感情が戻った記憶がない
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
「するとここには白鳥さんのおじいさまと、メモリーの両親が写ってるのね」
「そうみたいだね。でも僕等はそんな接点がある事をまったく知らなかった」
こんな真夜中だというのに騒ぎを聞きつけてきたみんなが、祖父の形見から出てきた1枚の写真を興味津々に覗き込んでいる。
何度見返してもやっぱり白鳥さんのおじいさんの記憶はない。
しかしここで白鳥さんから意外な言葉が……
「実は……わたしはメモリー様の事をおじいさまから聞かされていました。知り合いの息子が同じ学校に在籍していると。ただお名前も聞いていなかったし写真を見るまで頭の中から抜けていました。おそらくメモリー様のことなのかと……」
「うっそー?なんで会長がメモリーの事をご存じなのよ?出版社の社長はお父さまだからベストセラーを出しているメモリーを知っていてもおかしくはないけど」
グループ会社の一つに勤めているナツ姉が驚きの声を上げる。
それもそのはず白鳥グループを一代で築き上げた伝説的な人物が、ただの高校生である僕を知っているのはおかしい。
「こんな偶然ってありますか?メモリー先輩と白鳥先輩が同じ学校に通っていて、写真の中では親戚同士が顔見知りだったなんて」
「偶然が重なるとそれはもはや偶然ではなく必然だろうな。実は……有名な進学校である今の学校を勧めてきたのは祖父なんだよ」
「わ、私もです!」
……なんてことだ。
全ては仕組まれていたことなのか?それは何のために?
「お互い自然に誘導されていたのかも……」
白鳥さんは消え入るような声でそれだけ口にすると、悲しげな表情でこちらの様子をチラチラと伺っていた。
その光景を見て、なぜか胸がモヤモヤとしている。
意図的に同じ学校へ通わされたから、現在の関係に至っているのだろうか?
この関係は他人の力で引き合わされたものなのか?
……ふざけるな。
「うちの両親や祖父やエリカのじいさんなんて関係ない。この出会いは誰に作られたわけでもなく、俺たちが引き寄せた運命なんだ」
「メモリー様……」
一転して微笑みを浮かべるエリカを見てホッとした。
……ホッとした?いまの僕が?
さっきのモヤモヤといい、情報量が多くて頭が処理出来ていないのか。
そこへ追い討ちをかけてくるのはもちろん―――
「先輩その調子です!ナイスファイトです!さらっとエリカって呼んだのにはジェラシーですけど」
いや、闘ってねーし。
相変わらずこの後輩小悪魔はウザイな……
* * * *
「「「 きれい…… 」」」
バルコニーから見る初日の出の景色は、言葉では表現できないほど幻想的で素晴らしいものだった。
いつもざわざわしている都内全体が今は朝日に照らされてオレンジ色の海に輝いている。
たとえ完全記憶能力がなくても、この光景は一生忘れることはない。
それはこの特殊な状況で見ているからでもあるけど。
誰もが可愛い、美人と認定する女性4人と朝を迎えれば誰だってそう思うはず。
そして今日から新たなスタートを踏み出すのだから……
「それでは白鳥さん明日の段取りは任せたからね」
「任せてください。メモリー様をパーティーでおじいさまに紹介します」
白鳥グループでは新年を迎えると、大規模なパーティーが開かれる。
通常は一部の上流階級や政治関係者とその家族しか招待されないけど、僕は白鳥グループの出版社から本を出している作家として招待されている。
去年は場違いなところへ出席するのも嫌だったのでお断りしたけど、今年は白鳥さんの友人でありお世話になっているグループ会社のために出席することにした。そんなのもちろん建て前だ。
当然だけど僕の担当のナツ姉も必然的に出席となる。
「わたしたちもどうにかならないの?」
「どうにかって言われても……僕等も招待されてるだけだから」
不満そうな顔をした千花と小悪魔が僕に詰め寄ってくるけど、ここは高層階のバルコニー。
落ちたら死んじゃうからやめてください。
新年早々に『作家がマンションから飛び降りか?』みたいなニュースを出すわけにはいかない。
しかも小悪魔め……デカメロンを押し付けてくるな!
感情をなくしている今の僕には……僕には……あ、あれ?
ちょっとやばいかも。
「さ、寒いからとにかく部屋へ戻ろう!」
逃げるようにして僕はバルコニーを後にした。
感情……戻ってるかも……
今度は感情喪失のフリをしようかな。
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