9 メレテー・タナトゥー
バスで30分。揺られて揺られて山奥へ向かえば、そこには簡易性の夢の国がある。
いらっしゃいませと書かれたゲート。不気味なピエロと目の焦点の定まらないパンダが迎える。
向こうにはカラフルな乗り物や建物が軒を連ねる。
たくさん買った乗り物券を消費すべく、私達は歩き出す。
易しめのジェットコースター。園内を見渡せる観覧車。勢い良く回るコーヒーカップ。小さくてかわいい汽車。いろんな乗り物に乗った。
「あれに乗ろう」
「いいよ」
指差したのはメリーゴーランド。
遊園地の中でもとりわけゆったりした乗り物で、私は大好きだった。
各々白馬に跨る。柚綺がこちらを見て微笑む。まるで私が王子様だとでも言うかのように。ときめきも束の間、ブザーの音と共に緩やかに白馬は走り出した。
今日一日の思い出を馳せるように、景色を巡る。
とても怖がってたジェットコースターはそうでもなかったなとか、観覧車の頂上でこっそりキスした事を思い出して赤面したりとか。
けばけばしさすら感じる園を、きらきら噴水が彩る。思い出が水粒に反射する。
白馬は緩やかにスピードを落とし、オルゴールの音色も止まる。ああ、終わってしまった。
狭い園だ。一通り乗り物に乗っても日は暮れない。食堂でソフトクリームを買って休むことにした。
楽しくて夢のような時間。そんな時、ふと私はお腹の底、体の中心がぎゅっと痛くなる。たくさんの事を想像する。避けられない虚無。悠久の漆黒を。
「ねえ、柚綺、こわいよ。死ぬのとか、大人になるのがとてつもなくこわい」
思わず、口から言葉が溢れでる。
柚綺はとても驚いた顔をしている。当たり前だ。楽しいひとときにこんな事を口走ってしまったのだから。でも柚綺はふっと笑みを浮かべて、言った。
「優美、大丈夫。今が永遠だよ。」
淡々と事実を告げるように。当たり前のことを教え諭すように。
根拠のない言葉に意図を聞こうと思っても肝心の口は動かなかった。疑懼ばかりが湧き上がるのに、私はそれをどこかで理解しているようだった。
この瞬間にもソフトクリームは溶け、私達は劣化している。彼女の言葉はただの気休めでしかないのに。
止まらない事は、とても恐い事だ。
私達は現れて消えるだけ。平行線は自由に波を打ちまた平行線に戻る。
楽しい時だって、ほら、終焉を迎えようとしている。
なのに私はどうして、彼女を信じてしまうのだろう。