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安アパートと宇宙船  作者: 世も据え置き
第十一章  アクションシーンは巻き込んで
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第三話  俺氏、魔物と踊っちまう①

 若葉さんにとって宇宙船である自分が、乗り物に乗るというのは何というか矜持に関わる行為らしい。

「作成しました」

 若葉さんがそう取り出したるは馬車。自作ならオッケーって基準が分らない。

 うーん。何だか若葉さんの様子がいつもと違う、気がする。

 若葉さんも姉よろしく実利一辺倒というか、無駄を嫌う傾向がある、しかし今回はこうして俺に付き合ってくれている。

 この冒険を楽しんでくれているのだろうか? 

「さて、頼られたからには確実に結果を出しましょう」

 そう言って若葉さんは笑う。 

 

 

 

 観光をしようと愚図る俺達を、若葉さんが引っ張るように導いた先にあったのは大きな門。

 その横の馬車の待機場所で若葉さんは猫型ロボットよろしく、どこからともなく木製の馬車を取り出したのだった。

 それが冒頭の顛末である。

 

「私は出来る限りサポートに徹します。つまりご主人自身の力で目的を成し遂げるのです」

 とまあそういう事らしい。

 

 大甘で充実のサポート体制に感謝し、気を取り直して目の前の馬車を眺める。

「異世界の旅はこれだな」

 この大きさは四頭立てだろう。プレハブ小屋位の大きさで、車輪の付いた箱状のそれは、地球にある物とそう変わった様子はない。町の人々もその立派さに騒めいて……いや急に現れた馬車に驚いているだけだな。驚け驚けハッハッハ。若葉様のお通りだい。

 だが、だがしかし――

「肝心の馬がいないな」

 馬車の前には馬はなし。うーん、どれだけ立派でも引かれなければただの箱だな。

 

「既に牽引用の生物は既に購入済みですから、今来ましたね」

 うーん若葉さんのサポートは完璧だ。痒い所に手が届くというか、先回りして痒さを感じさせないぞ。

 というか荷物も腰に下げた中身も見ていないポーチ位だな。旅をするには軽装過ぎるが何も問題ない。若葉さんがサポートしているのだから!

 

「おお、随分立派な……なんだろうな!」

 ヨロさんがはしゃいでいる。それ程立派な馬なのか。

 

 どれどれと、門脇の広場の入り口の方を見やると。

「なんだこれ気持ちわるっ」

 つい素でツッコミを入れてしまった。

 

 現れたのは昆虫だった。正確に述べるならば馬のシルエットの昆虫である。

 足は六本。表面はカブトムシの様に黒光りしている。長い首の先にある顔は、形は馬なのだが、口も目も昆虫のソレだった。

「なんと勇猛そうな馬か! 我が乗るに相応しいぞ!」

 深いことを考えないヨロさんはご満悦だ。だが乗るのは馬車で馬? の背ではない。

 

「まいどあり」

「ご苦労様です」

 若葉さんは馬喰らしき人物と二言三言会話をしていた。本当に馬? を買ったのか。見かけは小学生だというのに本当に何でもできるもんである。

 

「お金とか大丈夫なのか?」

「ありふれた金属なので」

 それって……偽造なのでは。

「所有者不在の物を回収して再加工しています」

 こっちには拾った人に一割謝礼とかの法もないか。

「つまり自販機に残った小銭を集めるみたいな?」

「……そのような感じです」

 例えが気に入らなかったのか眉間にしわを寄せてしまった。かわいい。

「ご主人とヨロさんのポーチにも少額入れてあるので必要があれば使ってください」

 俺のインベントリーの中身がここで判明。

「おお、金はどこでもあまり変わらんな!」

 俺もヨロさんにならってポーチのお金を確認すると奇妙な文字の書かれたコインが数十枚入っていた。

 金銀銅とファンタジー溢れる色合いだったが、照り返す光沢が緑色だったり赤だったりと、地球の鉱物ではないのだと主張していた。

 

「さあ、出ましょう」

 俺達は昆虫馬に繋がれた馬車に乗り込むと、名前も知らない港町を出発したのだった。

 

 *

 

「お帰りなさいませ」

「あ、ただいま」

 俺達は我が城である四畳半に居た。

 

「おお、馬車の中は主殿の住まいと酷似しておるな」

「イヤイヤイヤ……そのものじゃん」

 だって成穂さんが居るもの。

 今しがた馬車だと思って乗り込んだ後ろを振り返る。玄関だこれ。

 開けてみる。海原を臨む街道からの景色が横に流れている。閉める。

「馬車なのかうちなのか」

 玄関の扉をカリカリと何かが引っ掻く音がする。

「おお、魔物か。魔物なのか!」

 まだ盛り上がれているヨロさんが、俺の横をすり抜けて刀を片手に玄関の扉を開けた。

「わん」

「なんだチャッピーか。また抜け出してきたのか?」

 俺の横をチャッピーとヨロさんが通る。そのまま畳の上でくつろぎだした。

「家じゃん」


 家じゃん。

「長旅には落ち着く空間が必要だと判断したまでです」

 成穂さんから受け取ったお茶を啜っている若葉さんがそうのたまった。

 家じゃん。

「おお主殿! 窓から外の景色が見えるぞ!」

 成程。確かに何時も洗濯物を干している大きめの窓からは、昆虫のような馬の背中が見えた。御者も居ないというのに街道を惑うことなく進んでいる。窓を開けるとポコポコと牧歌的な音と潮風が匂う。しかし馬車には当然あるだろう揺れもないため違和感が凄い。というか今は夜の筈だぞ。

「主、座ってお茶をどうぞ」

「わん」

「あ、ありがとう……」

 う~ん、違う、違うんだよなあ。

 

 *

 

「そろそろ弥生が起きそうなので帰る」

 そう言い残してヨロさんは帰っていった。

 玄関から普通に。背中越しには夜の暗がりが見えた。

 

「あ~俺も落ち着いたらなんか……」

 ――カポカコポコカコ――

 普通の馬の脚音とは違うものの、等間隔に続く音を聞いていると不思議と眠くなる。

 

 成穂さんが引いてくれた布団にごろんと横になる。体から疲れがじんわりと沁み出てくるのを感じる。

 駄目だ、寝てはだめだ。今は冒険の最中で、盗賊に出くわしたり野営をしたりとイベントが……盛り沢山の、はずなのだ~……寝てはいかん……寝ては……。


 俺は寝た。

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