6 プリオシン海岸
白い砂浜が無限に広がる。砂のひと粒ひと粒は水晶のように透き通り、きらきらしていた。一つまみ、掌に掬って、指できしきしさせる。水晶の中に小さな火が揺らめくのを感じる。
振り返れば、海が広がっていた。黒いクルミの実がいくつも落ちている中に、しゃがみこんだ柚綺が居た。柚綺が水に手を浸す度、波間で燐光が跳ねる。
柚綺に近づく。ふと、私の手にハマナスの花が握られていることに気づいた。気づいて、私は彼女の口元に花を差し出す。
彼女はそれを━━━━……
ーーーーー
バスに揺られる。冷たい風が吹く。潮の匂いがする。
とても寒いところから来たのだろうやませは、林のくぼみに沿って溜まり行き場を失っている。
車窓に砂浜の向こうに海岸が広がる。
バスから降りればより一層潮の香りを強く感じた。母なる源の香りに包まれて、気持ちが安らぐようだった。
「涼しいね」
「うん」
規則的な波の音が耳に心地よい。
ごろごろした石の上を、シーグラスを探して歩く。
ふと顔を上げた時、砂浜の方にハマナスの花を見つけた。
砂の抵抗を足で感じながら、ハマナスの花を目指して歩く。私の好きな花。とてもきれいだ。
途端、あの情景が頭に蘇る。砂浜。海。黒いクルミの実。ハマナスの花。
「海に来ると、いつか見た夢を思い出すの」
「へえ。どんな夢?」
私は棘に気をつけながらハマナスの花を摘んで、彼女の口元に運ぶ。
「こういう夢。」
柚綺はそれを一瞥して、躊躇いなく花弁を食む。私を真っ直ぐに見据えて食む。視線までもが、夢と全く一緒だった。
私の為なら何も考えずに事を為してしまう柚綺が好きだ。
思考停止の全肯定ではなく、純粋な献身の意として。
私は夢の顛末を彼女に話した。
「花の夢は愛情に満たされた幸福、食べる夢は幸運の暗示なんだって」
「そうなんだ」
「私に花を食べさせちゃうなんて、よほど幸せなんだね」
「そうかも。ううん、そうだよ。幸せ。」
「ふふ、嬉しいな」
「そういえば、クルミの実はどういう意味なんだろう」
「確かクルミも恋愛運上昇の暗示」
「本当?」
二人で笑い出す。
私はなんて満足しているのだろう。
幾度も繰り返す波音に、私達の笑い声が重なった。