第一話 俺氏、覚醒しない①
「つまりご主人には超常の力があるのです」
俺は今、若葉さんに説教をされている。何故なのか分からない。
「だからですね、あの男女逆転現象を起こしたのはご主人なのですよ」
「そんな馬鹿な」
とは言いつつ俺は興奮を隠しきれなかった。
俺は鈍感系主人公ではないし、権力にも金にも興味はない風に過ごす、すかした系主人公でもない。
欲に塗れて主人公に討伐される三下人間である。
それであるからあの現象を起こしたのが自分だと言われれば素直に調子に乗る。
あれは世界を、もしくは国を、もしかしたら町内限定、いや知り合い限定の現象だったのかもしれないが、現実に干渉したのだ。
つまり俺は神になったのだ。
「俺そんな力がある訳ないよな~そんなね~、偶然でしょ~」
「……こいつ完璧に調子に乗っているのです」
いや、そんなことはないよ。俺だって博愛精神はあるよ。しょうがないなあ、若葉さんは右腕ってことで良い地位に置いてあげよう。
「……ぺっ」
こらこら女の子がそんな態度を取って駄目だよ。
俺はにっこにこである。
「それじゃあ早速……お金よ出ろっ‼」
俺の中の力が手の平に集中して、目の前に具現化する。そして札束が……。
「でない……」
手の平からは、札束どころか紙切れ一枚も出ることはなかった。
「あ、ちょっと手の平が熱くなった気がする」
「意識したところの血行が良くなるのは普通の現象です」
「あ、成穂さん」
あなるほさんか。ちょっと興奮して体が熱くなるな。
「主の力はそういうものではありません」
「そういうもの?」
「今の主が力を行使しても、自分自身も変化に気づかない。そういう力です」
俺が行使した能力。成穂さんが説明したことをざっくり整理すると。
・有り様を変える力である。
・その力は俺自身も巻き込まれる。
・あとよく解らない。
・自分達も巻き込まれかけたから制限した。
ということだ、て待って。
「制限ってどういうことです?」
「不完全な力の行使は歪みを生みます」
「う~ん……それは何となく分かる。天変地異が起こったりするんだよな」
「遊んだ後片付けられない子供は玩具を取り上げられる、ということです」
「え、それは酷いんじゃない?」
これから俺は、超能力を使う正義の主人公として新展開を迎える筈だったのに。
「じゃあ目覚めたパワーは?」
「お預けです」
「ああそんな簡潔な……」
アメコミ展開はこうして封印された。
*
「モテモテのお金持ちになれる力を手に入れたと思ったんだけどな……」
いやまあ、お金はあるんだよな。金塊があるし。まあ換金する手立てが無いので漬物石にしかならない。
モテてはいるんだよな。今も成穂さんと若葉さんが同居しているのだ。
それに今日も女子会の面々が、押入れに繋がる部屋で、お茶会と称してお菓子を摘まみつつ盛り上がっているのだ。
以前作られた押入れの部屋はそのままになっている。
成穂さんが作った、不思議空間の豪勢な部屋。
大きさも立地からして不自然な、安アパートから続くその異常な空間は、しかし周囲から異常だと思われない。
俺が無意識に使ってしまった能力に似ている気がする。
そこは非常に居心地が良いらしく、何時ものメンツで集合するのが日課となっている。
メンバーはうちの宇宙人コンビと、由紀ちゃん、弥生ちゃん、静流ちゃんの中学生メンバー。そして静流ちゃんのお姉さんの撫子さんだ。あと時々チャッピー。
男性を強制的に女性にする機能は、あの日以降は切られているらしい。らしいというのは俺はあの日しか女子会部屋に入ったことがないからだ。
「うう~ん俺も参加したい……でも女の子になるのはもうこりごりだしな……」
そんな悶々とした時間を過ごすのも飽きて、外へ散歩にでも行こうとした時、女子会部屋の扉が開いた。
「あの……おじさんに相談があるんです」
それはあまり接点のない少女。弥生ちゃんの女子会へのお誘いだった。
そしてそれがまた不可思議な騒動へと続くのだ。
「な~んて」
「んん?」
「相談事なんてないんだよね」
と由紀ちゃん。
ちょっと待て。これではまたタイトル詐欺になってしまうぞ。
「おじさんって結構付き合い長い、長くはないけどあんまり知らないからさ。それでこの女子お茶会にお招きしましたって訳ですよ」
女子お茶会ってネーミングはどうかと思うが。
なるほど、つまり俺は話のネタ、お茶のおつまみとして呼ばれたようだ。
それで今、俺は女性達の円に加わり一身に視線を浴びている。
今の様子はさながら取調べのようである。
成穂さんが音もなく、俺の前に紅茶を置いてくれた。
よし、落ち着け俺。年上の男である俺が、女の子に怖気づいてどうする。
「でさ、おじさんって何者なの? こんな素敵な部屋まであるしさ。どっかのリフォーム業者に伝手があるとか?」
おっといきなり身辺調査から始まったぞ。
うーむ……ミステリアスダンディとして生きようと志すこの俺に、秘密を明かせるわけもなく。
しかし本当に成穂さんのせんの……でなく情報操作は上手くいっているらしい。
こんな四畳半の安アパートに豪勢な一部屋が併設されているのは、俺が改装したお陰だと思い込んでいる。
改めて言うが、俺が借りている部屋は角部屋二階だ。
押入れの向こうは別の敷地で、月極商事の駐車場という立地である。
この女子会部屋は普通に考えるなら異常な間取りなのだ。
「俺じゃなくて、以前入居していた人がリフォームしていったんだよ、たぶん」
もちろん嘘で、押入れがただの押入れだった以前にも、由紀ちゃん達は俺の部屋を駄弁り場として利用している。
普通ならこんな話、信じる筈はないのだが。
「へーそうなんだ、なるほどね。おじさんが隠れ資産家なんじゃないかって皆で話してたんだけど、残念だな~」
とまあ、宇宙人マジックですんなり信じてしまう。
やはりこの力、失うには惜しいものよ……。
「前だってチャッピーのフィギュアくれたんだよ。金の凄い奴」
「ええ、そうなんですか⁉」
殊更驚いた様子を見せたのは弥生ちゃんだった。
刀を持った大和撫子のような風情の彼女はあまり表情を見せない。
だからその驚きようは新鮮だった。
「あ、ああ。知りあいにそういうのが上手い奴が居るからちょっと作って貰ったんだ」
「知り合い……ですか」
これはまあ嘘は吐いていない。
成穂さんは知り合いというか嫁だし、工作も上手いというかあれは成穂さんが加工した物だ。
「でも高いのではないでしょうか?」
「ああメッキ、メッキだよ。それも本物の金を使っていない奴」
これは大嘘である。
純金も純金。24Kである。中に空洞もないし、鉛も使っていないのにとても重い。
「そうなんですか……あ、由紀の家で見せて貰っていまして、とても可愛かったので」
頬をほんのり染めて俯く弥生ちゃんは可愛らしい。
そうだな、そうしよう。
「それならあげようか? 沢山作って貰ったし」
「いいんですか?」
「材料が余ってるって言うんで作った物だから結構あるんだよ」
実は結構どころではなくある。今は成穂さんの船に置かせてもらっているが、一時は正に寝る場もない状況だった。
どうせならこの場に居る皆にあげようか。
「成穂さんや、持って来てはくれないかね」
俺じゃあの広大な宇宙船の何処にあるのか分からんしね。
あ、ちっさいやつね、手乗りくらいの。
「はい」
そう返事を返し、そのまま取りに行くのかと思いきや。
成穂さんは何処かに隠していたのか、テーブルに黄金のチャッピー像を人数分、四体置いた。
「ちっちゃくてかわいい~!」
「可愛い……」
「わあ……こんなに精巧なの見た事ないです」
中学生組が笑顔で顔を近づけた。
「……凄い。あの、持ってみても……」
あげると言っているのに、聞いてきた撫子さんは魅入られるように一つを手に取って眺めている。
フフフフフ、なんとこのチャッピー像。それぞれにポーズが違う、一点ものなのだ。つい全種類揃えたくなっちゃうね。
「じゃあ好きなの選んでくださいな」
「うう……迷ってしまう」
「ありがとうございます!」
弥生ちゃんと静流ちゃんは早速選び始める。
「私もいいの?」
「え、私もよろしいんですか?」
そう尋ねてきたのは由紀ちゃんと撫子さんだ。
「どうぞどうぞ、作り過ぎて困ってたところです」
どうせまだまだあるのだ。
四人はじっくり品定めした後、それぞれに気に入ったチャッピー像を手に取った。好きなチャッピーのポージングが被ってもめなくてよかった。全部のチャッピーが違う造形なのだ。
「まえに大きいの貰ってるのにいいの?」
「いいよ」
「ありがとう」
由紀ちゃんが手乗りチャッピーを字のごとく手に乗せてご満悦だ。
以前、チャッピー像を作った時、大きめやつを、肖像権料として相沢家に送ったのだ。
皆がチャッピー像の愛らしさに頬を溶かしている。凄いなチャッピー。羨ましいぞチャッピー。
とまあこんな感じで上手い事、俺への追及をかわしたわけである。
「成穂姉さまと若葉ちゃんの髪飾りっておじさんがプレゼントしたって本当?」
かわせてはいなかったようです。
「本当って……そりゃあ若い女性を預かる身としては、ご機嫌伺の必要もあろうよ」
焦って語尾が変な風になってしまった。
しかし女性は身だしなみをよく見ているものだなあ。
「打算的ですね」
弥生ちゃんは真面目である。
「もうちょっとオブラートに包んでもいいのでは……」
撫子さんからは大学生らしい建前を使えというアドバイス。
静流ちゃんはまだチャッピー像を眺めてニコニコしている。
「こんな事でおべっかなんて使っていたら、一緒に暮らすなんて土台無理だよ」
「まあ……そうかもしれませんね」
「嘘でもついて欲しい、そんな時も女の子にはあるんですよ」
そう撫子さんが成穂さんと若葉さんに話題を振る。
「嘘には情報が多分に含まれています。真実と同価値です」
「ご主人は嘘が下手ですから」
庇ってくれているのか、馬鹿にされているのかよく分からん。
この後、俺の『主』『ご主人』という呼び方の問題点について女子会は紛糾し、議論は踊り、日が暮れる頃にお開きとなるのだった。
書き溜めが枯渇したので不定期になります




