1 空を食べる
続く猛暑。長い灰色の先で陽炎は揺らめき、私達を涼へ追いやろうとする。木々は青々と、蝉の鳴き声はじりじりと。隣を歩く柚綺をふと見やれば、汗の一つもかかずその精悍な顔には少しの歪みもない。
何故そんなにいつも美しくいられるの。柚綺の美しさは人間よりももっと綺麗で強い、別の生き物のそれのように思える。
コンビニに入る。私達の足は迷わずアイスコーナーへと向かう。涼を求めてきたのだから。二人してソーダバーを選び、すぐに会計を済ませた。
コンビニの外に出るとすぐにパッケージを開けた。
空を切り取ってそのまま凍らせたみたいなパステルブルー。氷片は陽の光を受けてきらきらしている。昼間に星が見られたらこんな感じなのかなと思う。
柚綺の艶々した髪にも似ている。授業中、居眠りする彼女の呼吸に合わせて輝くそれに。
「溶けちゃうよ」
ぼーっと見惚れていたら柚綺が優しい声色で言った。慌てて食べ始める。冷たさの後を追いかけて心安い甘味と酸味が口いっぱいに広がった。
まもなく空を食べ尽くす。口腔から全身へ、刺さるような冷たさが体内の火照りと中和して心地よさをもたらした。棒を見るとまっさらな肌色だ。無が残酷な事実を告げている。はずれ。
ふと思ったの。こう言ったら柚綺はなんて返すのかなって。アイスの棒を突きつけ私は言い放つ。
「ねえ、柚綺、殺していい?」
「いいよ」
ほら、また。いいよなんて潔く言う君が綺麗で。
私は何も言えなくなる。素敵すぎるからだ。
ふと気づけば、無邪気なエメラルドが2つ私の顔を覗き込んでいた。
「なんで照れるの」
「なんでもないよ」
そう言って彼女を押しのけた。
ああ、茹だりそう。アイスはもう無いし、蝉だって柚綺の味方をしている。暑い、顔が熱い。一人悶々としていたら柚綺があ、と声を上げた。
「当たりだ」
二人で半分こしようね。柚綺は続けて言う。
また顔が赤くなるのを感じた。ああ、貴女のきらめきを取り込んだからこんなにも熱いのか。
私も負けじと笑うんだ。
ほら、いつも通りの日常。