表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
安アパートと宇宙船  作者: 世も据え置き
第十章 宇宙船と弥生ちゃんの憂鬱
73/89

第一話  俺氏、覚醒しない②

「あー疲れた」

 その後、結局皆でうちで夕食を食べることとなり、年下の女の子達に説教を受けることとなった。

 その日の夕飯はハムカツだった。付け合わせにお味噌汁と大根の煮物である。

 静流ちゃんと撫子さん姉妹はハムカツを食べた事がなかったかったらしく、興味深げに、でも美味しいと皆で平らげた。

 

 最近の成穂さんは経済的な食事を作るうちに、懐かしい料理を色々と試すようになった。

 他にもコロッケ、煮っころがし、果ては何処からか木の実まで集めてきてあく抜きをやっている。

 銀杏を拾ってきた時は大変だった。なんせ匂いが凄いのだ。

 

 とまあ食事の合間に説教されるという、なかなかに得難い体験は終始賑やかに行われた。しかしやはり疲れることは疲れる。俺ももう年かな。

 結局、成穂さんと若葉さんの俺への名称を変更させることは、由紀ちゃん達には叶わなかった。

 この姉妹は見かけ通り頑固なのだ。

 

 

「さて、風呂に入って寝ますかね」

 成穂さんが来てからめっきり夜更かししなくなった。

 日課の深夜徘徊も最近ご無沙汰である。

 これはやはり若い子が側に居るという、リア充な生活を送ることで、性癖が矯正されているということなのだろうか?

 だからモテる男はモテるのか? うーん、分からない。

 

「主、お客様です」

 俺の『リア充の性癖とは何か』という脳内会議を中断させたのは、成穂さんの来客を知らせる声だった。

 

「こんばんわ」

 玄関に顔を向けると、そこに居たのは意外な人物だった。

 

「あら弥生ちゃん。何か忘れ物?」

「いえ、そのお話があって……」


 何時もの凛々し気な顔とは違い、困り顔の彼女は、何かを言いあぐねている。そんな様子だった。

 

「まあまあ汚いところだけど座って座って。若葉さんお茶を淹れてくださいな」

「分かりましたが、汚いは余計です」

「言葉の綾ってやつだよ」

 座布団をぽんぽんと軽く払って着席を促すと、弥生ちゃんは素直にそこに正座する。この子は育ちがいいのだろうか、背筋を伸ばした奇麗な姿勢である。

 

「それでお話していうのは何かな?」

 皆が居る中でではなく、俺達だけの今になって話とは、一体何だろう?

 そういえば女子会の時も、夕食の時も妙に静かであった。物静かなタイプではあるのでそれほど気にしていなかったが、チャッピー像を上げた時くらいだろうか。今日彼女が笑ったのは。

 

「あのお話とはお願い事があって、しかし由紀達が居る場では言いづらく……」

 探り探りといった様子で話が続く。

「私の家は古い家で、その縁もありまして剣術をたしなんでいるのです」

「ああ、なんか似合いそう」

「あ、ありがとうございます」

 ポニテの女性剣士。袴なんて履いた姿は彼女の凛々しさも相まって抜群にかっこいいだろう。

「セクハラですね」

「ええ、そんな事ないだろう⁉」

 若葉さんは厳しい。いや俺より世間を知っているのかも……セクハラじゃないよな?

 

「それで……」

「あ、はい続けて下さいな」

「家には古い蔵があって、そこには珍しい骨とう品があるんです。あ、ほとんど大した物ではなくて、ただ古いだけなんですけど」

 なるほど……全く話が見えてこない。

 

「最近おじいちゃん……祖父が蔵を整理したらしくて、珍しく自慢してきたんです。眠っていたお宝を研ぎに出したって」

「それは……」

 ここでようやく俺は彼女が何を持って来ていたのか見当が付いた。

 弥生ちゃんは俺の言葉を遮るように、大きく息を吸った。

 そしてこう切り出したのだ。

 

「折ってしまった刀の修復をお願いしたいのです」

 後ろから取り出した、細長い布に包まれた一振りの刀。

 彼女はそれを前に俺に大きく頭を下げた。

 

 *

 

 弥生ちゃんが語った話は、若い頃には「あるある~」な、失敗談であった。

 

「おじ、祖父が自慢げに見せたその刀を見て、どうしても握りたい衝動に駆られたんです」

 俯く少女の目線は、袋から出され、そのぽっきり刀身の折れた刀に注がれている。

 

「それで、床の間に飾ってあったのをこっそり拝借して……二、三振りしたら返そうと思っていたんです。でも……道場で……」

「ぽっきりやってしまったと」

「……はい」

「ご主人は本当にデリカシーのない人ですね」

「……傷付くからヤメテ」

 事実を言っただけのなのに。駄目なのか……。

「いいんです……私が馬鹿だっただけなので」

 う~ん随分落ち込んでいるな。


「えーと、これってそんなに高いものなの?」

「多分……値段は分かりませんが、室町時代の武将が佩いていたと自慢していました。眉唾ではありますが……」

 室町時代って何時の時代だっけ?

 

 そこでじっと刀を見ていた成穂さんが口を開いた。

「測定によるとこの金属が加工されたのは628年前です」

「南北朝時代の末期ですね」

 ふーん……。

「……高そうだな」

「ううっ」

 まあこれは「折っちゃいましたてへぺろ」って訳にはいかないわな。

 

「つまりこれを俺の知り合いに直して貰いたいと」

「そうです。お金は幾らでも払います! ……今はありませんがバイトでもして必ず払います!」

「う~ん」

 どうしよう。

 

 俺は知り合い兼、製作者兼、デザイナーの成穂さんを盗み見る。

 彼女はこっくりと頷き返す。

 つまり成穂さんにはこの刀を直せるらしい。

 しかし、しかしである。

 

「刀って折れたものをつなぎ合わせて『直した』と言えるものなのか?」

「それは……」


 金属同士をつなぎ合わせるだけなら現代技術で可能である。

 溶接なり一旦溶かして成形するなり、色々手段があるだろう。

 しかしそれでは蘇るのは形だけだ。

 刀匠が何度も鉄を打ち、返し、研ぎ、そうした鍛錬で刀は出来ている。

 それを今の技術で直すということは、刀ではなく鉄の塊に戻すということに他ならないだろう。

 

「出来ますよ」

「「え」」

 驚きの声を上げたのは、俺と弥生ちゃん。そして驚きの声を上げさせたのは、成穂さんだった。

 

「ほ、本当ですか⁉」

「はい」

 簡潔。

「成穂さ……成穂お姉ちゃんっ、あ、ありがとうございます‼」

 ちょっと待って成穂さん。俺の独白聞いていました?

 成穂さんは俺の心配をよそに、刀を受け取って安請け合いをしている。

 

「大丈夫ですよご主人」

 側には自信満々の表情の若葉さん。

 不安だなあ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ