べてさすがに歳は取っているけど面影もあるし間違いない。
僕が挨拶しようとすると―――
「目守くんだね。エリカの祖父の白鳥泰造だ」
握手を求めてくる泰造さん。
青い瞳をしているからハーフだろうか?
それより……僕は名乗っていない。
作家名ならともかく、なぜ知っているのか疑問だ。
「氷河目守です。エリカさんにはいつもお世話になってます」
作家としてのメモリーではなく、本名で挨拶し握手に応じた。
泰造さんはニッコリとし、どこか懐かしいものでも見るように僕を観察している。
切り出すべきか……
「ご両親の件だね。パーティーが終わったら少し時間を取るから待っててくれるかな?」
「……はい」
ホテルの鍵らしきものを受け取り、一言返事をするので精一杯だった。
読んでいただきありがとうございます。
続きが気になる方、「ブックマークと評価☆」をよろしくお願いします。