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プロローグ

これは、作者が百合を書こうとして結局出来上がったよくわからないものです。

目の裏に焼けた様な痛みが広がる。

実際に傷を受けたわけじゃない。

これまで、凄惨の運命を辿ってきた。

中途半端に物心がついてから、母にお金が足りないからと言う理由で愛玩専門の奴隷商人に売られた。

買い取った男の好みが、捻じ曲がっていた事だけが幸いだった。

初めはそう思っていた。

私は、純潔を散らす以上に耐えがたい事に苦しんだ。

殺せと言われれば殺し、捕らえろと言われれば捕らえ、人を食えと言われれば食べてきた。

それが如何に非人道的なものであったとしても、こなしてきた。

こなさなければならなかった。

私に選択肢などなかったのだ。

派遣された先で自由に過ごす少女を見かけた時、それを羨んだ。

だが、そんな感情すら許されなかった。

それを知った飼い主は自身が所有する森に私を放置し、猛獣に戸惑い逃げ回る私を見て享楽に身を委ねた。

度重なる教育の末、私は戦場に投入され、他国からはデーモンと呼ばれ恐れられた。

不名誉な名前だ。

いっその事、死んだ方がマシだった。

私は男の、被虐される少女を見る、と言う歪んだ性欲を満たすためのただの道具で、居場所は戦場だけ。

解放されることなんてない。

そう思っていた。だが、どうだろう。

飼い主は、治めていた領民に呆気なく殺され、私はと言えば労働用の奴隷として奴隷商に売られた。

村の労働力として購入された。買うなら男性を買った方が労働力になるはずなのに私を購入した。

一度、私のことを知っていて、領主にでも破格の値段を付けて売るのだろうか、と邪推した。

だけど、これと言って何かさせられる事はなく、他の少女と同じ様に扱われた。

何かやらせてくれと言っても全て断られた。むしろやる事がなかったのだ。

朝に食卓に呼ばれ、昼から夜にかけて延々と空を見上げ、夜に食卓に付き、ある程度の寝床で睡眠をとる。

ただただ、理解できなかった。

地べたに這いつくばり、食事を要求する事もしなくてよかった。

今までそんな風に扱われたことは無かったし、どう振る舞えば良いのか分からなかった。


「ねぇ、今日もそんなところで何してるの?」

「エミリア…」


ほとんどの人が奴隷として購入されたにも関わらず、ほとんど放置されている私を避ける中、彼女だけは積極的に私に話しかけてくれた。

毎日同じところで寝転び、ただただ空を眺めているだけの私に。

幾日も幾日も懲りずに、その碧い瞳に無邪気な笑みをたたえ、髪にはリンドウの花を携え、一方的に同じ問いを繰り返す。


「こんばんは!まだ、名前教えてくれないの?」


私を売ったような両親が付けたような名前なんて忘れたし、飼い主はただの道具でしかなかった私に名前なんて付けなかった。

だけど、そんな事を口にする事もできないから私は何も返事をせずに空を眺める。


「私、あなたとお友達になりたいの」

「…どうして?」


ただただ、疑問だった。

まず、この村にきてわかった事だけど、ただでさえ少ないはずの村のあり金をはたいて私を買った理由がわからない。

そして、村長とその孫であるエミリアだけが、奴隷であると言うのに普通の少女と同じように接してくれる。

他の村人の様に、冷たい視線を向ける事もできたはずなのに。

挙句には友達になりたい。

命令を遂行する事しかできない、殺人兵器の私なんかとだ。


「友達になるのに理由がいるの?」


彼女の笑顔が眩しかった。

今まで、社会の闇の部分でしか生きてこなかった私には直視する事なんて出来なかった。


「…私に名前なんてない」


彼女の顔が視界に入らないように答えた。


「だったら前いた場所ではなんて呼ばれてたの?」

「…デーモン…」

「…可愛くないわ。そんな名前は愛らしいあなたには似合わない!私が可愛らしい名前を考えてあげる」


私なんかの為に彼女は頭を悩ませて考えてくれている。


「メル!どう?可愛いでしょう?」

「…知らない。好きにすれば」

「ふふっ…じゃあ、あなたは今日からメル!やっと口を開いてくれて嬉しい!ねぇ!ここにくるまでの話を聞かせてよ!」


あぁ、やっぱり眩しすぎる。

私とは全く違う次元の人。

私とは全く違う生き方をしてきた人。


「私は…人を斬ってた。戦争に連れて行かれてそこで一杯人を斬った。」


私が口にできるような内容はこれだけだし、これで、私達の関係は終わり。

彼女も、他の人と同じように軽蔑の眼差しを私に向けることになるだろう。

私は誰とも関わるべきじゃない。

私の顔は各国の重役達に、知れ渡ってしまっている。

殺戮兵器をそこらの村に放置するはずがない。

村全体に巨額の金を支払ってでも、私を手に入れにくるはず、最悪皆殺しになるだろう。

であれば、親密な関係の人間など作るべきではないのだ。心を保つためにも。

飼い主が殺された時も何も思わなかった。

恨まれて当然の仕事をしてきた人間だった、それに反発した人間が思いの外優秀だっただけだ。


「そうなの?じゃあ、私達の村が襲われたら助けてね!あ、私もうそろそろお家に戻らなくちゃ!ごめんね!また明日ね!」


また明日、と言う言葉が引っかかった。

私なんかとまた話そうとしてくれているのだ。

傾いていく陽を背に駆けていく彼女は美しかった。

エミリアが見えなくなってから、随分周りが静かになった。

鳥のさえずりは無くなり、虫たちは心地の良い音色を奏でるのを止め、木々の間を通り過ぎる風の鳴き声だけが響く。


「ついてきてもらおうか」


最低限の体を守る装備を身に纏い、顔にはバイザーを付け、男共が手を差し伸べる。

この男共は、こちらが反撃しないであろうことを承知で軽装で来ているのだ。


「私の…私の子は持ってきたの?」

「もちろんだ。貴様には、すぐに働いて貰わなければならないからな。あの男を襲った奴らが無能で助かったよ。彼奴らの無能さのおかげで、貴様の武器も簡単に回収できたんだからな。ほら、これだろう。さぁ、すぐに仕事だ。付いてこい」


ガンと鈍い音を立てながら、大振りの鎌のその刃が深々と地に刺さる。

今まで何も与えてもらえなかった私に、全てを奪われてきた私に、唯一許された所有物。

ゆらりと、蜃気楼のように揺らめいた彼女の体が、背後を向いた男に襲いかかる。


「なっ…」


簡単な仕事だ。

戦争に投じられて、永遠と窮地に立たされた人間を相手取るよりも簡単だ。

生きるか死ぬかの二択しか与えられない戦場に比べればとるに足らないこと。

簡単な仕事を想像して来たこの男共が、対処できるわけがない。

考えるより先に体が動く。

簡単な処理だった。


「メル!何してるの?!ご飯が出来たってお爺ちゃんが呼んでるよ!」


ああ、終わりだ。

人を殺したと聞いても、私と友達になりたいと言ってくれたエミリアでも、実際に人に手をかけたとなればそうはいかないだろう。

蔑み、罵り、私を友達には不適だとみなしてしまうだろう。

それが想像しただけなのに、今まで受けた仕打ちの何よりも痛い。


「あ…」


声が出ない、怖くて。


「その人たちは?」

「…」

「そっか、殺しちゃったんだね」

「え?」

「仕方ないよ。殺されそうだったんでしょ?メルがどう思ってるのかは分かんないけど、この村はね、毎年野生動物とか森の中での事故で人が死んじゃうんだ。だから、自分の命を守るためにその人達を殺したんでしょ?だったら何も言わないよ。ほら、お爺ちゃんが待ってるよ?」


あの男共の手が闇へと舞い戻る、忌むべき手なら、エミリアの手は、私を過去から救ってくれる手。

でも、違う。私は、自分の命を守るために殺したんじゃない。

その言葉が喉まで出かかったけど、口に出すことは出来なかった。

エミリアと一緒にいるために殺したの。

別に良心なんて痛まない。ただ、あるとするなら、意図的じゃないとは言え、あなたを騙してしまったような自分を責めたい。


「どうしたの?そんな酷い顔をして?」


あぁ、私はどれだけ酷い顔をしているんだろう。

声にならない声を出して叫びたい。

今まで、生きてきて初めてついた嘘。何か言葉を発したわけじゃない。

只々、エミリアの良心に付け込んだ自分が忌まわしい。


「私ね、そう言う時はどうすれば良いのか知ってるよ」


そう言う彼女は、私の頬に軽く口付けをした。

言葉が出なかった。


「死んじゃった母さんがね、私が不安で不安でたまらなかった時にこうやってしてくれたんだ」


顔にどこか悲しげに笑みを称えて言う彼女は、美しかった。


「え?な、何で泣いてるの?嫌だった?」

「い、嫌じゃない」

「えへへ」


ああ、やっぱりエミリアは私の女神だ。

そんなエミリアを騙す様で嫌だけれど、いつか明かそう。

エミリアなら許してくれる、根拠なんて全くないけど、そんな気がする。


この後、一万文字程度刻みで投稿するかと思います。

仮に読んでみたいと思われた場合は気長に待っていてください。


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