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昔の記憶がない

 クリスマス会の開催も決まり全校生徒へ周知を行うと、予想以上の反響に驚いてしまう。


 それというのも生徒会の女子達が、『クリスマス会で大好きなあの人へ……』とサブタイトルまで付けてしまったものだから、男女問わず盛り上がっているのだ。


 密かに想いをよせている相手に、今まで怖くて告白が出来なかった人達がみんなで告れば怖くないの原理で勢いがじわじわと増しているのだ。


 想いを告白する人がこんなにもたくさんいるのかと僕は正直驚いてしまった。


 以前は千花とクリスマスを一緒に過ごしていたけど、クリスマスケーキを食べてプレゼント交換をしてといった具合に家庭的で和やかな雰囲気で過ごしていた。

 小学生のクリスマス会か!みたいに千花に突っ込まれていつも愚痴を言われるほど、お世辞にもロマンチックな事をした記憶がない。


「やっぱり雰囲気が大事よねー」と千花が祈るようなしぐさでチラチラこちらを見て言えば、


「草食系の男子が相手なら、こっちから襲ってやりますよ!」と小悪魔が舌なめずりをして僕の事を不敵な笑みを浮かべて睨んでいる。


 やっぱりこのふたりは……


 最近ではこんな光景がいつも繰り広げられているけど、その中でも格段にパワーアップしたのは……


「あらお二人さん、残念ながらメモリー様はわたくしと聖なる夜を過ごすので出る幕はないですよ?」


「さすがです!」


「ふたりはお似合いです!」


「羨ましいです!」


 ……白鳥さん、それはすでに告白と同じですが気付いてますか?

 しかも白鳥さんのもともと後輩の3人は、どうやらみんなで応援することを決めたらしくいつもこんな感じでヨイショをしてくるのだ。

 最後はヨイショじゃなかったような……


 グイグイ来るお嬢様の白鳥さんは、自分の気持ちが僕にばれていないと本気で思っている。

 気持ちに気付いていないフリをする羽目にまさかなるとは……


「メモリーはわたしの元彼だもん!」


 凛とした表情で白鳥さんに対抗するけど、これは()()の前触れなんだよな……

 だからみんなも出来れば刺激しないでもらいたい。


 あのモードは個人的には好きだけど、終わりがいつも見えないから平日にでもモード突入しようものなら心も睡眠時間も削られてしまうし。


「わたしだって……先輩は初めての人(初恋)だから……」


「「えっ!?」」


「ええっ!?」


 相変わらず小悪魔の紛らわしい言い回しに翻弄されながらも、着々とクリスマス会の準備は進められていった。



 * * * *



 クリスマス会前日の夜。


 僕は自宅の仕事部屋で執筆作業の手を止めて、ふと考える。


 クリスマスか……


 今まであえて考えようとしなかったことをこの日は思い浮かべていた。


 完全記憶能力を持つはずの僕だけど、()()()()()()()()()()()()のだ。


 クリスマスの記憶といえば、千花や祖父との記憶しかない。


 さらに掘り下げてみると、そもそも祖父と暮らしていた幼い時の記憶が最も古い記憶なのだ。


 両親の記憶が残っていないのはなぜ?

 祖父と暮らす記憶が突然始まっているのはなぜ?

 いつからこの能力を身につけているのか?


 ……僕はいったい何者だろう。


 考えれば考えるほど、いつも孤独に押し潰されてしまいそうになる。


「メモリー?どうかした?」


「あ、ナツ姉ごめん。勝手に休憩しちゃーーーうわ!?」


「なに高校生がそんなしけたツラしてんのよ?」


 考えごとをしていたせいで後ろにナツ姉がいるのにまったく気付かなかった。

 僕の前に回り込むと、突然両手で頭ごと抱き締めてくる。


 大きな……が当たるけど、なんだかすごく落ち着く。


「おっぱいも飲むかな?」


「な、なに言ってんのさ!そろそろ勤務時間終了だよ」


「だから言ってるのよ。ここからはプライベートだもの」


 ……せっかくのいい話が台無しだよもう。

 

 でも……きっと僕が思い詰めた顔をしていたから元気付けてくれたのだ……たぶん。


 今までならこれで終わりだけど、僕だってもう男だしやられっぱなしは好きじゃない。


 ナツ姉を氷河流の技でコロンと押し倒す。


「え、え、ちょ、ちょっとメモリー?」


 ダン!


 僕はナツ姉に『床ドン』をし、顔を近づける。


「ち、ちか、近いよ……」


「その唇を頂いちゃおうかな、夏美」


「ひゃん!」


 うるうるした瞳で僕を見つめてくるナツ姉。


 ま、まずい……この後のことはまったく考えていなかった。

 ナツ姉はもはや目を閉じて覚悟を決めたらしい。


 こ、これは…いったいどうしたら……


 ピロン!ピロン!ピロン!


 僕のスマホに着信が入っている。誰かは想像がつくけど……

 僕はナツ姉から離れスマホを手にした。


「もしもーし!あかりでーす!嫌な予感がしたので電話しちゃ―――」


 プツッ!ツー……


 やっぱり小悪魔だった。このタイミングで電話が来るなんて絶対に隠しカメラを設置されてるとしか思えない。

 あとで探さなくては。気付けばナツ姉はピシッと背筋を伸ばしてビジネスウーマンになっている。


「じゃあメモリー、そろそろわたしは帰るわね。()()()()()。それじゃあね!」


 耳を赤くしながら逃げるように足早に帰って行った。


 続きって……執筆活動じゃ……ないよねきっと。


 最近は学校でも家でもこんな感じだ。

 彼女か……


 いろいろと頭が痛い日がまだまだ続きそうだ。


 

読んでいただきありがとうございます。



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