5 浸す
二人で自転車を走らせる。帰り道の反対方向、いつもは行かない学校の向こう側。
前かごに入れた瓶ラムネが涼やかに跳ね、リンリンと音を立てる。私の気持ちまで跳ねるようだ。
「ここだよ」
自転車のスピードを緩めて柚綺が言った。
倣って自転車を降りて横を見やれば、そこには整備された川がある。
中心を階段状に流れる水の周りは浅く流れが穏やかだ。川遊びに恰好なこの場所は柚綺の昔の遊び場だったという。
「よし、行こう」
「うん」
私達は裸足になってズボンの裾をまくった。
その挙動で、柔軟剤がふわりと香る。
制服や指定ジャージは濡れたら困る。しかしながら、中学の頃も文化部だった私は指定ジャージしか持っていなかった。そこで、中学で陸上部だった柚綺にジャージを貸してもらった。
袖を通した瞬間から柚綺の匂いに包まれて幸せな気持ちに満ちた。そして今、目の前には柚綺がいる。これ以上に幸せなことはないと思う。
匂いに意識を取られている内に柚綺はもう川に足を晒そうとしていた。慌てて追いかける。
「わっ、冷たっ」
「あはは」
立っているだけで汗をかくような気候だ。温度差にびっくりしてしまう。でも、慣れてくれば心地よさが増していく。石のでこぼこに足をとられないよう、慎重に歩き出す。
ふくらはぎの中腹まで水に浸かれば遊び心もくすぐられる。水面を柚綺に向かってぱしゃぱしゃと叩き上げる。彼女も負けじと応戦する。
跳ね上げた水に陽の光が反射して、きらきら柚綺を彩る。素敵だ。閉じ込めておきたい。こんな素敵な柚綺、誰にも知られないでいてほしい。
見惚れていたのも、顔に跳ねた涼で打ち切られる。その瞬間、自分の独占欲に気づいて不安になる。
でも、愛おしそうに目を細める柚綺に、それをひた隠しにして無邪気さを返した。
はしゃぎ疲れて川沿いに座る。
自転車の前かごから瓶ラムネを取って柚綺に渡す。
小気味よい音と共に栓が開く。
その音に誘われたように、私は期待の入り混じった疑問を口にする。
「ねえ、柚綺は独り占めしたくならないの?」
「なるよ。何度もね。本当は私だけの優美でいてほしい。」
「私は、柚綺だけの私でいいよ。」
「ありがとう、でもね、私が嫌なの。独占したくなる自分が嫌。優美は可愛いから、いろんな人や物から幸せにしてもらってほしい。」
ずるい。ずるい。私だけじゃない。でも私だけだ。
だから。それなら。
「…ねえ、じゃあ、独占させてくれる?」
「もちろん。嬉しい。」
ラムネを飲み干すまで、いろいろな話をした。
この瓶のビー玉はどうやって取り出すのかとかそんな他愛もない話たちを。
興味なさそうだけど受け答えだけははっきりしている彼女。
とうの私も上の空で、柚綺を独占できた喜びばかりが頭を支配していた。彼女もそれを見透かして、心で喜んでいたんだろう。
ここは二人だけの世界だ。