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安アパートと宇宙船  作者: 世も据え置き
第十一章  アクションシーンは巻き込んで
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第一話   俺氏、ホモとは何かを考える①

少し再開

 女子会には奇妙なメンツが集まった。

 先ずは俺。もちろん美少女。それに……え、それは何故かって?

 

 俺の住む四畳半の安アパートにある押入れに存在する、高級そうな木目の扉。そこからは成穂さんが作った通称、女子会部屋に繋がっている。その中は高級マンションのような、どこぞの洋館の一室のような日当たり良好な部屋に通じている。

 その部屋は男が入ると女になる。理由は字の如く『女子会部屋』であるからだ。

 

 その為今の俺は、きゃぴきゃぴの女の子の姿である。

 そして何時ものメンツ。仲良し中学生トリオの由紀ちゃん、弥生ちゃん、静流ちゃん。そして静流ちゃんのお姉さんの撫子さん。何故か由紀ちゃんのペットのチャッピー。彼も今はきゃぴきゃぴだ。

 そして――

 

「あらこのお紅茶美味しいわ~」

 そこに店長が変わらぬ姿で居た。何時ものゴツイ店長だ。ここは成穂さん謹製の女子会部屋。あらゆる例外はない筈である。

 いや、店長も変わっているのかもしれない、とある体の一部が……つまり、凸が無くなっているのかもしれない。

 だが見た目には変わらない。確認? 想像するだけでおぞましい。

 しかし容姿は変わらねどその服装はフリルの付いた可愛い洋服なのだ。おお、なんとおぞましい。

 

 何故俺と店長が、この女子会部屋に居るのか。

 その理由は少し前に遡る。

 

 ***


「万引き犯がいて困ってるの~」

 店長の何気ない会話の中の一言だった。

 店を開けて少し過ぎた頃。一番客が少ない時間帯。

 何時もの様に勤めているアダルトショップでレジを任されていた。客が居ないと手を動かす必要もない、しかし居なければならないレジ番というのは退屈なものなのだ。

 だから俺は暇なのでと、店長を暇つぶしと言う名の雑談に誘ったのだ。

 

 そんな時に告げられた事実に俺は意外性を感じた。


「その怖いもの知らずはホモなのでしょうか?」

「どういう意味よ」


 *


 因みに、俺は一度だけ万引き犯を捕まえたことがあった。

 そいつは反省もなく逆に「人権侵害だ」と喚くような奴だったのだ。

 俺はもちろん腹を立て、奴を警察に突き出すつもりで受話器を取るため席を立ったが、しかし――

「あらいい男」

 そんな声が背後から……。

「て、店長……」

 聞きつけてやってきた店長は俺からそっと受話器を奪い取ると、

 「ココは任せて(ハート)」

 と言って、万引き犯を店の裏に連れて行ったのだ。無論万引き犯は抵抗したが、その豪腕の前にはなすすべもなく。

 ……それきり奴の姿を見た事はない。

 

 しかしあの時、確かに俺は聞いたのだ。店の奥から、断末魔とも違う、形容しがたい悲痛な「ぬほぉ」という叫びを……。

 ホモってなんじゃろ。俺の脳裏に唐突にそんな考えがよぎった。

 

 *

 

「最近は少なくなったのよ、これでも」

 俺はその声で、封印すべき記憶の底から意識を何とか這いあがらせる。

「……俺は気付きませんでしたね」

 在庫の確認などは、最近は成穂さんに任せきりだ。仕事が早く完璧なのだから、間違えたりする俺より適任だろう。店長も同じ考えである。

「でも成穂ちゃんが居る時は大丈夫みたいなのよね~」

 それはそうだろうな、と思う。あの自称宇宙戦艦の目から逃げられる万引き犯など存在しないだろう。

 

 

「何か対策は考えているんです?」

「う~ん……あんまりお金は掛けたくないのよねえ~」

 店長はシナを作って頬に手を当てると考え込む素振りを見せた。

 

 だがしかし。

「三人寄れば文殊の知恵。この際だから皆から意見を貰いましょう」

 そう言って笑う店長の顔には、ありありと企む様子が見て取れたことに、俺はその時は気付かなかったのだ。

 

 

 ***

 

 

「それで皆に意見を聞きたいのよ~」

 この部屋で唯一可愛らしくない店長が、この部屋で最も可愛らしい仕草で尋ねる。

 

 そういう理由で今、俺と店長は、お馴染みの女子会メンバーに囲まれているわけだが。

 

「どうして、こいつら……ではなく、彼女達に聞くんですかね?」


 俺の意見など気にも掛けず、チャッピーを含む全員が、万引きの対策に頭を捻っている。みんな真面目だなあ。

 

「素直に警備会社なんかのエキスパートに頼めばいいんじゃないですかね」

「馬鹿ねえ、幾ら掛かると思ってるのよ。最近は売り上げも上がっているとはいえ、私の店にそんな余裕があるとでも?」

「ないんですか?」

「一人首にすれば警備員を雇ってもトントンに出来るけれど……」

「俺も考えます」


 不味い藪蛇である。

 間違いなくバイトである成穂さんより俺の方が要らない子である。

 彼女は力仕事さえこなすので、まさに首を切るのは俺からという事に今更気づいたぞ。

 

「監視カメラを置いたらどうですか!」

 由紀ちゃんがナイスアイディアとばかりに目を輝かせる。

「もうあるわ。まあほとんどフェイク、偽物だけれど」


「自動でお掃除してくれる……そうル○バの上に、警備員さんの恰好をさせたマネキンを載せて店内を動き回らせるとかどうでしょう?」

 静流ちゃんがウンウン唸ってだした案は、成程かなり突拍子なものである。この子は不思議ちゃん属性でもあるのだろうか?

「……ユニークではあるけれど、万引き予防としては……ねえ。効果はちょっと……ねえ?」

 俺に振られても困る。


「店から死角を無くすように、棚を配置し直してみてはどうでしょうか?」

 流石撫子さん。流石大学生。非常に現実的で理にかなった提案をしてくる。

「それはアリね。でもそんな余裕のある広さじゃないから、商品の品数を減らす必要が出てくるから……悩ましいわ~」

 うちの店は雑居ビルの一階。地方によくある二階が住居の長屋のようなビルだ。都会のソレよりは広いだろうが、商品がみっしりと詰まった店内では中々難しい。


 そうして、そこで案は途絶えた。

 

 

「……」

 沈黙が下りる。俺はもちろん考え中。本当ですよ? 考えている振りではありませんよ?

 

 ちらりと周囲を伺うと、成穂さんと若葉ちゃんは静観の構えを取ったままである。

 頼むよ二人とも、このままでは俺の働き口が無くなってしまうんです!

 

 

 そう云えばまだ、沈黙したままの人物が二人残っている。

 一人はもちろんチャッピー。

 彼(今は彼女?)は考える振りをしているが、口には先程までは無かったクリームがべったりと付いている。まあ普段犬だしね。甘い物食べさせてもらえないしね。可愛いけどね。

 しかし、こいつを店長に見せてもいいのだろうか? まあ今のチャッピーはこの部屋の不思議力で元気な小学生だ。犬とは思うまいし、かまへんかまへん。

 

 

 もう一人はつい最近騒動を起こした人物。かしまし中学生トリオの一人。弥生ちゃんである。

「……」

 今彼女は優雅に紅茶を啜っている。考え込んでいる様子もなく、しかしその余裕ぶりが気になった。

 

「弥生ちゃんは何かいいアイディアあるの?」

 そう聞いた。皆が考え込む中(一部除く)そんな態度取っていたらそりゃ気になるってものだ。

 俺はそんな気持ちで、何気なく聞いたのだ。聞いてしまったのだ。

 

「そんな奴ら、見つけ次第殺せばいい」

 皆が沈黙した。だが今度の沈黙はさらに重い。そりゃそうだ、あの大和撫子風の弥生ちゃんが危険発言だ。

 俺は彼女に話題を振った自分を呪うと同時に、今の弥生ちゃんが弥生ちゃんではない事に気が付いた。

 

「ど、どうしたの弥生ちゃん? 何か嫌なことでもあった?」

 切り込んだのは由紀ちゃんだ。流石トリオのムードメーカー! この空気を打破する力を持っているぜ!

 

「何を可笑しなことを。盗人に慈悲はないだろうに。我は機嫌で罰を揺らがすことなどせぬ」


 はい続いていましたこの事件。

 弥生ちゃんは俺が打った刀に憑いた、自称神に憑かれてしまっているのだ。名前はヨロさん。命名理由は『夜路死苦』と彫ってある刀だからヨロさん。安直である。

 そんな彼女を、成穂さんも若葉さんも実害はないとそのままにする事にしたらしい。静観の構えを崩さない。

 何故だろう、いつの間にか弥生ちゃんの髪が赤熱した鉄の如く真っ赤に染まっている。

 この部屋は女体化だけでなく、その内面まで反映させる力があるのだろうか? じゃあ今の俺が可愛い小学生のは内面が可愛いせいだったのか⁉

 

「ホントにどーしたの弥生ちゃん!」

 由紀ちゃんは、変になってしまった友人の肩を激しく揺さぶる。

 その物怖じしない性格、お兄さん嫌いじゃないぜ。

 

「……ふぇ⁉ な、なんだ由紀……済まない、今日は寝不足なんだ。で、何の話だったか?」

 それは、ほんの今まで本当に居眠りをしていたかのようなリアクションだった。

 そう応える彼女の髪は、濡れたような黒髪に戻っている。何時もの弥生ちゃんだ。

 

「……弥生さん、変な寝言を言ってましたよ」

 静流ちゃん、それはマジで居眠りしていたと思っているという事かい? 髪の色には触れないのかい?

 

「本当に大丈夫?」

「ああ、はい。最近時代劇小説の読み直しをさせられ――していて寝不足で……」

 撫子さんにそう返した。が、これは間違いない。ヨロさんが夜更かししているのだ。

 しかし体は一つ。弥生ちゃんの負担は大きいようだ。

 うーむ、これは宜しくない。ヨロさんだけに。

 冗談ではなく、俺には彼女を巻き込んでしまった責任がある、筈だ。

 

 

「これ以上迷惑かけるなら問答無用で消してもらおうか」

 俺は独り言を呟く振りをしてヨロさんに釘を刺す。

 

 皆がキョトンとする中、弥生ちゃん、もといヨロさんが大きく動揺した。

 

「いや時代劇とは興味深い文学であってな、弥生に迷惑をかけるつもりは無かったのだが、つい夢中に……あいスマン」

「……いえ反省しているのなら。おじさんもありがとうございます」

「あれだったら本当に言ってね、責任は感じてるから」


 弥生ちゃんは無言でほほ笑んだ。少し隈の浮いた薄幸そうなその顔はそれでも美しい。あと可愛い。

 


「……なに? おじさんとアイコンタクトなんかして」

「あ、いやそういう訳ではないぞ、アレだ、おじさんに借りた本なのだッ!」

 ……そこまで否定しなくても、お兄さん悲しい。


 で、結局いい案は浮かばず、今日の女子会はお開きとなったのだった。

 

 不適な笑みを浮かべる店長をそのままに。

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