7 遡る支配欲
玄関のチャイムを鳴らす。幾度か訪れて、部屋の番号を諳んじる事ができるようになって久しい。マンションの三階、この部屋に柚綺は住んでいる。
「はーい」
もうすっかり見慣れた部屋に上がる。ふと、いつもと違うものが目に入った。ギンガムチェック柄の小さい本や、重厚な色をした大きな本。
「柚綺、これなに?」
「ああ、それ。全部アルバムだよ」
「柚綺の?」
「うん」
「見ていい?」
「いいよ」
期待やら高揚やらの入り混じった気持ちで、中学の卒業アルバムを選び取って開く。
知ってる情報から彼女のいるだろうページの検討をつける。3年B組。陸上部。
いた。
二つ結いで、笑顔の彼女。けれど目は全く笑ってない。空虚を訴えている。今と全然変わってない。
「変わらないね、かわいい」
「そうかな、ありがと」
柚綺の生まれてからの15年間。そこに私はいない。
私の介入できない過去が柚綺にある。その事に安心しつつ、憤る自分がいた。
過去すら独占したいと思うだなんて、どれだけ私は欲張りなんだろう。これからを独占すればいい話なのに。これから……?これから、私たちは…
瞬間、ひらりと一枚、写真が落ちた。
「?」
「ん?…あ、挟まってたんだ。小学校の頃の写真だよ」
そこにはフォーマルなワンピースを着てピアノを弾く柚綺が写っていた。10歳くらいだろうか。何かの発表会らしい。
「柚綺、ピアノ弾けるの?」
「うーん、まあ弾けるかな。ピアノ習ってたから。昔はこうやって学習発表会とかの度に弾かされてたね。」
「そうなんだ…」
彼女の指が紡ぐメロディ。きっととても優しいんだろう。何も目に映さないあなたが、濁った音を生み出すわけがないから。
「柚綺のピアノ、ききたい」
気づけば口からそう出ていた。まだ知らないことがいっぱいだ。それでも私は彼女が好きだ。過去も愛する自信はあるし、それをそのまま支配したいとも思う。
「いいよ、今度ね」
少し嬉しそうに言う。
過去を今に繋げる音をいつか聴ける事実に、鼓動が高鳴るのを感じた。