第二話 俺氏、用心棒と異世界と③
辿り着いた港町は活気のある所だった。
異国情緒あふれる街並み、人々。俺の冒険心は今まさにMAXである。
「お、おいアレ……」
「どこの誰なんだ?」
何だか周りが騒がしい。いや、初めから騒がしいのだが、俺達の周りだけその質が違う。何というか戸惑いの騒めきだ。
やはり異世界からの訪問者である俺は人目を引く存在らしい。フ、参ったな。
「ご主人ではありません。ええ、もちろん」
「我であろう」
はい分かっていますよ。ちょっと勇者気分を味わいたかっただけですから。
用心棒として連れて来たというヨロさんは確かになるほど。抜群の効果を発揮していた。
道行く人々はヨロさんが近づくなりザザザと円状に後退するのだ。
「ふふふ……我の神気に皆怯えておるわ」
「なるほど、これならヨロさんを連れてきた理由がよく分かる」
「私の銘采配です。もっと褒めて下さい、いや褒めなさい」
二人ともご満悦で市場なのだろう人混みの中を海を割ったモーゼのごとく歩む。
「くさっ!」「何だこのにおいっ!」「おいあいつら……っぅ」
「ん?」
なんだか様子がおかしいぞ?
改めて周囲を確認すると、俺達を遠巻きにしている人々が、一様に鼻を抑えたり目を覆ったりしていることに気付いた。
気になってクンクンと鼻を鳴らす。鼻孔をくすぐるは海の香り。海に満ちる生命の残り香は、海と言う小さな宇宙の残滓をちっぽけな人である我々に届けてくれる。まあ磯臭いんだな。あと何処からか美味しそうな匂いもするな。途中にでも異世界料理も堪能したいなあ。
「ぐぁあ……なんだこの臭いはっ、クッサ!」
「漁師が何か引き上げたんじゃないか?」
「そんな匂いじゃねえって‼ 俺も漁師だが、こんな……駄目だ吐く」
んん? 地元の人も辛い匂い?
「なんだというのだ?」
ヨロさんも周囲の反応に気づいた。
「やっぱりあの女だ! あの女がめちゃんこ臭いぞ!」
誰かの放ったこの一言。それはヨロさんの旅先での高揚感を一気に崩壊させた。
「……」
こいつ……ニッコニコの笑顔のままで固まってやがる。
「すっごいヤバッ! 嗅いだことない臭いがするぅ~」
若い女性が鼻を摘まみながらケラケラと笑う。
「なになにどいつどいつ?」
物珍しげに近くの奴に話しかけるお調子者。
場は更に混沌を深めていく。
「ど、どういうことだ……」
ヨロさん再起動。そしてそれは俺も知りたいことだ。
一体全体これはどうゆう状況なのだろう。ヨロさんはもちろん臭くない。石鹸と僅かな汗が混じりあい、まるで柑橘系の花の様な匂いが香るいい匂いなのだ。いやクンカクンカしたわけじゃないよ。別に弥生ちゃんよりヨロさんの方が気やすいから、つい出来心でそういうことをした事があるわけじゃないよ、偶々たまたま風に乗ってアレしただけだよ。
「この星の生命体は高次精神体の持つ波動、ヨロさんの言う神気を臭気として感知できる特殊な器官を保持しているのです」
「な~る……」
若葉さんが訳知り顔で語るそれは、なるほどヨロさんが護衛役として適任である理由としては理解できる。しかし――
「我臭い? 我臭い?」
弥生ちゃんと共生生活をしている自称神様は、随分と乙女化が進んでいるらしい。半べそを掻きながら自らの体をスンスンと嗅ぎながら俺達に救いの手を求めていた。
「大丈夫だよヨロさん、ダイジョブ……フンスフンス……いい匂い、ああいい匂い……」
いえい本人のお墨付きで若い女の子を匂いを嗅げるなんてそうそうないぞ! 俺よ、もっとこの時間を大切にするのだ。
「……」
おっとしまった、若葉さんが居ることを忘れてしまっていた。視線の温度が氷点下まで落ちているぞ。これは危険な傾向だ。いや傾向じゃないなアウトだな。でもその視線にも興奮している己が憎い。
*
場所は移って裏路地。そこはぐずるヨロさんを引っ張って、人気のない場所を探して辿り着いた袋小路である。
で、結局泣き出してしまったヨロさんの懇願により、神気の放出を抑えることになった。
「即席で創りましたが、これで問題ない筈です」
そう言うと若葉さんは、どこからか取り出したブレスレットをヨロさんの腕に付ける。
「これで神気を抑えられます」
「おお誠だ……若葉殿、感謝する……ありがとう」
両手でブンブンと若葉さんの手を振って感謝を示した後、日にかざす様にそのブレスレットを感慨深げに見やる。
「泣くほど辛いのか」
「主殿は女心というものを毛ほども理解しておらんの」
どどど童貞ちゃうわ。
しかし釣られてそのブレスレットを眺めると、確かに奇麗ではある。シンプルな銀色のブレスレットが細い手首で揺れている。薄暗い裏路地にあっても何故かはっきりと見える。不思議な金属で作られているのであろう。
う~ん……創作意欲が湧いて来るな。成穂さんのスパルタ修行によって俺も鉄に関しては一家言あるのだ。
「……それでは行きましょう」
「そう云えばどこに向かうんだ?」
流され系主人公の俺としては知らぬまま目的地に向かうのも一興なのだが、ここは漢として物見遊山ではいかんと今更ながら思いついたのだ。
「それは――」
「へへへ、ちょっといいかお嬢さん方」
突然、来た方向から声を掛けられた。来た方向、つまりは袋小路の入り口兼出口である。
見ると無精ひげに汚い服、しかし丈夫そうな革の鎧を着た屈強な男達がそこに居た。
うーむ、これはテンプレの予感。




