第四話 俺氏、中学生も悪くないな、とか考える②
人心地着いた俺は再度、弥生ちゃんに問いかけた。
「キモイってだけで殺すのはないと思うよ」
「だ、っだまれあやかしっ! 隠そうとしても我は誤魔化せんぞ。……っく、離さんかこのあやかしの手下め!」
「あやかしって……」
何を言っているのか分からない。
とうとう弥生ちゃんも、齢相応の病。あの『中二病』に罹ってしまったのだろうか。
「あやかしって……退魔系魔法少女?」
「何を訳の分からんことをッ‼」
「弥生ちゃん……お兄さんは黙っていてあげるから、そういうのは人前でやっちゃ駄目だよ。後で後悔するから……」
目を閉じれば思い出す。妄想日記を友達に見られたあの時を……。
「くそうっ離せッ! 一太刀入れさえすれば、貴様等なぞ瞬く間に調伏しておろうにぃ」
駄目だ、魔法少女になりきってる。
「どうしたらいいでしょう」
俺はちゃぶ台前で豆入り番茶を啜っているロリっ子に振った。
彼女もまた中二病に苦しむことになるだろう一人。先駆者の苦悩を知るのもいい薬になるさ。
「その刀に高次元精神体の末端が宿っていますね。時折あるんです。こうして下位の世界にちょっかいを掛ける場合が」
「なるほど」
『こうじげんせいしんたいのまったん』ってなんだ? 新しい設定?
「設定ではありません」
成穂さんからナイスフォロー。
どうやらこの状況。以前起きた事件。弥生ちゃんの友達、静流ちゃんのお姉さん。高城撫子さんが巻き込まれた、宇宙人の物品がやらかした事件に似ているらしい。
「しかしまた何で急に?」
「ご主人が真面目に仕事をしたからです」
いい事じゃん。
「そのお陰で只の錆びた金属が、高次元に干渉さえ可能とする、所謂アンテナの役割を果たすまでに昇華したんですね」
「なるほど」
つまりどういう事だ?
「分かり易く言うと〝神降ろし〟を可能にしたんです」
あーファンタジー……いや、これは伝奇小説ものか?
「神降ろしって……じゃあ弥生ちゃんは神様?」
「まあ、自称というか事象です」
どういうこっちゃ。
「ぐぎぎ……き、貴様ら……我を無視するなっ‼」
未だに神様は成穂さんに刀を摘ままれてプルプルと震えている……刀を離せばいいのに。いやアンテナらしいから出来ないのか。
「えーっと……神様? 何故善良たらんとする私が、神様に悲しくも切られねばならないのでしょうか?」
「よく言えますね」
若葉さん黙って。今はネゴシエイト中です。
「……貴様はその身に余る奇妙で膨大な力を持っておる……危険である。しかし神をも降ろす一振りを打った功績を鑑み、死後、我の列席に加えてやろうというのだ」
あ、これヤンデレってやつじゃん。
ヤンデレはいい。その過激で一途な愛は世のモテない男性にとって憧れである。
だがしかし、今の俺はモテ期に入っているのだ。成穂さん若葉さんと同棲し、近所の女の子がうちに通う現状は、まさにハーレム状態。
だがしかし。ヤンデレは嫉妬深さの代表格。もちろん一夫多妻を認めよう筈もない。
つまり、モテて更にハーレムを築いている俺にとって、ヤンデレは水と油の関係なのだ。
「う~んごめんね弥生ちゃん。君の好意は受け取れない。でも安心してね。君も直ぐハーレムの良さが分かるから、ね!」
「後この娘がお前をキモがっているから代わりに成敗してやるのだ」
……ああ……辛い、中の人が違くとも、本人に面と向かって言われるとこんなにも辛い。
「……あの神様? 何神様か知りませんが、弥生ちゃんは優しい子ですからそんな事言わないですし」
「この娘が言わないから我が代わりに伝えてやったまでよ」
ああ……辛い。はっきり言われても辛い。
「それでどうしますか」
「どうしますと言われても……」
成穂さんは今も無表情で刀の刃先を摘まんだ状態でいる。
「この刀に神様が宿ったって事なら……刀をどうにかすればいいんだよな?」
「はい」
「簡潔にどうも……」
さてどうするか?
つまりこの刀が神が宿るほどに気合が入っているのが悪いのだ。それなら、ある程度肩の力を抜けばよい。
アンテナだって言ってたよな。それならちょっとした事で受信出来なくなる筈だ。
「成穂さんはそのままでお願い」
「はい」
「どうするんですか?」
「こうする」
俺はプルプル震えている弥生ちゃんに近づく。手には馴染んだ道具を取り出す。汗と血のにじんだマイ道具。
「っく、なにを……‼」
「秘儀、一筆啓上!」
まあただ素早く刃の根本付近に文字を掘っただけだ。
焼入れして硬質化している筈の刀も成穂さん謹製のタガネは容易く表面を削り取る。
「出来た‼」
『夜路死苦』
「だ、っださ……っは!」
弥生ちゃんこと神様は己に芽生えた感情を押し殺そうとするも、既に遅い。
「神が宿る刀から神性を奪うということは即ち、ダサくすればいいという事だ! 神がダサいと思った途端、それは只の刀と化す!」
「そうなのですか」
「違うと思います」
そういうものだって。多分。
「し、っしまった!」
一気にダサくなった刀から神性は抜け落ちていく(ダサいのは神様もやっぱり嫌らしい)。それはつまり、神秘の存在の否定に繋がる。
「っくそう! ここで貴様を切って措かねば何時災いをもたらすか……」
「……どういう事だ?」
もしかして俺はいずれ闇落ちして、怒涛の鬱展開をもたらすのか……。
「この娘や周りの女子達よ済まないっ! 我の力が至らぬばかりにこの、不躾な目で乙女の柔肌を盗み見る変態を、討てなかった!」
違うよ。全然違うよ。それはきっと勘違いだよ。皆そんな風に僕を見ていたなんてそんなうそだよ。
「再び降臨したあかつきには、貴様の首をもらい受ける‼」
そうして神様は派手なエフェクトと共に天へと帰っていきました。




