第四話 俺氏、中学生も悪くないな、とか考える③
「夜分遅くにご迷惑をお掛けしまして……」
夜路死苦と彫られた刀の神っぽい存在。それに操られていた弥生ちゃんは、正気に戻ってから開口一番そう述べた。
「記憶は大丈夫? はっきりしている?」
「ええ……はい。私も何故あんな事をしたのかは分りませんが……。
どうやら彼女はあの一連の珍事を覚えていて尚且つ、異常なてんしょんによるものだと捉えているようだ。
つまり自称神を名乗る中二病な行為を見られたのだと思っているらしい。
顔が真っ赤になっているのがその証拠だ。可愛い。
「『夜路死苦』っておもわず彫ってしまって……本当に申し訳ない」
慌てていたとはいえ、人様の物に落書きをしてしまった。あの高慢ちきな神様にイラッっとしていたのもあるが浅慮だった。
「あ、いいえ何故かその後は正気を取り戻すことが出来ましたので、はい、問題ないです」
「そう? あれだったら消すから言ってね」
「はい……ありがとうございます」
う~ん、気まずい。
なんだろう。凄い現象に立ち会えた筈なのに、妙に気落ちした気分になる。
神様と自称した存在が思ったよりも神々しくなかったからなのかもしれない。いやそれとも宇宙人に存在を看過されたせいだろうか。
神様も高度な科学力の前では只の精神体とやらに成り果てるのだろうか。諸行無常を感じずには居られない。神様方の今後の活躍に期待しよう。
「それで、その……あれは一体何だったんでしょう?」
そら気になるわな。体を何者かに操られるなんて、催眠術師の知り合いでも居なければ体験できないだろうし。
何度も言うが、成穂さん達は記憶を弄る解決法を、あまり使わなくなった。特に知り合いには使おうとしない。
俺もその変化は良い方向であると思っている。だからこの問題も自身で解決せねばならないのだ。
でも説明をどうしよう。
「えーと、あれは悪霊の類で……そう、そんな感じ」
「神様って言ってましたが……」
「えーと……自称、事象だから」
「はあ……」
誤魔化しようがないなあ。
そこで成穂さんが助け舟を出した。
「特殊な物質に精神体が宿るという事例は多々確認されています」
「なるほど……?」
そんな漫画みたいな説明では、弥生ちゃんが更に困惑していますよ。
いや中二病に目覚めたのならワンチャンありか!
「狐憑き……とかでしょうか?」
「そうそうそんな感じ」
やはり弥生ちゃんは退魔系魔法少女の素質があるようだ。
今度、巫女服着てもらおう。
「まあもう問題ないみたいだし、遅くなったから送ろう!」
俺は何時もの様に全てをぶん投げることにした。
「そ、そうか……お、送り狼になったら承知しないんだからな!」
おや? 急にどうしたんだい弥生ちゃん。お兄さん勘違いしちゃうぞ。
「まあ、我なら貴様ごときに後れを取ることもないが……ほ、本当にどうしてもと言うなら、まあ考えてやってもいい」
「き、君は誰だい?」
「何を言っておるのだ。先程まで命のやり取りをして全てを分かり合った仲ではないか」
「あれ、『夜路死苦』って刻んだのは?」
「思い直せばかっこいい」
「そうですか」
かっこいいのか。どうやら神様は特攻服マインドに目覚めたらしい。
「ちょ、なんで私勝手に喋ってッ」
「おう、弥生殿よ。我は暫くお主の元で世話になることにした」
「どうして、貴方は誰⁉」
弥生ちゃんが一人二役をこなしている。大変そうだ。
「おっと、まだ名乗っておらぬかったか……ならば名乗ろう。我は――」
「はいストップ」
「なんだ?」
「ここで有名どころの名前出されると後々問題になりそうだし。あと有名な神様だとがっかりするから」
「問題があるというのは、まあ理解できるが……がっかりするというのはどういう事だ?」
俺はどこにも喧嘩を売らない系主人公を目指しています。
「そういう訳で君の名前はえーと……夜路死苦だから、ヨロちゃんね」
「なんだ貴様ふざけてるのか?」
真面目ですがなにか? と声には出しません。怖いからね。
しかしこっちには用心棒で在らせられる成穂さんが付いているのだ。
「成穂さん、このちゃらんぽらんな神様を天にお返しして」
「天に返す、の意味が測りかねます。ですが遠くに移動させるというのであれば、直ちに数次元先に吹き飛ばすことが可能です」
「ま、待て! 落ち着け怪異殿!」
パタパタと手を振り慌てた様子のヨロちゃん。しかし怪異殿って……まだ宇宙人を妖怪扱いしているのか。頭が固い神様だ。
「ご主人も妖怪扱いされていますよ」
いやいや、そこは上司が部下の責任を負うっていう意味だよ。だから違うよ、僕は妖怪じゃないよ。
「お、おじさん。これは何とかならないのかっ、っていうか何でそんな冷静なの⁉」
う~ん……ここまで巻き込んでしまえば誤魔化すことも難しい。
仕方がない。我々の正体を明かす時が来てしまったようだ。ああ本当に仕方がない、仕方がない。
さあやって参りました。ヒーローがその秘密を明かし、ヒロインがキュンとするあのお約束のイベントが!
もちろん弥生ちゃんは大和撫子系美少女。不満なんてこれっぽっちもない。
歳の差なんて問題ないと、芸能人もマスコミも無言で証明しているしな。
しばし神妙に沈黙した後、俺は語りだす。
「……弥生ちゃん」
「は、っはい!」
フフフ、俺の突然のシリアスモードにときめいているな。
「俺は実は……人間なんだ」
「……はい」
「……」
あれ? そう云えば俺は普通の人ですね。普通じゃないのが側にいるだけだ。
どうしよう。
いや、俺の打った刀のせいでこうなったのだから、その線で行こう。
「さっきのは置いといて……実は俺、神を降ろせるんだ」
「ッ……そ、それは」
「フフフ」
「それじゃあこの私の『中に居る人』を何とか出来るんですか!」
「……出来ません」
弥生ちゃん絶句。
絶句しつつも「中の人とは何だ! 我は神ぞ!」とか独り芝居をしていてカオス。ちょっと面白い。
「ど、どうしてくれるんですか‼」
「本当に申し訳ない」
「申し訳ないでは済みませんよっ‼」
掴みかかりつつ「神降ろしの巫女として誇りを持て」とか言ってる。カオスっす。
これはもう名裁きに期待するしかない。
「成穂お奉行様、助けてくれ」
「はい」
簡潔上等だぜ!
「弥生さん、ヨロさん」
「っはい!」
「なんだ?」
「仲良くするように」
「「……」」
これで一件落着。
***
あの後、それでお疲れ様っという訳にもいかず、若葉さんのジト目を受けて説明することになった。
成穂さんと若葉さんは宇宙人で、ひょんなことから俺と一緒に住むようになった事。その力で刀を修復した事などだ。
憑いた神様は成穂さんが言うには余り弄らない方がいいらしく、本当に「仲良く」が最善らしい。
無理に剥がすことも出来るらしいが、そうすると弥生ちゃんは一から再生しなければならないらしく――
「け、結構です!」
とはっきりと答えていた。
ヨロちゃんは現代の学生生活を満喫しつつ、俺達が鬼道に落ちぬように監視するらしい。
「この〝ぷりん〟とやらのお代わりをくれ」
と既に堕落モードである。
で弥生ちゃんはと云うと――
「成穂お姉ちゃんが宇宙人だなんで……でも綺麗だったら納得します。若葉ちゃんも可愛いですし」
「「機動艦です」」
とまあ、すんなり受け入れてくれた。
並べて世は事もなし。特に変わりなく、安アパートには日常が戻ったのだった。
……はて、日常とは何だろう?




